前を向くことは、誰にでもできる。
タイトル
ネイキッド
作者
瑞田多理 (@TariMizuta)
ジャンル
現代異能 ヒーロー リーダー
上演時間
約40分?
男女比
男1:女1:不問3
登場人物欄の説明
演者の性別:作中の性別 年齢などの属性
となっております。
ジュン
男性:男 27歳
・本作の主人公(?)ゲームとありとあらゆる配信を見るのが生きがいの引きこもり。
・ニノミヤ以外の人間とは殆ど喋らないので、ニノミヤ以外との会話は基本的に挙動不審。
・レゾナンスによって引きずり出されたネイキッドとの二重人格
ネイキッド
不問:不問 年齢なし、お好きなように
・本作のヒーロー(?)上裸にカーキ色のトレンチコート、ジーパンという変態ルック
・「行き場を失った人」の前に現れては立ち直らせる、謎の怪人
レゾナンスが引き出したジュンの本質の、一側面。
・「このままではダメだ、前へ進まなければ」という強迫観念の具現化でもある。
ユミエ
女性:女 23歳以下
・本作のヒロイン(?)雑居ビルから飛び降り自殺を試みたところをネイキッドに(無理やり)救われる。
・レゾナンスに引き出された本質は、「人の矢印を見る」こと。つまり人の欲望や渇望を視覚として見ることができる。その本質が、人の本性を剥き出しにしたことで彼女は追い詰められた。
ニノミヤ
不問:不問 27歳以下
・本作のバディ(?)引きこもりのジュンを家事やら家計管理やらで支えるフリーのITエンジニア。上の中くらいの腕前。
・レゾナンスに引き出された「超共感覚性」によって、聞かなくてもいい人の声が聞こえてしまう。
・ニノミヤが聞きたかったのは、本当にただ一人だけの声だった。ずっとそばに居たけれど、それに応えられたことは一度もなかったが。
レゾナンス
不問:不問
・本作のヴィラン(?)謎の多い配信者。ネイキッドが活躍するたびに、ジュンに言わせれば「お気持ち表明」とでも呼ぶべき配信をする。
・レゾナンスはいつからか「人の本質を引きずり出す力」を持っている。その突出こそをレゾナンスは「自由」と呼ぶ。
・その力の、本当の本質はレゾナンス自身に「本当に何もない」ことにある。水が低きに流れ落ちるように、ありとあらゆる才能はそこに向かって流れ出す。
・持たざるものは、それを試すための相手すら持っていなかった。故にインターネットを頼った。そして一人の、どうしようもない配信中毒者にそれを試した。
ネイキッド
「そりゃあ、……つれぇこともあるよな。いろんなことにがんじがらめにされて、右を向けって言われたら右! 左って言われたら左! でもそっちに何もなくったって……悪いのはお前だもんな」
ネイキッド
「だけどよ! そんなところから一歩踏み出して、一体どこに行くつもりだよ!」
ユミエ
「──なによ……その手。これから飛び降りようっていうあたしを……受け止めようっていうの。」
ネイキッド
「いや? 俺はせっかちなんでね」
ユミエ
「は……? 何しゃがんでんの……。──えっ! きゃっ!」
ネイキッド
「ほれ、捕まえた。ほんとうの自由ってのはこういう事を言うんだぜ。行きたいところに、行きたいように行く。自分が行けるところ、じゃなくてな」
ユミエ
「は、離して」
ネイキッド
「やなこった……ほれ、地上。もう妙な気を起こすんじゃねーぞ」
ユミエ
「……あんたが。ウワサの〝ネイキッド〟なの」
ネイキッド
「そういうあんたは……ユミエっていうんだな。社員証つけっぱなしだぜ」
ユミエ
