第1回「しなコン!」レギュラー部門受賞作品
5人の強力な幹部――五暴星を擁する魔王軍。しかし、あるとき魔王が「うちも四天王がいい」と主張し、五暴星達は、話し合い、追放するひとりを決めることになる。
シナリオ
よくぞ集まってくれた。我が軍の最高幹部――五暴星(ごぼうせい)たちよ
はい。魔王様が皆様を集めたのは、その五暴星という制度を撤廃すると決めたからでございます
魔王様は五暴星を撤廃する代わりに、新たな幹部制度を用意なされました。皆様にはその幹部として、引き続き活躍して頂く予定でございます
そういうことではございますが、そういうことではございません
マハハハハ! まったく、コイル坊は相変わらず正直であるな。貴様らもほら、もっと目を輝かせても良いのだぞ?
大臣が異世界から召喚した書物のいくつかに魔王に関する記述があってな。どうやらその世界での魔王軍には四天王と呼ばれる4人の最高幹部がおるらしく――カッコいいのでうちでも取り入れてみることにしたのだ
わたくしめのせいではございません。文句がおありでしたら、魔王様に直接どうぞ
魔王様、それはつまり、我々5人の幹部のうちひとりを切る。そういうことですか?
誰が四天王を外れるか。貴様らで話し合って決めろ、と言っておるのだ。無論暴力行為はなしで、な
部下の自主性を慮るのがよい上司であろう? 貴様らで十分に話し合い、四天王を決めろ。いいな?
四天王にふさわしくない奴を『せーの』で指差すんだ。最も指された奴が、四天王から外れる。それでいいだろ
いうか、なんだ? ああ、お前は最後に五暴星に加入したんだったなぁ。力もさして強くねえし、自信を持てねえのは当然か
ジョウロがふたりに、シャベルが3人。ちゅーことは――
冗談だろ? 冗談だよな。俺様が追放だと? んなわけないよな。
なぁ! 水! 雷! 風! へし折られたくなけりゃあ、その指を横にずらせ!
こうなることが判っていたから手前(てまえ)は止めたのに……仕方ないよね
ざけんなカスどもが! 認めねえ! こんなことで幹部の座を奪われてたまるかよクソッタレ!
……みっともないですよ。これは、あなたから提案したものでしょう
ここにもうあなたの席は無いんですから、とっととお引き取りください――ゴロツキが
では皆様――炎のバーナー。水のジョウロ。雷のコイル。風のファン。この4人が四天王で異議はありませんね
聞こえなかったのか? それとも、余の言葉を軽んじておるのか?
とはいえ――シャベルの言い分も頷ける。個人の好き嫌いで四天王を決めるのは知性の劣る愚かな行為である
それで決められれば一番良いのですが……暴力は禁止なんですよね
ああ。貴様らが本気でぶつかれば、いくら我が城と言えど……何より、そんな方法で幹部を決めるなど野蛮であるからな。魔王軍たるもの、何よりも知性がなければならぬ
それならば、どうでしょうか。一般常識を問うペーパーテストで決着をつける、というのは
上手い……っ! ……あれ? シャベル? シャベルは何も言ってないけど、それでいいの?
ん、ああ。俺様は別に。どんなに悪くても2位には入れそうだしな
ペーパーテストを基準にするいうことは、王様もその基準で量られるいうことですよ。王様はあてらよりも高い点数をとれなきゃ格好がつかないいうことですよ
これで貴様らの誰よりも高得点をとれるかだと? ――愚問だな
どれ、今この場で全問正解をキメてやろうではないか。ペンはあるか?
うむ。一問目は……なるほど。二問目は……そうきたか。三問目は……ふむ。……ジョウロ
何だ、その言い方。貴様らもだ。何だ、その目。よもや余が一問も解けなかった。などと……考えているのではあるまいな?
滅相もございません! そもそも魔王様のようなステージの違うお方は、テストなど受けなくてよいのです! これは我々だけの問題。なので、興が乗らないなどと言わず、ペーパーテストで決めることをお許しください!
その口ぶりは、完全に余が判らないと思っているソレではないか?
そうだそうだー! 魔王様を信用していたら、そんな言い方はしないはずだぞー!
まあまあまあ。とにかく、ペーパーテストは却下でええんですよね、王様
せやから、五暴星に入った順――あて、ジョウロ、コイル、シャベルの4人が引き続き四天王を務めるっちゅうことで
手前が『はい判りました』と言うとでも? それに、順番で言うなら、後から入ってきたものを残すべきじゃないかな。生物も組織も同じ。新陳代謝がなければ腐ってしまう。だからさ、バーナー。いや、バーナー先輩――君が抜けなよ
先輩呼びするんやったら後輩らしくあれよ同い年。まあええわ。あまりこれに時間かけるのもしょーもないし、あてとジブンで決着つけよか?
