ユメカナイノ館

ホラー

第1回「しなコン!」ショート部門受賞作品

 夢を叶えてくれる館。あなたはそこで、どんな夢を叶えますか?

はじめにお読みください

  • 本作品は第1回「しなコン!」ショート部門受賞作品です。
  • 本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
  • 本作品は「こえコン!」関連イベントや公式配信での上演だけでなく、一般の声劇配信などでもご利用いただけます。なお、その際の利用規定に関しては「非商用利用時は連絡不要」となります。もし商用利用を検討される方は、作者の「栞星-Kanra-」様までご連絡ください。
登場人物

飯沼(いいぬま)

館の訪問者


レオ

館の主


ララ

双子の姉。見た目は十~十二歳


レレ

双子の妹。見た目は十~十二歳

シナリオ

 

――(上演開始)――


 

(ララ、レレ トランプゲームをしながら)


レレ

ねぇねぇ、今度はどうなるかな?


ララ

んー? どうなるだろうねー?


レレ

結局、一緒かな?


ララ

一緒なんじゃなーい?


レレ

変わらないもんねー


ララ

そうそう、変わらない、変わらない


 

(レオ、二人が遊んでいる部屋を覗く)


レオ

そろそろご到着のようです。 二人とも、準備をお願いします


レレ

(同時に)はーい

ララ

(同時に)はーい


 


(少し間を置く)


 

(飯沼、館の扉を開ける)


飯沼

あのー! すみません! どなたかいらっしゃいませんかー?


 

(無音)


飯沼

すみませーん! どなたかいらっしゃいませんかー?


 

(屋敷奥からララ、レレがパタパタと走って現れる)


ララ

あっ、お客様だ


レレ

本当だ、お客様だ


ララ

(同時に)いらっしゃい

レレ

(同時に)いらっしゃい


飯沼

えっ、えっと。 こんにちは? あの、君たちは……この館に住んでいるのかな?


ララ

そうだよ


レレ

住んでるよ


飯沼

二人だけで?


ララ

二人だけじゃないよ


レレ

もう一人いるよ


飯沼

お父さんか、お母さんとか……大人の人はいるかな?


ララ

いるよー


レレ

もう一人が大人だよー


飯沼

実は、気付いたらこの館の前にいて。 ここがどこなのか、どうやって来たのかとかわからなくて困ってるんだ。 だから、大人の人がいるならお話がしたいんだけど


ララ

わかった! じゃあ、ここで待っててね!


レレ

呼んでくるー!


飯沼

あっ、ありがとう


 

(ララ、レレ 館の奥へと戻る)


飯沼

……かわいいな 


 


(少し間を置く)


 

(ララ、レレ。 レオと共に飯沼の元に戻る)


レオ

お待たせしてしまってすみません。 書庫で整理をしていたものですから


飯沼

いえ。 こちらこそ、急な訪問ですみません。 あっ、私は飯沼(いいぬま)と言います。 実は、信じてはいただけないかもしれませんが、気を失っていて、気が付いたらこの館の――


レオ

(飯沼の言葉に被せて)ゆっくりしていってください


飯沼

……え?


レオ

いえ。 外は嵐です。 嵐が治まるまでゆっくりしていってください


飯沼

えっ、嵐? いえ、曇ってはいましたが、雨が降りそうな気配すらなかっ……えっ? ウソだろ……たった数分でこんなに天気が変わるはずがっ!


レオ

山の天気は変わりやすいと言いましょう。 それに、この館は一風変わった名を持つ館でして。 客人がよくいらっしゃるのです。 ですから、どうぞお気になさらずゆっくりしていってください


飯沼

変わった名前……? それは、どんな名前なのですか?


レオ

あぁ。それは――


ララ

(同時に)ユメカナイノ館

レレ

(同時に)ユメカナイノ館


 


(少し間を置く)


飯沼

あのー


ララ

あっ、飯沼さんだー


レレ

どうしたのー?


飯沼

いや、することもないし、お手伝いができたらなって


ララ

ほんと? じゃあ、一緒にカレー作ろっ


レレ

作ろ、作ろっ


 


(少し間を置く)



飯沼

いつも二人でご飯を作ってるの?


ララ

うん、そうだよ! ララの包丁は黄色で


レレ

レレの包丁はオレンジなの!


飯沼

へぇ、そうなんだ。 お揃い、可愛いね


ララ

(同時に)ありがとう!

レレ

(同時に)ありがとう!


飯沼

……ララちゃんに、レレちゃんって呼んでもいいかな?


ララ

(同時に)いいよー

レレ

(同時に)いいよー


飯沼

さっきの男の人は、二人のお父さん?


レレ

レオさんのこと?


ララ

レオさんは、お父さんじゃないよ。 私たちのこと、引き取って育ててくれてる人!


レレ

そう! 優しい人!


飯沼

そうなんだ……。 あっ、ごめんね。 言いづらいことを聞いちゃって


ララ

? 言いづらい?