「私は……また飛び降りるかもよ」
ネイキッド
「そうはならねぇ。少なくとも、お前は未来が見えるようになっただろ」
ユミエ
「あれ……ほんとだ。あんなに……がっかりしてたのに」
ネイキッド
「そうだろ。じゃ、俺は帰るわ。時間切れだ」
ユミエ
「待って、ネイキッド」
ネイキッド
「まー、世界ってやつからは……俺も自由では居られないってこったな。じゃ。もう二度と会わないことを祈ってるぜ」
空ける
ネイキッドが走り去るまでの間を空ける。
ユミエ
「……ははっ。今更腰が抜けてる。あんなところから、飛び降りようとしたんだ」
ユミエ
「真っ暗で、何にも見えてなかったんだ……。でも、照らしてくれた」
ユミエ
「──ネイキッドか」
ユミエN
そう、ネイキッド。死にたい人の前に現れて、死にたくなくして去っていく。上裸でジーパン、カーキ色のトレンチコートという変態ルックだけど、誰が呼んだか「……ほんとのヒーロー」
ユミエN
その正体は不明。だし、そのほうがきれい。
ユミエN
ただ……私。本当に無粋なんだけれど。
ユミエN
あの人が何者か……知っちゃったので……。
§
役の説明
この時点でのジュンは「楽しいと思って笑う」ことができないので、仮に笑い声風の声を入れる場合でも嘲笑のニュアンスでお願いします。
ジュン
「はぁ〜〜……! 身体中がメキメキ言ってる……。バカネイキッド、僕の身体で地上15mまで跳ぶなよな……」
ジュン
「またニュースになってら。こんな、人ひとり助けたくらいのことがさ」
ジュン
「お昼のワイドショーのトップニュースだ! おかしいよな、ニノミヤ」
ニノミヤ
「その子……ユミエ、って言ったよね、ジュン。つらいテレビの会社を辞めて、自分なりの道を探し始めてる。現代っ子だね」
ジュン
「いいじゃん、27歳無職の僕よりよっぽど前向きだ」
ニノミヤ
「それはそう。けど、また〝レゾナンス〟にやられかねないね。本当の自分がどこかにあるってまだ思ってるみたいだし」
ジュン
「……そんときゃ、また止めるだろ。ネイキッドが」
ニノミヤ
「……悪い」
ジュン
「お。その〝レゾナンス〟がキレてる」
ニノミヤ
「そんなチャンネルに張り付くな」
ジュン
「なんせ古参だからな」
レゾナンス
「──ネイキッド。君はまた一つの命を救った……つもりになって、今頃高笑いでもあげているのだろうが」
ジュン
「うっせー負け犬がよ。仮面越しで声がこもってんだよ」
ニノミヤ
「声でか」
レゾナンス
「忘れるな。君は彼女を、……全くの地獄に繋ぎ止めたのだ」
ジュン
「……地獄、か」
レゾナンス
「何者にもなれず、なりかたも分からず……その果てに巡り合った私が引き出した〝本質〟にすら絶望した彼女の道行きを、君は想像できるか?」
ニノミヤ
「ジュン、顔真っ青だよ」
レゾナンス
「なりたかった姿が〝今〟とこすれあい、削れて折れることがどれほどの痛みか……それでも生きている君には、わからないだろう。ただ、知っておけ。それは本当に」
ニノミヤ
「はい、動画は一日三十分まで」
ジュン
「まだ五分しか見てない」
ニノミヤ
「ワイドショー二十五分。このクソデカモニターはボクが映画見るのに使わせてもらう」
ジュン
「パソコンでみろよ。あと納期やべぇって」
ニノミヤ
「ボクのPCはコーディング専用。そして仕事は納品済み。同居人が、精神衛生に悪いムナクソ配信を見てる間に」
ジュン
「……悪い」
ニノミヤ
「ボクもあいつの声、嫌いなんだよ。ものすごい数のシンパシーが集まるから」
