大学生4人で結成された「禁足地倶楽部」。その主たる活動は、心霊スポットの実地調査である。
初の県外遠征に臨んだ彼らが、長野県山中の廃村「赤水村」の噂を調べる。
シナリオご利用上の注意
①本シナリオは営利・非営利問わず、どなた様の上演も歓迎いたします。 上演の際に、作者に連絡や許諾の申請は不要です。 また、上演するプラットフォーム上でのクレジット表記等も不要です。
②本シナリオは皆様のアドリブや効果演出を歓迎いたします。 ただし、以下の点にはくれぐれもご注意をお願いいたします。
・大きくシナリオの内容を改変するアドリブはお控えください。
・本シナリオはシリーズ展開のため、他エピソードの内容を多分に含んだアドリブはお控えください。(ネタバレになるため)
・上記を逸脱しない限り、アドリブやキャストの選択は自由におまかせいたします。
登場人物
心理学を専攻している大学三年生。行動的で饒舌だが、怖がり。 中学時代に母親が不審死している。
オカルトオタクの大学生。知識量は頼もしいが、テンションがうざい。 あまり人見知りしない、根明なオタク。
李月の中学生からの友人。陸上競技が得意。明るい性格だが、怖がり。 精神的に追い込まれると、口が悪くなる。
清楚な天然少女。危機予知能力があるが、それ以外はポンコツ。 『危険が迫ると笑ってしまう能力』のせいで、普段はあまり笑うことができない。
シナリオ
あー暑い・・・深夜といえども八月の酷暑はきついな・・・
自慢じゃないけど、こんなに歩いたのは一年ぶりくらいだよ・・・
有能な陸上選手には分からないだろうが、常人にはこの山道は過酷なのだよ
ミカ先輩が羨ましいです。私も運動は大の苦手ですから
そうでしょうか? そのせいで恥ずかしい思いをすることも多いですよ
危険が迫ると、勝手に笑ってしまうという能力か・・・虫の知らせなどESPの一種だと思うが、実に興味深い。脳科学と心理学の両見地から調べてみたいな
噂の廃村とやらは本当に存在するのか? 初の遠征で長野まで来たんだ。全部ガセだったなんて結末はやめてくれよ
でも困りましたね。そのハイソン? に着かないと、肝試しができないのですよね?
あー、笠原さん。我々は肝試しに来たわけではないんだ。心霊スポットに行くのは、特異的なロケーションにおける意識変容の要因を調査するためのフィールドワークなんだよ
ま、それは李月の目的であって、僕は普通に肝試しに来たけど
うるさい! とにかく、この看板の指す方に行ってみよう
赤水村。山の中腹にある小さな村で、廃村となったのは数十年前だとか
そういえば、ことっちにはまだ詳しく話してなかったよね。ごほん、説明しよう! この赤水村はオカルト界隈では有名な心霊スポットでね。村にいろんな異変が起きて廃村になったって噂があるんだよ
戦時中に建てられた謎の施設・・・相次ぐ子供の失踪・・・村内を徘徊する死者・・・どう? 最高にホラーでしょ?
最初は誰もがそう思ってたけどね。二年前、オカルトサイトにこの噂を現地検証するって書き込んだ奴が音信不通になって、すごい話題になったんだよ。自演だろって見方もあったけど、うやむやのまま。それから噂を信じる人も増えたってわけ
『最大の証明とは経験である』・・・まずは一通り探ってみよう
足場が悪いわね。どこもぬかるんでて、靴が泥だらけになっちゃう
何らかの作業で重機が通ったのだろう。一般の人にとっては、ここはただの廃村に過ぎないしな
何をおっしゃる。まだ謎の施設が残されているではないか
あ・・・茂みに隠れてて気づかなかったけど、確かに建物があるわね
すみません、突然・・・でもあの建物、あまり良くないと思います
分かりません。お伝えした通り、勝手に笑っちゃうんです。あの建物が良くないということだけは、分かるのですが・・・
ね、ねぇ? 琴乃もこう言ってるし、あそこに近づくのはナシにしない? 村の中も結構見たしさ、そろそろ引き上げても・・・
いや、あの建物はもっと調べてみたい。笠原さんの能力についても気になるし
私も大丈夫です。十分に気をつければ、まだそれほど危なくないと思います
・・・分かったわよ。ただし、危なくなったら速攻引き上げる。これだけは約束してよね
平屋の木造建築。草木に覆われてはいるが、建物自体の劣化は激しくないな
キャタピラね、笠原さん。・・・建物を取り壊す予定でもあるのだろうか
貴重なオカルト遺産を破壊するなんて、この僕が許さない!
建物の裏は・・・地面が大きく窪んでいるな。池が干上がった跡か?
