魔王城の7人

ファンタジー

第1回「しなコン!」レギュラー部門受賞作品

5人の強力な幹部――五暴星を擁する魔王軍。しかし、あるとき魔王が「うちも四天王がいい」と主張し、五暴星達は、話し合い、追放するひとりを決めることになる。

はじめにお読みください

  • 本作品は第1回「しなコン!」レギュラー部門受賞作品です。
  • 本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
  • 本作品は「こえコン!」関連イベントや公式配信での上演だけでなく、一般の声劇配信などでもご利用いただけます。
  • その際の台本の利用規約については、非営利での配信であれば使用時の許可は必要ありませんが、作者である「雪のキシイ(U木野)」様のクレジットは必須となります。
  • また、営利を目的とした配信や商業作品、舞台やリアルのイベントなどで使用したいという場合は「雪のキシイ(U木野)」様までご連絡ください。
  • 物語の雰囲気を大きく変えない限りは、アドリブやセリフ改変などもOKです。
作品概要

タイトル

魔王城の7人


作者

雪のキシイ


作者サイト

貝凪町の人々(note)

貝凪町の人々|note
貝凪町いいとこ。 一度はおいで。

ジャンル

ファンタジー/コメディ


上演時間

約30分


男女比

不問7

登場人物

バーナー

通称『炎のバーナー』。五暴星のひとり。性別不問。


ジョウロ

通称『水のジョウロ』。五暴星のひとり。性別不問。


コイル

通称『雷のコイル』。五暴星のひとり。性別不問。


シャベル

通称『土のシャベル』。五暴星のひとり。性別不問。


ファン

通称『風のファン』。五暴星のひとり。性別不問。


メテオ

魔王軍大臣。性別不問。


カーテン

魔王。性別不問。

シナリオ

 

▽▲▽▲▽▲▽


カーテン

炎のバーナー


バーナー

はい


カーテン

水のジョウロ


ジョウロ

はっ!


カーテン

雷のコイル


コイル

はーい


カーテン

土のシャベル


シャベル

ここに


カーテン

風のファン


ファン

はい


カーテン

よくぞ集まってくれた。我が軍の最高幹部――五暴星(ごぼうせい)たちよ


ファン

魔王様直々に呼ばれたとあってはね


コイル

でも、どうして急に召集を?


カーテン

ふむ。大臣


メテオ

はい。魔王様が皆様を集めたのは、その五暴星という制度を撤廃すると決めたからでございます


シャベル

五暴星を撤廃?


バーナー

あてらは幹部じゃのうなるっちゅうことか?


ジョウロ

……そんな、冗談ですよね、魔王様


カーテン

話は最後まで聴け。大臣


メテオ

魔王様は五暴星を撤廃する代わりに、新たな幹部制度を用意なされました。皆様にはその幹部として、引き続き活躍して頂く予定でございます


ジョウロ

呼び名を変えるということですか?


シャベル

そういうことか、焦って損したぜ


メテオ

そういうことではございますが、そういうことではございません


シャベル

何言ってんだ?


メテオ

新たな幹部制度。その名は――四天王


バーナー

……あ?


ジョウロ

四天王……ですか?


コイル

カッコいい!


カーテン

そうであろう。五暴星よりもクールであろう?


コイル

うん、ビリッときます!


カーテン

マハハハハ! まったく、コイル坊は相変わらず正直であるな。貴様らもほら、もっと目を輝かせても良いのだぞ?


ジョウロ

……どうして急にそんな変更を?


メテオ

それは……


カーテン

大臣が異世界から召喚した書物のいくつかに魔王に関する記述があってな。どうやらその世界での魔王軍には四天王と呼ばれる4人の最高幹部がおるらしく――カッコいいのでうちでも取り入れてみることにしたのだ


シャベル

メテオ……!


メテオ

わたくしめのせいではございません。文句がおありでしたら、魔王様に直接どうぞ


シャベル

っ! 狸が!


コイル

みんな、どうしたの?


ジョウロ

魔王様、それはつまり、我々5人の幹部のうちひとりを切る。そういうことですか?


カーテン

そうだが? 余の決定に不満でもあるのか?


ジョウロ

……いえ。滅相もございません


カーテン

では、話し合え


シャベル

話し合う?