レレ

なんで?


飯沼

えっ? いや、だって……その


ララ

(飯沼のセリフに被せて)あー! カレー粉なくなってたの忘れてた!


レレ

えっ? カレー粉って、倉庫から取ってこなきゃだよね? ……レレたちには届かないよ? どうしよ、レオさん、呼ぶ?


飯沼

カレー粉は、高いところに置いてあるの?


ララ

うん、そうなの!


飯沼

じゃあ、俺が取ろうか?


レレ

いいの? じゃあ、倉庫に行こ、行こっ!


 


(少し間を置く)


飯沼

二人を見てると、妹を思い出すんだ


ララ

飯沼さん、妹がいるんだー


レレ

えっ、何歳なの、何歳なの?


飯沼

いや、その……もう死んじゃってるんだ


ララ

そっか。 寂しいね


レレ

寂しいね


ララ

あっ、倉庫はここだよー!


レレ

ここの……あそこの上にあるやつが欲しい!


飯沼

よっ……っと。 これでいいのかな?


ララ

うん、これっ!


ララ

(同時に)飯沼さん、ありがとう!

レレ

(同時に)飯沼さん、ありがとう!


 


(少し間を置く)


レオ

飯沼さん。 ララやレレたちと一緒にカレーを作ってくださったそうで。 ありがとうございます


飯沼

あっ、いえ! こちらこそ、急にこんなにお世話になってしまって。 それにしても、ララちゃんとレレちゃんは本当に良い子ですね


レオ

そうでしょう。 ……私は仕事ばかりで構ってやれず。 それなのに、二人は家のことを率先してやってくれていて。 ははは、どちらが大人かわかりませんね。 ……飯沼さん。 よろしければ、また二人の相手をしてやってください


飯沼

はい、俺で良ければ


ララ

ほんとに?


レレ

聞いちゃったよ?


飯沼

わっ、ララちゃん、レレちゃん!


レオ

こら、二人とも。 客人を驚かしてはいけませんよ


ララ

(同時に)ごめんなさい

レレ

(同時に)ごめんなさい


レオ

よろしい


ララ

ねぇねぇ、飯沼さん! 一緒にトランプしよ!


レレ

しよっ!


レオ

ふっ。 遊ぶのはいいけれど?


ララ

(同時に)二十二時まで

レレ

(同時に)二十二時まで


レオ

よろしい。 あっ、ララ


ララ

ん? なぁに?


レオ

二十二時半になったら、私の書斎にコーヒーを持ってきてくれるかな?


ララ

うん、わかったー


 


(少し間を置く)


ララ

わーい! ララの勝ちー!


レレ

もう! ララばっかりずるいっ!


飯沼

ララちゃん、強かったね


レレ

ねー!


ララ

あっ、もうすぐ二十二時になっちゃう! お片付けしよ


レレ

お片付け、お片付けっ!


 


(少し間を置く)


ララ

よしっ! じゃあ、ララたちもお部屋に戻ろっか


レレ

うん! あっ、二十二時半になったらレオさんにコーヒー!


ララ

大丈夫! ちゃーんと覚えてるよ


飯沼

……あれ? 二人のお部屋はそこなの?


ララ

うん! お隣だよー!


レレ

お隣ー!


飯沼

そうなんだね……。 今日は色々とありがとう。 おやすみ


ララ

うん!


ララ

(同時に)おやすみなさい!

レレ

(同時に)おやすみなさい!


 


(少し間を置く)


 

(ララ、レレの部屋がノックされる)


レレ

? はーい! あっ、飯沼さん! どうしたの? 何かあった?


飯沼

あっ、ちょっと聞きたいことがあって。 ララちゃんはレオさんのところかな?


レレ

うん! コーヒーを持って行ってるよ。 入って、入って!


飯沼

ありがとう。 ……はぁ、やっぱり可愛いね


レレ

えっ? いっ!


飯沼

妹と一緒で、可愛いなぁ。 本当、女の子は可愛い……。 にこにこと笑っている顔も可愛いけど、そうやって怯えている顔も可愛いね……


レレ

な、なんで? 飯沼さっ! んっ!


飯沼

暴れちゃダメだよ。 顔は傷つけたくないんだ。 ほら見て? ララちゃんの包丁だよ。 嬉しいよね? 大好きなララちゃんの包丁でレレちゃんがもっと、もっと可愛くなるんだ


レレ

んー! っ! んーーー!


 


(少し間を置く)


ララ

ただいまー。 ……! レレっ? どうして真っ赤なの?


レレ

……に、げ……て


ララ

えっ? なんて? レレっ! 待ってて、レオさん、呼んでぐっ


飯沼

ラーラちゃん、お帰り。 どう? レレちゃん、可愛いでしょ?


ララ

い……ぬまさ……。 どうしっ


飯沼

あぁ。 俺はね、可愛い女の子が怯えたり、苦しんでる顔を見るのが好きなんだ。 初めては妹だった。 それはそれは……可愛かった。 それから、色んな女の子を、もっと、もーっと可愛くしてあげたんだ。 優しいでしょ?