ジュン
「今日も叫びが聞こえたか? その超共感覚で」
ニノミヤ
「とても数え切れない……チャンネル登録者数のゆうに三倍はいる」
ジュン
「群れやがって。ネイキッドも大変になるな」
ニノミヤ
「ところで、ユミエが近づいてきてるけど、お前家教えたの?」
ジュン
「……は?」
ニノミヤ
「あと三十メートル……まっすぐ来るね。もう団地の前。階段を上ってくる」
ジュン
「いやいやいやいやいやいやそんなわけない! ニノミヤ、頼んだ」
ニノミヤ
「追い返すの」
ジュン
「他に何があんだよ!」
出来事
インターフォンが鳴り、ジュンが恐れ慄く
ジュン
「ヒェッ……! じゃ、頼む」
ニノミヤ
「……めんど」
†
ニノミヤ
「はい……どちら様」
ユミエ
「あれ……確かにここのはずだけど」
ニノミヤ
「あんたも人の〝矢印〟が見えるんだ……。あいつのが見えるのは、相当レアだけど」
ユミエ
「そういうあなたは? ネイキッドとどういう関係?」
ニノミヤ
「命を救われただけのあんたよりは深い仲。どうしてここへ?」
ユミエ
「あなたが初対面の私のことを知ってるのも……レゾナンスのおかげ?」
ニノミヤ
「ボクはニノミヤだよ。ユミエ、サン」
ユミエ
「……望むものならなんでも探せるって、レゾナンスに言われた。だから、あなたが左手に何を隠し持ってるかも、わかってます」
ニノミヤ
「それでも向かってきたってことは……覚悟完了ってわけ」
ユミエ
「どうしてもひとこと、ネイキッドに言いたくて」
ニノミヤ
「はぁ……」
出来事
ニノミヤがスマホで、ジュンに電話をかける。
ニノミヤ
「聞こえてただろ……どうする? は? 始末しろ……? オメーそれでもヒーローか? 観念しろカス。いつかこんな本質のやつに付きまとわれることはわかってたでしょ」
ユミエ「……奥の方にいらっしゃる……んですかね?」
ニノミヤ「上裸で出歩くには普通に寒いでしょ。微熱で寝てんの」
ユミエ「始末しろ……って?」
ニノミヤ「あんたがレゾナンスの仲間じゃないかって疑ってた。けど、誤解は解いた」
ユミエ「観念しろカスって?」
ニノミヤ「伝言があるならボクが伝えておく。喜ぶかどうかは保証できないけど」
ユミエ
「……いえ。直接言えないなら、帰ります」
ニノミヤ
「そうだね、それが一番喜ぶかも」
ユミエ
「では。また、……は、来ないかもですけど」
出来事
家のドアが開け閉めされる。(ユミエは帰らない。ニノミヤが開け閉めするだけ)
ジュン
「……助かったよ、ニノミヤ」
ユミエ
「あ、ネイキッド」
ジュン
「……え? か、かか帰ったんじゃ」
ニノミヤ
「ボクがドアを開け閉めしただけ」
ジュン
「ニノミヤー!」
ユミエ
「でも、良かったです」
ジュン
「な、な、な、何のようですか。そもそも何のことですか。ネイキッド? 僕はただの27歳無職です……あ、貯金はここにはないです。全部ニノミヤが管理してるので戦うならそちらとどうぞ、では」
ユミエ
「……声は大きい」
ニノミヤ
「もっと言ってやって。人と話すことないからまくしたてるしか能がないんだ」
ジュン
「本当何しに来られたんですか。マジで。僕、本当にただの引きこもりなので」
ユミエ
「違います。ヒーロー」
ジュン
「……それは、ネイキッドだ。僕じゃない」
ユミエ
「……二重人格?」
ジュン
「マジで迷惑なんです。僕はベッドで好きな配信を見て、ゲームして、好きな配信をみて、ご飯食べて、寝るだけで幸せなのにあいつが外に出るとものすごい無茶するから一日使い物にならないんですよ。筋肉痛で」