ちゅーわけで、ジブンら3人はどちらと一緒に四天王したい?
安心していいよ。どちらが選ばれようと、手前とバーナーは、自分を選ばなかった人を恨むから
というわけで、どっちが四天王になった方がいいと思う?
(ため息)どちらか選ばなきゃならないんですよね。――ならば私は、ファンが四天王になることを強く推します
まさか。私があの粉モンを四天王に推すわけがないでしょう
あ、判った! さっきあてがジブンを指差したことを根に持ってんねやろ!
それで、おふたりはどちらを推しますか? ファンを推せば即決定ですけど。それでいいですか?
はッ! いつでも遊んでやるよ、後輩。……あとはお前だ。どっちを選ぶ?
ふたりとも好きだもん。ふたりとも四天王であってほしいもん
最初は四天王に残りたかったけど、よくよく考えてみたら、別に死ぬわけじゃないし、年も一番下だし、だから今は、四天王じゃなくても、幹部じゃなくても、いいかなって
まだ結論は出ていません。なので、少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか
痛み入ります。――みなさん、よく考えてください。それでいいんですか?
もし、このままコイルが幹部から外れた場合、国民たちはどう思うでしょうか
こんなこと言いたくはありませんが、コイルは我々幹部の中で最も若く、最も人気があり……最も強い
そんなコイルを四天王から外したとあっては、きっと国民たちは私たちに対してこう思うことでしょう。『スター戦士を、薄汚い姦計で幹部から追放した、腰抜けの卑怯者たち』と
考えすぎ。極論。これまで時の権力者たちは、そうやって思考を放棄したことによって、椅子から転げ落ちていきました。皆さんは、彼らの二の舞になりたいですか?
でも、ぼくが決めたことだよ? 必要なら、国のみんなにはちゃんとぼくから説明するけど
その説明を全員が正直に受け取ると思いますか? 答えは否です
ええ。むしろ、あなたが説明することによって、より国民たちの猜疑心は増します。やがて大衆紙などが『四天王の陰謀』などと銘を打ち、悪趣味な脚色を施し、面白おかしく書き立てます。――元記者であるあなたなら判りますよね、シャベル
ありもしない陰謀論は、あっという間に人々に伝播する。そうなったとき、国民たちが我々に向けていた敬意と忠義は、軽蔑と嫌疑に変わり――最悪の場合、我々魔王軍は、崩壊します
故に、コイルを四天王から外すわけにはいかないのです。誰が外れるにしても、コイルだけは、外してはならない
こう言ってはなんですが、あなたが外れても、コイルのようなことは万に一つも起きませんよ
さっきまで、バーナーを蹴落としてでも幹部に残ろうとしていたのに?
まあね。でも、実はあの時すでに、四天王を降りてもいいと考えていたんだ
今だから言うけど、手前は君たち4人に憧れて、幹部を目指したんだ。それを思い出してね
本人に直接言うわけないでしょ。確か……メテオさんには、話したことあったよね
ええ。五暴星に就任したその日に仰っていましたね。ようやく憧れの人たちと並ぶことができた、と
うん。だから、そんな人たちを蹴落としてまで、自分が残りたくはないな、と思ったんだよ。あと、支配地域の大きさを見ても、手前が一番少ないからね。妥当でしょ
では皆様――炎のバーナー。水のジョウロ。雷のコイル。土のシャベル。この4人が四天王で、異議ありませんね
あてらに憧れた奴に席を譲られて、それで四天王決定なんて、そんな結果――
うん! 自分たちで話し合って決めろって言ったのは魔王様じゃん! 勝手に決めないでよ!
マハハハハ――貴様らの反論は正しい。安心しろ。悪いようにはせん。なぁ、大臣
実は、大臣がそろそろ高齢ということもあって、その任を降りたいと訴えていてな
皆様には隠していましたが、今回の会議は、わたくしめの後任となる者を選ぶために開かせていただいたのでございます
大臣とは余の次に権力を持つ者。故に実力者でなければならない。その点、戦いという面において、貴様らは適任だ。だから話し合わせて、それ以外を見ていた
大臣たるもの、状況を見極め、適切な判断を下さなければなりません
場合によっては、国や仲間や魔王様のために、自分を切り捨てることができる者でなければ、務まらないのです。――たとえば、自らが座っている権力の椅子を仲間のために降りることができる。そのような者こそが大臣に相応しい
コイル坊は駄目だ。最初に五暴星が四天王になると伝えたとき、唯一はしゃいでいたからな。こんな簡単な状況判断ができない奴に大臣は務まらん
貴様が、新たな大臣だ。この国のナンバー2。余の右腕として、これからも励んでくれ
そういうことか。……よかったな、ファン! おめでとう!