カーテン

誰が四天王を外れるか。貴様らで話し合って決めろ、と言っておるのだ。無論暴力行為はなしで、な


バーナー

王様が決めると違うんか?


カーテン

部下の自主性を慮るのがよい上司であろう? 貴様らで十分に話し合い、四天王を決めろ。いいな?


 

▽▲▽


バーナー

四天王になりたいひとー?


 

――5人、手を挙げる


バーナー

じゃあ、四天王になりたくないひとー?


 

――全員、手を下げる


バーナー

まぁ、これで決まるわきゃねーわな


シャベル

手っ取り早く、多数決をとろうぜ


コイル

多数決?


シャベル

四天王にふさわしくない奴を『せーの』で指差すんだ。最も指された奴が、四天王から外れる。それでいいだろ


ファン

それは、やめた方がいいんじゃないかな


シャベル

なんだ、日和ってんのか、風の?


ファン

日和るっていうかさ


シャベル

いうか、なんだ? ああ、お前は最後に五暴星に加入したんだったなぁ。力もさして強くねえし、自信を持てねえのは当然か


ファン

……前言撤回。その形式でやろう


シャベル

負けても恨みっこなしだ。いくぞ――せーの!


 

――シャベルとバーナー、ジョウロを指差す。


 

――ジョウロとコイルとファン、シャベルを指差す。


シャベル

……は?


バーナー

ジョウロがふたりに、シャベルが3人。ちゅーことは――


シャベル

冗談だろ? 冗談だよな。俺様が追放だと? んなわけないよな。
なぁ! 水! 雷! 風! へし折られたくなけりゃあ、その指を横にずらせ!


ファン

こうなることが判っていたから手前(てまえ)は止めたのに……仕方ないよね


シャベル

ざけんなカスどもが! 認めねえ! こんなことで幹部の座を奪われてたまるかよクソッタレ!


ジョウロ

……みっともないですよ。これは、あなたから提案したものでしょう


シャベル

見下してんじゃねえぞ、水の! 一票差の分際で!


ジョウロ

ここにもうあなたの席は無いんですから、とっととお引き取りください――ゴロツキが


シャベル

みぃぃずぅぅぅぅぅ!


メテオ

では皆様――炎のバーナー。水のジョウロ。雷のコイル。風のファン。この4人が四天王で異議はありませんね


4人

異議なし


シャベル

認めねえ! 認めねぇぞ! 俺様はこんな結果――


カーテン

シャベル


シャベル

っ! 魔王の旦那!


カーテン

貴様の声は頭に響く。少し黙れ


シャベル

ですが!


カーテン

聞こえなかったのか? それとも、余の言葉を軽んじておるのか?


シャベル

……滅相もございません


カーテン

とはいえ――シャベルの言い分も頷ける。個人の好き嫌いで四天王を決めるのは知性の劣る愚かな行為である


シャベル

旦那……!


カーテン

よって――決め直しだ。存分に相談するがよい


 

▽▲▽


ファン

個人の好き嫌いで駄目なら、どんな方法で決めようか


バーナー

やっぱり、戦闘力なんちゃう?


ジョウロ

それで決められれば一番良いのですが……暴力は禁止なんですよね


カーテン

ああ。貴様らが本気でぶつかれば、いくら我が城と言えど……何より、そんな方法で幹部を決めるなど野蛮であるからな。魔王軍たるもの、何よりも知性がなければならぬ


コイル

知性?


バーナー

……メテオ、ジブン、王様にどんな本読ましたんや


メテオ

高名な軍師が魔王に転生するという内容のものを


バーナー

いらんことを


ジョウロ

それならば、どうでしょうか。一般常識を問うペーパーテストで決着をつける、というのは


バーナー

…………は?


コイル

そんなの……


カーテン

ジョウロ


ジョウロ

はッ!


カーテン

良き提案だ


ジョウロ

ありがとうございます


バーナー

ジョウロ……見損なったで!


ファン

君は、自分さえ幹部になれればそれでいいのか……!


コイル

あんまりだ! ひどすぎるよ!


ジョウロ

ひどすぎるのは、皆様のおつむの方です


コイル

上手い……っ! ……あれ? シャベル? シャベルは何も言ってないけど、それでいいの?