ニノミヤ
「無視していいよ。ネイキッドに言いたいことがあったんでしょ」
ユミエ
「じゃあ、いいですか?」
ジュン
「いやだから」
ニノミヤ
「(かぶせて)どーぞ」
ユミエ
「……レゾナンスに会って、私の”本質”を引き出してもらって……みんなの”探し物”の矢印がわかるようになって……どこにも行きたくなくなった。誰にも探されたくないって、思っちゃった。けど助けてもらって。ありがとうございます」
ジュン
「だから助けたのは僕じゃないんだって」
ユミエ
「お返しに、助けに来ました。あなたは狙われています。〝レゾナンス〟に」
ニノミヤ
「驚いた。レゾナンスの矢印が見えるんだ」
ユミエ
「多分、そう。……日本中から矢印が集まって、イソギンチャクみたいになってるところ。そこにレゾナンスはいると思います」
ニノミヤ
「助けに、っていうのは?」
ユミエ
「その真ん中から、一本だけ。とっても太い矢印が伸びてました。それを追ってきたらあなたがいた。ネイキッド、あなたが」
ネイキッド
「……つまり、居場所がわかるんだな」
ユミエ
「背筋が伸びた」
ニノミヤ
「ネイキッド。連日はダメだ。あとおよそ15分しか動けない」
ネイキッド
「明日同じ場所にいるかわからん。さっと行って帰る」
ニノミヤ
「……じゃあ止めない。お前が一番行きたいところだし」
ネイキッド
「助かる。じゃあユミエ、道案内頼む」
ユミエ
「ひゃっ! 私片腕で持ち上がるほどは軽くないですけど!」
ネイキッド
「ニノミヤ」
ニノミヤ
「んだよ」
ネイキッド
「ここは好きに使いな」
ニノミヤ
「おう」
出来事
ネイキッドとユミエが飛び出していく際、ドアが激しく開け閉めされる。
ニノミヤ
「そんな、真っ青なオーラ出されたら。止められるわけないじゃないかよ」
ニノミヤ
「……バカジュン」
§
ネイキッド
「ここか?」
ユミエ
「死ぬかと思った……ビルの屋上をぴょんぴょんって」
ネイキッド
「行きたいところへ、行きたいように。それが俺だ」
ユミエ
「正面のアパート、203号室」
ネイキッド
「じゃあここで待っててくれ。あと五分ちょいしかない。すぐ済ます」
レゾナンス
「探したよ。ネイキッド」
ネイキッド
「おでましか」
レゾナンス
「部屋で暴れられては面倒だ。配信用の機材はなかなかに高価でね」
ネイキッド
「そこまでわかってんなら、観念しな!」
出来事
ネイキッドがレゾナンスのほおに一撃パンチを入れる。
ネイキッド
「座ってばっかのヒョロガリだと思ってたら、割とタフなんだな」
レゾナンス
「そちらもヒーローらしい、いいパンチだ」
ネイキッド
「光栄だよ!」
出来事
もう一撃パンチを入れようとするが、レゾナンスが受け止める。
レゾナンス
「私は……そういう眠っている力を引き出したい」
ネイキッド
「離せ」
レゾナンス
「君のそれは、ことさらに強かった。だから、残念だった」
ネイキッド
「……! なにしやがる、離せ!」
レゾナンス
「その、自由への渇望を。解き放ってやろう」
レゾナンス
「どこにでも自由に行きたいんだろう」
レゾナンス
「真っ暗な部屋から、飛び出して」
レゾナンス
「赦すよ、自由になれ」
ネイキッド
「う、……ぐ。あ、あああああぁ!」
ユミエ
「レゾナンス! なにしてるの」
レゾナンス
「重荷を捨てろ。ためらうな」
ネイキッド
「レゾ……ナンス!」
空ける
ネイキッドがジュンと入れ替わるまでの間をとる