ナンバー2になれるチャンスだったのかよ……おめっとさん
大変なことも多いと思いますが、やりがいのある仕事です。頑張ってください
いや、やらないよ? ていうか、大臣やるくらいなら、この国抜けるよ?
そりゃあそうでしょ。だって、ねえ、みんな! 判るよね! 大臣って……罰ゲームじゃんね! ね、シャベル!
だって、城の管理や面倒くさい書類作業やんなきゃいけないんだよ? まあ、百歩譲ってそれはいいとしても、自分勝手で超わがままな魔王様のお世話を四六時中やらなきゃならないって……罰ゲーム以外の何物でもないでしょ!
魔王様に向かって、なんたる暴言……! 口が過ぎますよ、ファン!
ほら、うちらの中で最も状況判断ができるのって君だろ? 魔王様のことを一番崇拝しているのも君だし。やんなよ、大臣
え? あ、いや、私は、私はとてもエゴが強くて協調性がないので、なので、ね! あ、まとめるで言えば、バーナーが適任かと。我々の中で最も部下に慕われていますし、幹部歴も一番長いですし
はぁ!? え、えあ、えーっと……あては無理。無理って言うか、その、そのー、書類とかが……そう! 書類作業がなー! あてアホやからなー! アホやから無理なんや!
悪いねん! 極悪やねん! せやから、大臣はシャベルでええんちゃうか?
ほらジブン、元々記者やから書類に強いやろ? あと、状況判断能力も高いし、支配地域も権力意識もいっちゃん大きい。さっきファンが大臣になると決まったときも悔しがっとったし
あんなのはポーズに決まってんだろうが! 面倒くさいことを押し付けてんじゃねえぞ!
いや、あのー、あ、そうだ! 先ほど雷は駄目と言っていましたが、こいつは我々の中で最も人気があり、最も強く、最も若い。今はチャランポランですが、やがて最高の右腕になることでしょう。――というわけで、雷。お前が大臣になれ。な?
こんなにみんなが嫌がっているものになるわけないじゃん! 一度決まったんだから、ファンがやってよ!
彼らはサポーターではなくプレイヤーでございますからね。わたくしめがやっているような仕事は苦痛でしかないのでしょう
おや、今日は星が降りますかな。とはいえ、いつまでも決まらないわけにはいきませんね
――界層の狭間、剪定(せんてい)されし星域(せいいき)の虚(うろ)よ。我の前にその姿を現せ。万物の崩壊と再生を世界に示せ
――メテオの手にどこからともなく一冊の本が現れる。
――メテオの魔法が発動し、7人は一瞬でメテオが作った空間に転移される。
懐かしいな。で、なんであてらを架空間に移動させたんや
話し合いでは、にっちもさっちもいかないようなので――ここでなら、いくら暴れても問題ございませんので、皆様の得意な方法で決着をおつけください
まぁまぁ。いいではございませんか。こうやって決める方が、皆様らしい
超越者はすでに去り、天を抱くは紅蓮の腕(かいな)。その怒りを解き放ち、全てを跡形もなく灰にせよ
水竜よ、深き海の底より舞い上がり、災厄を産み落とせ。大地を潤す青き怒涛
空を裂く雷獣よ、その身を焦がし、尚も走り続ける破壊者よ。趨勢(すうせい)を捻じ曲げ、一閃の光と共に我が敵を粉砕せよ
堅牢なる大地よ、総てを防ぐ、揺るぎなき城塞となれ。足場を崩し、星の均衡を打ち破れ
静寂など要らぬ。膠着(こうちゃく)など要らぬ。風よ、吹き荒べ。無惨に無慈悲に圧倒的に、戦場を制圧せよ
――5人、それぞれ固有のアーティファクトを構え、向かい合う。
無論だ。余は魔王ぞ。こんな楽しそうな戦い、黙って見ているわけがなかろう
ということは、一番最初に負けた者が大臣で、最後まで残っていたのが魔王になる、ということで、いいんですね
うん。これはぼくらの立場を賭けた戦いだから。その戦いに参加する以上、魔王様にも賭けてもらわなきゃ
……よかろう。勝利者が魔王。最初の敗北者が大臣。それ以外が四天王だ。さぁ、死ぬ気でかかってこい――中ボスども!
そんな中、ソレは、足元に横たわった5人を見下ろしながら、途切れ途切れの呼吸を整えると――