シャベル

ん、ああ。俺様は別に。どんなに悪くても2位には入れそうだしな


コイル

インテリヤクザ!


シャベル

どこで覚えたんだよ、んな言葉


バーナー

……王様。王様は、本当にそれでええんですか?


カーテン

何がだ?


バーナー

ペーパーテストを基準にするいうことは、王様もその基準で量られるいうことですよ。王様はあてらよりも高い点数をとれなきゃ格好がつかないいうことですよ


カーテン

無論だ。大臣、テストはあるか?


メテオ

ここに


カーテン

これで貴様らの誰よりも高得点をとれるかだと? ――愚問だな


バーナー

っ!


カーテン

どれ、今この場で全問正解をキメてやろうではないか。ペンはあるか?


メテオ

どうぞ


カーテン

うむ。一問目は……なるほど。二問目は……そうきたか。三問目は……ふむ。……ジョウロ


ジョウロ

はい


カーテン

興が乗らん。これは無しだ


ジョウロ

は? 魔王様!?


メテオ

……まさか、判らなかったのでございますか?


カーテン

いや、判った。全部判った


メテオ

本当でございますか?


カーテン

何だ、その言い方。貴様らもだ。何だ、その目。よもや余が一問も解けなかった。などと……考えているのではあるまいな?


バーナー

せやかて王様……


ジョウロ

滅相もございません! そもそも魔王様のようなステージの違うお方は、テストなど受けなくてよいのです! これは我々だけの問題。なので、興が乗らないなどと言わず、ペーパーテストで決めることをお許しください!


カーテン

その口ぶりは、完全に余が判らないと思っているソレではないか?


ジョウロ

滅相も――


コイル

そうだそうだー! 魔王様を信用していたら、そんな言い方はしないはずだぞー!


ファン

あれは、たしなめる言い方だよ、魔王様


ジョウロ

黙れ低脳ども!


カーテン

え、今余に低脳っつった?


ジョウロ

言ってません! 奴らに言ったんです!


バーナー

まあまあまあ。とにかく、ペーパーテストは却下でええんですよね、王様


カーテン

ああ。他の方法を考えるがよい


シャベル

旦那がそう言うなら、仕方ねぇか


ジョウロ

そんなぁ……


カーテン

よいな、ジョウロ


ジョウロ

……承知致しました


 

▽▲▽


バーナー

何事も順番って重要やよな


シャベル

? そうだな


バーナー

なら、これも順番でええんと違うか?


コイル

どういうこと?


バーナー

せやから、五暴星に入った順――あて、ジョウロ、コイル、シャベルの4人が引き続き四天王を務めるっちゅうことで


シャベル

いや、そりゃあ俺様は構わねえが……


ファン

手前が『はい判りました』と言うとでも? それに、順番で言うなら、後から入ってきたものを残すべきじゃないかな。生物も組織も同じ。新陳代謝がなければ腐ってしまう。だからさ、バーナー。いや、バーナー先輩――君が抜けなよ


バーナー

先輩呼びするんやったら後輩らしくあれよ同い年。まあええわ。あまりこれに時間かけるのもしょーもないし、あてとジブンで決着つけよか?


ファン

いいよ。手前も丁度同じ気持ちだったし


バーナー

ちゅーわけで、ジブンら3人はどちらと一緒に四天王したい?


コイル

どちらと一緒って……


ファン

安心していいよ。どちらが選ばれようと、手前とバーナーは、自分を選ばなかった人を恨むから


コイル

恨むの!?


ファン

恨むよね?


バーナー

そりゃあそうやろ。どつきまわしたるわ


ファン

というわけで、どっちが四天王になった方がいいと思う?


ジョウロ

(ため息)どちらか選ばなきゃならないんですよね。――ならば私は、ファンが四天王になることを強く推します


バーナー

なんでや!?


ファン

驚いたな。君はバーナー派だと思ってたけど……


ジョウロ

まさか。私があの粉モンを四天王に推すわけがないでしょう


バーナー

あ、判った! さっきあてがジブンを指差したことを根に持ってんねやろ!


ジョウロ

さあ? そんなことありましたか?


バーナー

白々しい!