レゾナンス
「そして……。ようやく、自由になれるな。ジュンくん」
レゾナンス
「君はありのまま……暗闇に浴したまえ。それを赦すのも、自由というものだ」
ユミエ
「……レゾナンス! 消えた……?」
ジュン
「うわぁぁぁ! 眩しい、熱い! やめて、やめてくれ!」
ユミエ
「ネイキッド!」
ジュン
「近寄るなぁ!」
ユミエ
「きゃっ!」
ニノミヤ
「女の子を突き飛ばすバカが、あるか!」
出来事
ニノミヤがジュンをスタンガンで気絶させる。
ジュン
「ぐえっ」
ニノミヤ
「ユミエ、手伝って! 車に押し込んで。一旦帰るよ」
ユミエ
「……はい! いろいろ……聞かせてください」
§
ニノミヤ
「ジュンは、さ。人生の波がデカく来すぎてね。何もかもと関わりたくなくなる不幸と、そうしてても生きられる幸運が、ほぼ一緒に来たんだよ」
ユミエ
「ジュンさんの矢印になれない……線」
ニノミヤ
「だから、多分レゾナンスの言うことを信じ切れなかった。その自由を、……望むのと同じくらいの、拒絶が強くあったから」
ユミエ
「だから、2つに割れた……?」
ニノミヤ
「たぶんね。どこにでも行きたいように生きるネイキッドと、自分だけがそうすることが許せないジュンに。ネイキッドは? 探せそう?」
ユミエ
「いえ。見えなくて……すぐ側にいるようで、どこにもいない……」
ニノミヤ
「レゾナンスは」
ユミエ
「まだイソギンチャクは同じ場所にいます……けど……」
ニノミヤ
「けど?」
ユミエ
「……ちょっとずつ、大きくなってます。新しい矢印を集めながら、大きく」
ニノミヤ
「そっか。ジュンの渇望は……そんなに大きかったんだね」
ニノミヤ
「ちぇっ。ちゃんとわかってなかったか」
ユミエ
「矢印が増えるってことは……。やっぱり。レゾナンスが配信してます」
ニノミヤ
「ということは、あのアパートにいる」
ユミエ
「ニノミヤ……さん?」
ニノミヤ
「ボクがかたをつけてくるよ」
ニノミヤ
「……もう、ジュンは一生外に出ないだろうし」
ユミエ「え、待って。ニノミヤさん」
出来事
ニノミヤが出ていく。静かに扉を開け閉めする。
ユミエ
「鍵……なんか、置いていかれても」
ユミエ
「みんな、自分勝手。その全部をレゾナンスが集めてる……」
レゾナンス
「……いまこそ、解き放たれよう。すべての痛みから、摩擦から」
ユミエ
「『もう我慢しなくていいの』『さすがレゾー様』『ぶちかまそうぜ』……コメントの勢い、すごいや。細い矢印がいっぱい集まって、流れて」
レゾナンス
「諸君を抑圧するすべてから、私と彼が、解放する。そう、私とその源を同じくしながら道を違え……いま再び手を取り合うことになった彼と。紹介しよう」
レゾナンス
「我らがヒーロー、ネイキッド。その人だ」
ユミエ
「ネイキッドが配信に出てるよ。座ったまんまで、顔も見えないけど。みんな大喜びしてる」
ジュン
「(歯の根の合わない、とてつもない恐怖から来る震え)」
レゾナンス
「もちろん、戦いは激しかった。それでも最後にネイキッドが折れてくれたのは、……彼が象徴する自由を、遍く皆に届けたいからだ。今は喋ることもままならないが、……いずれ参陣する! その時こそが始まりだ! 諸君、待て。しかして希望せよ。夜明けは、近い」
ユミエ
「……終わった。次の配信は、いつも通りなら三日後」
ユミエ
「コメント拾ってもらえて、直接会えることになったときは、本当に嬉しかった」
ユミエ