ララ

な……。 へんだ……よ


飯沼

……なかなか実現しない夢があったんだ。 それはね……双子の目の前で、もう一人を殺して、それからもう一人を殺す。 きっと、どんな子たちよりも可愛い顔を見せてくれると思ったんだ


ララ

くる……てる


飯沼

そうしたら、ここにたどり着いた。 目の前に可愛い双子の女の子。 二人がそれぞれ使っている包丁。 倉庫でロープまで見せられたら、実現しなきゃいけない。 神が与えてくれたチャンスは逃しちゃいけないって思ってね


ララ

やめ……はなしっ……


レレ

ラ……ラっ……


飯沼

じゃあ、ララちゃん。 レレちゃんにバイバイって言おうか。 さいっこうの笑顔で! ほらっ!


ララ

っぐ!


レレ

ラ……ラっ!


 


(少し間を置く)


 

(レオがララ、レレの部屋をノックする)


レオ

ララ、レレ。 就寝時間はとっくに過ぎているはずなのに騒がしくしているね。 ……ララ、レレ? はぁ、開けますよ? っ! ララっ! レレっ! 大丈夫ですか! しっかりしなさいっ! っ! 飯沼さんっ! 二人に何をしたんですかっ!


飯沼

あははははっ! いやー、より可愛くしてあげたんですよ。 可愛いでしょう? ……あーぁ。 けど、俺は大人の歪んだ顔には興味がないんですよ。 芸術作品の邪魔だから出て行ってくれませんか?


レオ

……あぁ、そうでしたね。 そう書いてありましたね。 失礼。 時間の無駄ですね


飯沼

……はぁ? お、おいっ、一体何を言って――


レオ

D班、夢叶姫(ゆめかない)の館。 当件の審判は『問題なし』とします


飯沼

だから、何意味わかんねーこと言ってんだって聞いてんだよっ! 無視すんなっ!


レオ

あぁ、一つ教えて差し上げますね。 ユメカナイは、漢字で書くと、夢を叶える姫の館、なのです。 つまり、この館の主(あるじ)は、彼女たちなのですよ


飯沼

はぁ? なおさら意味わかんねーこと言ってんじゃ――っ!


レオ

では失礼っ!


 


(少し間を置く)


レオ

ララ、レレ。 終わりましたよ


レレ

わー、ベッタベタ! 最悪! またお風呂に入らなきゃいけないじゃん!


ララ

ララだって、クビにロープの痕、付いてるよ


レレ

レレなんて、あっちこっち切られた痕が付いてるもん! これで芸術とか、飯沼は美学の欠片もないよね


ララ

ほんとー!


レオ

こら、二人とも。 話しは後です。 お風呂に入ってきてください。 私はお部屋の片付けをしておきますから


ララ

(同時に)はーい

レレ

(同時に)はーい


ララ

あっ、そういえば、飯沼はどうなったの?


レオ

あぁ、彼でしたら、今頃、犠牲になった女の子たちと同じ体験をしていると思いますよ


ララ

自業自得だ


レレ

因果応報だね


 


(少し間を置く)


 

(飯沼、子供になる)


飯沼

……った! ここ、どこだ……? って、子供……に、なってる?


 

(見知らぬ女性との対話のため、少し間を置く)


飯沼

えっ? そうだけど……。 おばさん、誰?


 

(見知らぬ女性との対話のため、少し間を置く)


飯沼

いや、行かねーし! って、後ろの……それ……


 

(見知らぬ女性との対話のため、少し間を置く)


飯沼

っ! い……やだ……。 っ! 離せっ! 離せよっ! 俺は、そんな風に死にたくなんかないっ! 離せ――っ!


 


(少し間を置く)


レレ

で、次は?


レオ

次の対象者は、青葉(あおば)。四十歳、男性です。 母親の介護を長くしており、未婚。 夢は、女性にモテること


ララ

へぇー、親の介護だって! 妹を殺した飯沼も、ちょっとは見習えばいいのに


レレ

ねー。 でも、ここに来るってことは、どうせ青葉も相当なんでしょ


レオ

母親の介護に来た女性をストーカーして、何人も殺害しています。 彼曰(いわ)く、親の介護をされるなんて、優しい人なんですね、と褒められたことを、好意と受け取ったようです


レレ

典型的な


ララ

バカってことか


レレ

と、いうことは、次は二十台後半くらいの姿がいいのかな?


ララ

次はもうちょっと演技ができる時間が長いと嬉しいんだけどなー


レオ

それは、お二方の話の進め方次第かと


レレ

だって台本が一切ないのよ? 難しいわ


ララ

そうそう! それに私たちは


ララ

(同時に)ここで女優という夢を叶え続けているだけなのだから

レレ

(同時に)ここで女優という夢を叶え続けているだけなのだから


 

――(上演終了)――

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