ジョウロ

それで、おふたりはどちらを推しますか? ファンを推せば即決定ですけど。それでいいですか?


バーナー

よくねえわ!


シャベル

俺様は――


バーナー

あてやろ!?


ジョウロ

ファンですよね


シャベル

炎のバーナーを推す。先輩だしな


バーナー

カハハハ! 信じとったでぇ、シャベル!


ファン

……そっか。覚えてなよ


シャベル

はッ! いつでも遊んでやるよ、後輩。……あとはお前だ。どっちを選ぶ?


コイル

ぼくは――


バーナー

あてやよな? 前にお菓子買うたったもんな


ファン

……


コイル

ぼくは、選ばない


ジョウロ

選ばない?


コイル

ふたりとも好きだもん。ふたりとも四天王であってほしいもん


バーナー

コイル……


シャベル

ガキが


ジョウロ

選ばなくては、この話し合いは終わらないんですよ?


コイル

うん。だから、ぼくが降りるよ


シャベル

は?


コイル

最初は四天王に残りたかったけど、よくよく考えてみたら、別に死ぬわけじゃないし、年も一番下だし、だから今は、四天王じゃなくても、幹部じゃなくても、いいかなって


カーテン

ほう……


メテオ

これはこれは


シャベル

本当にいいのか?


コイル

うん


ファン

そういうことなら……


バーナー

せやな。本人がよしと言うんやったら


カーテン

決まったか?


コイル

はい。四天王は、ぼく以外の――


ジョウロ

ストップ!


カーテン

ん?


メテオ

どうなさいましたか?


ジョウロ

まだ結論は出ていません。なので、少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか


メテオ

どう致しますか?


カーテン

構わぬ


ジョウロ

痛み入ります。――みなさん、よく考えてください。それでいいんですか?


シャベル

いいも何も……


ジョウロ

もし、このままコイルが幹部から外れた場合、国民たちはどう思うでしょうか


ファン

どう思うって……


ジョウロ

こんなこと言いたくはありませんが、コイルは我々幹部の中で最も若く、最も人気があり……最も強い


バーナー

……言うなや


ジョウロ

そんなコイルを四天王から外したとあっては、きっと国民たちは私たちに対してこう思うことでしょう。『スター戦士を、薄汚い姦計で幹部から追放した、腰抜けの卑怯者たち』と


シャベル

極論だ


ファン

うん、考えすぎだと思う


ジョウロ

考えすぎ。極論。これまで時の権力者たちは、そうやって思考を放棄したことによって、椅子から転げ落ちていきました。皆さんは、彼らの二の舞になりたいですか?


コイル

でも、ぼくが決めたことだよ? 必要なら、国のみんなにはちゃんとぼくから説明するけど


ジョウロ

その説明を全員が正直に受け取ると思いますか? 答えは否です


コイル

そうなの?


ジョウロ

ええ。むしろ、あなたが説明することによって、より国民たちの猜疑心は増します。やがて大衆紙などが『四天王の陰謀』などと銘を打ち、悪趣味な脚色を施し、面白おかしく書き立てます。――元記者であるあなたなら判りますよね、シャベル


シャベル

……掘り返すな、埋めんぞ


ジョウロ

ありもしない陰謀論は、あっという間に人々に伝播する。そうなったとき、国民たちが我々に向けていた敬意と忠義は、軽蔑と嫌疑に変わり――最悪の場合、我々魔王軍は、崩壊します


コイル

崩壊……


ファン

馬鹿げた話だけど、ありえない話では、ないかもね


ジョウロ

故に、コイルを四天王から外すわけにはいかないのです。誰が外れるにしても、コイルだけは、外してはならない


シャベル

話は判った。判ったが……


コイル

でも……


バーナー

ああ。なら、どないすんねん、ちゅーことやな


 

――間


ファン

……仕方ない


シャベル

なんだ、風の。今度はお前が四天王を降りるってか


ファン

うん


ジョウロ

え?


ファン

手前が幹部を降りるよ。四天王は君たち4人だ


バーナー

ホンマに言うとんのか?


ファン

うん


ジョウロ

こう言ってはなんですが、あなたが外れても、コイルのようなことは万に一つも起きませんよ


ファン

うふふふ、判っているよ、そんなことは


コイル

さっきまで、バーナーを蹴落としてでも幹部に残ろうとしていたのに?