「その時のあなたは……ちゃんと私の〝本質〟を引き出してくれたよね。これから始まる戦いのコマを集めるためだったの?」
ジュン
「(歯の根の合わない、とてつもない恐怖から来る震え)」
ユミエ
「ジュン、ニノミヤさんは……帰ってこないと思うよ。どうしよっか。これから」
ジュン
「(歯の根の合わない、とてつもない恐怖から来る震え)」
ユミエ
「……未来なんて、見えないよね。自分から出た矢印でぐるぐる巻きになって、身動き取れないんだもん」
ユミエ
「また明日来る。これ、食べるんだよ。お昼に買った菓子パンで……ごめん」
§
ユミエ
「結局、何にも食べなかったね。三日間、何にも」
ジュン
「(弱りきって咳き込む声)」
ユミエ
「……わかるよ。私もそうだったから。どんなにやりたいことがあったって。だれも受け止めてくれなかったら、どうしようもないもんね」
ジュン
「(弱りきって咳き込む声)」
レゾナンス
「……諸君、時は満ちた」
ユミエ
「配信始まった……一人だ? しかも外だ……」
レゾナンス
「たった今、説明欄にURLを一つ追加した。親愛なる諸君においては、是非〝応援〟してほしい」
ユミエ
「……『ネイキッドを応援!』って……?」
レゾナンス
「そう、諸君の力が必要だ……。そのボタンを押せば、まだ眠っているネイキッドに声が届く。力を貸してくれ。今日この日を、我らの日とするために」
出来事
「ネイキッド!」とうめく声が広がっていく。
出来事
「ネイキッド!」とうめく声が次第に重なっていく。
ユミエ
「コメントと連動させてるんだ。誰かがボタンを押すたびに、ネイキッドが呼ばれてる」
レゾナンス
「そうだ、もっと! 彼のもたらす自由を求めるなら!」
ユミエ
「みんなが自分の矢印に巻かれてく。やり場のない気持ちを声に出して、他のことを考えられなくなっていく」
ユミエ
「レゾナンス……これだけの気持ちを集めて。何にぶつけるつもりなの。絶対に壊れちゃうよ。ぶつけられた方も、ぶつけた方も!」
ユミエ
「私のリーダーが! ネイキッドをそんなことに使わないでよ!」
ユミエ
「私の、たった一人のヒーローをさ!」
ニノミヤ
「目を覚ませ、バカ」
ユミエ
「……! コメントと同じくらいの勢いで荒らしが来てる」
ニノミヤ
「目を覚ませバカ。目を覚ませバカ。目を覚ませバカ」
レゾナンス
「取り合うな。彼を呼べ!」
ニノミヤ
「目を覚ませ」
ニノミヤ
「目を覚ませ……バカ野郎が!」
ユミエ
「アカウントは違うけど、きっと同じ人。……そっか、これ!」
ジュン
「眩しい」
ユミエ
「引きこもりがスマホを眩しがるな! ほら、呼ばれてるよ。『目を覚ませ』『バカ』って!」
ジュン
「やめろ、離せ、眩しいのは嫌だ」
ユミエ
「目を開けて! 耳を貸して! あなたを呼んでる人がいる。ここに二人! あなたはもう、ずっと、とっくに、これからも、孤独じゃない!」
ジュン
「やだぁ、何もみたくない」
ユミエ
「あなたの光が! 必要なの! 今、すぐに!」
ユミエ
「目を覚ませ、私のヒーロー!」
ジュン
「ぼ、僕は……僕は」
ユミエ
「わかってる。ネイキッドじゃないんでしょ」
ユミエ
「でも、違う! 聞こえるでしょ! あなたを呼ぶ声が、こんなに!」
ニノミヤ
「ボタンなんかで満足するな。お前たちの声で!」
ニノミヤ
「──呼べ! ネイキッドを!」
空ける
5秒くらい
ジュン
「うる……さいな……!」
§
出来事
ジュンの心象世界に入る
ジュン
「僕のなかには、もういないもんだと思ってた。……ネイキッド」