ふふふ・・・そこの窪みには、あまり近づかないでください
笠原さん。能力が発現するとき、何か不快感を感じたりするかい?
ふうむ・・・心理的負荷が問題でないなら、恐怖反応とは異なるのか・・・何らかの条件刺激があることは間違いないが、それが笑いという反応を引き出す仕組みとは、一体ーーー
ドアが腐って崩れたのね。うう・・・ほんとに中に入るのか・・・
・・・トムキンスの説では、表情によって感情体験を制御することが可能だとか。笠原さんの能力は、笑いによって情動をすり替える防衛機能とも考えられるが、その場合は受容した外部刺激が負の情動を引き出すという予測が無意識化で行われていることが前提となりーーー
――三人、建物内へ入る。李月、後から三人に追いつく
このこと、覚えておくからな・・・。それで、中の様子はどうだ?
事務室とか応接室みたいな部屋ばっかりで、まだ何の施設か分かんない
だから謎なのさ。突然建設が始まって、最後まで何一つ説明がなかったって
そんな情報がこんなにたくさん? それってヤバくない?
お、これはちょっとだけ読めそう。なになに。『松代大本営において、この施設は最重要であり・・・形代には疎開学童を用い・・・地下水位の上昇と地震の関係は・・・』って書いてあるね
ほら、この辺一帯、松代って地名でしょ? 戦争中に日本の中枢機関をその松代に移す計画があって、それが松代大本営。実際に工事も進んでたけど、終戦によって未完成に終わったんだよ
あと、僕が気になったのは形代ってワード。神事とかで使う道具なんだけど、何でそんなのが登場するんだろ?
この部屋の資料全部に目を通すわけにもいかないな。一度外に出て、状況を整理するか・・・
はい・・・この建物が良くないのは、地下のせいですから
地下なんて、あるわけないでしょ・・・降りられる場所もなかったし・・・
は、はい。なんとなくは。えっと、ここを曲がって・・・ここです。この下です。この下が、良くないんです
嘘をつくな。明らかに何か見つけただろ。・・・ん? この床、取っ手が付いているな
ここを開けてくれれば、その後の調査はこちらでやるから・・・この通り、頼む
う・・・そんな風に言われたら・・・。もう! 分かったわよ! そこどいて!
あはは・・・その下・・・すごく良くないです・・・思っていたより、ずっと・・・
『ゆ、勇気とは、あえて危険をおかす能力であり、苦痛や失望をも受け入れる覚悟である』・・・絶好の好機じゃないか。恐怖体験の調査こそ、禁足地倶楽部の目的なのだから・・・
じゃあ、この梯子降りんの? さすがの僕も怖いってレベルだけど・・・
安土と笠原さんは、外で待っていてくれ。この先は、何が起こるか分からないから
ダメです。行くなら、みんなで行きましょう。そうしないと・・・多分、もっと良くないことになるから
うう・・・。約束は、守ってよね・・・。危なくなったら、すぐに逃げるって
松代周辺の地下坑道って全部一般公開されてると思ってたけど・・・どこに続いてるんだろ、この道
地下水脈でもあるのだろうか。もう少し奥まで行ってみよう
うん。足が滑っただけ・・・えっと、懐中電灯・・・ッ⁉︎(息をのむ)
大量の人骨と、ロウソク・・・何なんだ、ここは・・・
・・・どうやら、ここで何かしらの施術が行われていたらしい
人体の解剖図と・・・これは何だ? 形代造り指南? 『検体の胸を開き、絶命させず舟で流せ。死んだ検体は形代にならぬ。すぐ捨てよ。不滅の天皇陛下。その御霊呼び戻し奉る』・・・
さっき読んだ資料に、疎開学童を形代にしたって・・・
おそらく、それが『舟』なのだろう。生贄をここに流すための・・・
一緒に入っているのは・・・手帳か。失礼は承知で読ませてもらおう・・・『奴らは黄泉返りだ。ここは危険。戦争をやり直すため、俺もイケニエにされる。いやだ。死にたくない。マックのバーガー。すし。ガンプラ作りかけ』・・・ここで途切れているな・・・
この死体ってさ、もしかして二年前に消えた検証者なんじゃ・・・だとしたら、マジでシャレになんねーって・・・
『実験成果報告 一九六五年 成功零、失敗二百三十二。一九六六年 成功十二、失敗五百九十三。一九六七年 成功五、失敗三百九』・・・
さっき拾った紙に書いてあるんです。『同志が足りない。もっと増やせ』・・・何のことでしょうか・・・?
この施設は、おそらくまだ・・・これ以上は、危険だ。すぐに撤退する
な、なんで⁉︎ 帰るには、それしかないでしょーが!