ネイキッド
「もう一度生まれたらしい。君がようやく前を向いたから」
ジュン
「寒くて、暗い。それが僕の世界だった」
ネイキッド
「そうだよな。悪かった、俺ばかり好き放題やって」
ジュン
「僕も、悪かった。お前に全部、任せきりにして」
ネイキッド
「そういうことなら、あとは頼んでいいか?」
ジュン
「まだ、怖ぇよ。でも……」
ジュン
「──ああ、任せとけ!」
§
出来事
現実世界に戻ってきた
ユミエ
「やっと起きた」
ジュン
「……離してくれ。待たせたな」
ユミエ
「矢印の行き先、決まったんだ」
ジュン
「ああ。──ここで見ててくれ」
ジュン
「僕の……ネイキッドの、ラストバトルをさ」
出来事
ジュンが飛び出していき、ドアが勢いよく開く
ニノミヤ
「ようやく起きたか、バカ」
ユミエ
「……頑張って」
§
レゾナンス
「駆逐したか……」
レゾナンス
「……罵倒こそ混じっていたが、私も同じ思いだ。目を覚ませ!」
レゾナンス
「我々は何のためにいま、この場所にいる!?」
レゾナンス
「今更問うまでもないな!? 諸君自身のためだ! さぁ叫べ! 拳を挙げろ! 諸君を押し潰そうとする何もかもを!」
ジュン
「ぶっ壊せ! なんてな」
レゾナンス
「……ジュン君。その出で立ち」
ジュン
「え、外、寒……。調子こいて上脱ぐんじゃなかった」
レゾナンス
「滑稽だな。……自由を手放した抜け殻が、今更その姿を真似るなど」
ジュン
「いや……これでちょうどいいのかもな」
ジュン
「だって──よッ!」
レゾナンス
「ウグッ……。どこからそんな力が」
ジュン
「口開けてっと大事な舌噛むぜ」
レゾナンス
「ガッ──! バカな、ジュン! 貴様の前を向く力は、すべてネイキッドに」
ジュン
「体も、心も! 動いたらこんなに熱くなるんだもんな!」
レゾナンス
「待て」
空ける
レゾナンスがアッパーを受けて気絶する間を空ける。
ユミエ
「わっ……」
ジュン
「よし──マイク、これか。……コメント早。じゃあ映ってるし聞こえてそうだな」
ジュン
「よぉ、ネイキッドだ。お望み通り蘇ったぞ。そんでお前らのレゾナンスをボコった」
ジュン
「いまどんな気持ちだ? キレてるか? ビビってるか?」
ジュン
「かかってこい。俺……僕は。逃げも隠れもしねぇ」
ジュン
「それがネイキッドの〝自由〟だ。どこに行くのも、行かないのも。僕が決める」
ジュン
「お前らは、……どうだ? できるか? 自分の矢印、ちゃんと自分で動かせてるか!? 目を覚ませ。ああ何度でも言ってやる。目を覚ませ、バカども!」
ユミエ
「……言い過ぎだよ。でも、ふふ」
ニノミヤ
「目覚めすぎだ」
出来事
ネイキッドを呼ぶ声が弱まって、レゾナンスを呼ぶ声が強まる。
ジュン
「ん、後ろ?」
レゾナンス
「皆に、気安く触るな!」
ジュン
「(冷静に)離せよ。見てみろ」
レゾナンス
「見ているとも。半々だ。まだ半分が私を求めてる」
ジュン
「でも半分だ」
レゾナンス
「半分でいい! それが何人でも構わない。たとえどんなに少なくとも!」
レゾナンス
「たった一人でもいい! 私を必要とするものが! 私しか寄る辺のないものがいる限り! 私は決して倒れない!」
ジュン
「う、なんだこれ──」
レゾナンス
「ジュン! 私はお前が嫌いだ、大嫌いだ! 自分を信じられるお前が!」
ジュン
「あ? 何だ? やべ、意識飛ぶ……」
レゾナンス
「(被せて)味わえよ。本当に何もないって、どう言うことかを」