仕組みは分からないが、琴乃さんの能力は正確だ。今は琴乃さんを信じよう
うう・・・。無事に出られたら、ラーメンなんかじゃ済まさねーかんな
ふう、ふう・・・なんだよ。結構きつい登り坂じゃねーか
昔から限界になるとああなる・・・本人も気にしてるから、気づかぬフリで頼む
み、みなさん・・・早く・・・早く進みましょう・・・良くないものが、来ます・・・早く、早く・・・
待った・・・何か聴こえるぞ・・・。地鳴りみたいな・・・
違う・・・この音・・・近づいて来る・・・あたしたちの、後ろから・・・
あはははは! あれに追いつかれたら、ダメです! 急いで!
はあ、はあ・・・。あの隙間なら、戦車は通れねーだろ・・・
げほっ、げほっ・・・はい・・・多分、もう・・・追ってこないと思います・・・
ひい、ひい・・・し、死ぬ・・・一生分、走った・・・
琴乃が居なかったら、終わってたな・・・んん(咳払い)終わってたわね
ちょい待ち・・・今、起きるから・・・・・・あれ? 揺れてる?
あははははははは! 今すぐ、そこから離れて! あはははは・・・そこだけは、ダメ! ・・・早く!・・・
――一同、窪地から離れる。地面の揺れが収まり、地中から先の装甲車出現する
色々調べてみたけど、これといった成果はなし。だから、これはあくまで僕の仮説だけど・・・あそこは死人を黄泉返らせるための研究施設だった。天皇が戦争で死んでも、復活させるためのね。その研究の犠牲になったのが、あの村に疎開した子供だった
でも、あそこは戦争が終わってからも研究を続けてたみたいだったわ
多分、目的が変わったんだよ。松代大本営の計画には、終戦反対派の人たちも関わってた。そういう人たちが、終戦後もあそこに残って研究を続けて、成功させた・・・黄泉返りの軍隊を作って、戦争をやり直すために
ま、あくまで僕の仮説だけどね。でも、あんな装甲車も出て来たし、あり得る話かなって
オカルト的に考えれば、冥界との境界ってとこだろうね。生贄を流せば、あそこから死者が帰って来る。そういう仕組みなんだろう
さあ・・・仮にそうでも、ハッピーエンドとは言えないかもね。地下でことっちが実験記録を見つけたでしょ? その実験時期と、過去に松代周辺で起きた群発地震の時期とが一致するんだよ。地震が実験のせいだとしたら、黄泉返りは相当な数になる。松代の群発地震は、一九七〇年までに数十万回発生したから・・・
あの建物が戦時下で非人道的な実験をしていたのは、間違いない。だが、あの日起きたことが、そのような超常現象だったとは思わない。あれは、意識変容の幻覚だ。我々はあの時、共通の外部刺激を受容していた。全員が同じ幻覚を同時に見たのは、そのせいだろう
人間の心理は、脳は、条件次第でそれを可能にしてしまう
それについてはまだ確証がないが、やはり人間の脳が持つ機能だろう。その仕組みの解明には、もっと調査が必要だけどな
オカルティズムを鵜呑みにしてどうなる? それでは、人はいつまでも恐怖の奴隷じゃないか。それを克服する方法を見つけるには、あんなのが現実じゃいけないんだ
・・・ま、考え方は人それぞれってね。僕は自販で飲み物買って来るよ
ねえ、李月・・・あんた、やっぱりお母さんのこと・・・
・・・母さんは、何かを見ていた。それにひどく怯えて・・・死んだ。一体、何を見ていたのか・・・どうすれば、救えたのか・・・。その答えを見つけたいんだ。オカルトじゃ、人は救えないから。だから俺は、もっと知らなければならない。人間の心理の深淵を
禁足地倶楽部の活動をか? ・・・もちろん、続けるさ。調査のためでもあるし、それに・・・
そっか・・・うん、あたしも一緒にやるよ。あんまり役には立てないかもだけど・・・いいでしょ?
ま、いいよ。その代わり、今後はもっと役に立つんだぞ
李月もさ、ちょっと意地張りすぎなんだよね。事情は分かるけど
みなさん、色々と大変な思いを抱えていらっしゃるのですね・・・
私には、オカルトとか意識ナントカとか、難しいことは分かりません。でも、あんな風に人が死んじゃうのは、良くないと思います・・・だから、そういうことが起きないように、みんなで仲良くできればいいなって思います
ねえ、みんなお腹空かない? お疲れ会で焼肉でも食べに行こうよ
決まり! あ、お金の心配は大丈夫。全部、李月の奢りだから!
禁足地倶楽部 第一話 赤水村の噂 完