ネイキッド
「(被せて)だが」
出来事
レゾナンスの心象世界に入る
ネイキッド
「今は違う……そうだろう?」
レゾナンス
「なに、……なぜお前が! 確かに吸い出しきったはずだ、このクソ野郎から!」
ネイキッド
「俺は消えないさ、決して」
レゾナンス
「そんなご都合主義──」
ネイキッド
「(被せて)君が、求めてくれる限り」
空ける
レゾナンスが呆然としている様子を示す。
レゾナンス
「え」
ネイキッド
「ジュンと同じだよ。君が旅立ちを求める限り、俺は決して消えない」
空ける
レゾナンスが感極まる状態を示す。
レゾナンス
「……な」
ネイキッド
「君の心に根ざした、その気持ちは。誰も取り残さないというその気持ちは」
レゾナンス
「(被せて)なんで。なんでもっと早く!」
ネイキッド
「(ちゃんと待ってから)間違いなく本物だ。そうだろ?」
出来事
現実世界に戻る
レゾナンス
「……遅いよ。──ヒーロー」
空ける
ジュンがレゾナンスを横たわらせる間を開ける。
ジュン
「……レゾナンスは、ようやく休めたみたいだ。お前らのためにずっと気張ってたみたいだし、しばらくほっといてやりな。はい、わこつー」
出来事
配信が止まる
ジュン
「はぁーっ、勝った!」
ジュン
「──とは思わねぇ。あばよ、レゾナンス。しみったれた泣き顔は見ないでおいてやるよ」
ジュン
「──そして、じゃあな、ネイキッド……。サンキュー」
§
ユミエN
配信界隈を騒がせた〝レゾナンスの放送事故〟から……早いもので二月(ふたつき)が経ちました。
ユミエN
私は、新しい仕事に励んでいます。楽しいことばかりじゃないけれど、なんとか。自分の矢印とちゃんと向き合って決めたことなので。
ユミエN
それに、ちょっとした役得もあるので……。
ユミエ
「──あなたにもらった力、今はとてもありがたいです」
ユミエ
「使い道がみつかったので。そのおかげであなたと再会することもできました」
ユミエ
「……ありがとう」
ユミエ
「みんなすぐ飽きちゃって。あなたのことを覚えている人は少ないかもしれない」
ユミエ
「だけど、少なくとも私は。ずっと覚えています。私の、リーダー」
ユミエ
「偉い、ちゃんと食べられましたね」
ユミエ
「また来ますから。いつか……仮面も取って。素顔でお話させてください」
§
役の説明
ここから先のジュンは「楽しそう」に振る舞うことができます。
ニノミヤ
「ほい、動画は一日三十分!」
ジュン
「あ? 今シークバー見てたぞ! 絶対、二十八分だった!」
ニノミヤ
「広告が二分あった」
ジュン
「広告もカウントするのかよ! つかお前、俺のことそうやってずっと監視するつもりか? 仕事しろ仕事! ノマドワーカーだからって働かなくていいわけじゃ」
ニノミヤ
「(被せて)見たまえ」
ジュン
「……おい、6桁あるけど」
ニノミヤ
「ちょっとね……あのボタンの先に広告つけて荒稼ぎさせてもらった」
ジュン
「すげぇな。……じゃないよ。じゃあ未払い家賃払えよ」
ニノミヤ
「バカ野郎がお前の快気祝いの費用も兼ねてんだよ」
ニノミヤ「ほら、どこ行く?」
ジュン
「……とりあえず、一旦新宿御苑とかでよくね……?」
ニノミヤ
「安上がりなやつ。でもお前がいうなら、それでいいよ」
ジュン
「……へへっ」
ニノミヤ
「うわ……笑顔キモっ。……、……」
ニノミヤ
「ようやく笑ったな」
ジュン
「はは……泣くところじゃねぇだろ。……サンキュー」
§
ネイキッド おわり