ファン

まあね。でも、実はあの時すでに、四天王を降りてもいいと考えていたんだ


シャベル

新参者だからか?


ファン

それもあるんだけど――


コイル

あるんだけど、なに?


ファン

今だから言うけど、手前は君たち4人に憧れて、幹部を目指したんだ。それを思い出してね


バーナー

あてらに憧れ……聞いたことあるか?


コイル

ううん


ファン

本人に直接言うわけないでしょ。確か……メテオさんには、話したことあったよね


メテオ

ええ。五暴星に就任したその日に仰っていましたね。ようやく憧れの人たちと並ぶことができた、と


ファン

うん。だから、そんな人たちを蹴落としてまで、自分が残りたくはないな、と思ったんだよ。あと、支配地域の大きさを見ても、手前が一番少ないからね。妥当でしょ


コイル

ファン……


メテオ

では皆様――炎のバーナー。水のジョウロ。雷のコイル。土のシャベル。この4人が四天王で、異議ありませんね


ファン

異議なし


4人

……


ファン

あれ?


カーテン

どうした貴様ら?


バーナー

おいジブンら


ジョウロ

なんですか?


バーナー

あてらに憧れた奴に席を譲られて、それで四天王決定なんて、そんな結果――


コイル

あっちゃいけないよね


シャベル

ああ、クソ食らえだ


ジョウロ

無論です


ファン

え?


バーナー

ということで


4人

異議あり!


ファン

みんな……


カーテン

異議を却下する


コイル

え?


バーナー

なんでや!?


カーテン

なんだバーナー。口答えか?


バーナー

見りゃ判るやろ


ジョウロ

バーナーだけではありません


コイル

うん! 自分たちで話し合って決めろって言ったのは魔王様じゃん! 勝手に決めないでよ!


シャベル

さすがにこれは承服しかねるぜ、旦那


 

――間


カーテン

マハハハハ――貴様らの反論は正しい。安心しろ。悪いようにはせん。なぁ、大臣


メテオ

ええ


ジョウロ

どういうことですか?


カーテン

実は、大臣がそろそろ高齢ということもあって、その任を降りたいと訴えていてな


メテオ

皆様には隠していましたが、今回の会議は、わたくしめの後任となる者を選ぶために開かせていただいたのでございます


コイル

後任? メテオに代わる大臣さんってこと?


カーテン

大臣とは余の次に権力を持つ者。故に実力者でなければならない。その点、戦いという面において、貴様らは適任だ。だから話し合わせて、それ以外を見ていた


コイル

それ以外?


メテオ

大臣たるもの、状況を見極め、適切な判断を下さなければなりません


ファン

……


メテオ

場合によっては、国や仲間や魔王様のために、自分を切り捨てることができる者でなければ、務まらないのです。――たとえば、自らが座っている権力の椅子を仲間のために降りることができる。そのような者こそが大臣に相応しい


バーナー

え、でもそれで言うたら、コイルは……


カーテン

コイル坊は駄目だ。最初に五暴星が四天王になると伝えたとき、唯一はしゃいでいたからな。こんな簡単な状況判断ができない奴に大臣は務まらん


コイル

ぶー


ジョウロ

つまり……


カーテン

ああ。風のファン


ファン

――はい


カーテン

貴様が、新たな大臣だ。この国のナンバー2。余の右腕として、これからも励んでくれ


バーナー

そういうことか。……よかったな、ファン! おめでとう!


ジョウロ

おめでとうございます


コイル

おめでとー!


シャベル

ナンバー2になれるチャンスだったのかよ……おめっとさん


メテオ

大変なことも多いと思いますが、やりがいのある仕事です。頑張ってください


ファン

……いや


バーナー

いや?


ファン

いや、やらないよ? ていうか、大臣やるくらいなら、この国抜けるよ?


カーテン

え?


5人

……


ファン

そりゃあそうでしょ。だって、ねえ、みんな! 判るよね! 大臣って……罰ゲームじゃんね! ね、シャベル!


シャベル

……やめろ。名指しでこっち見んな


カーテン

ば、罰ゲーム?


ファン

だって、城の管理や面倒くさい書類作業やんなきゃいけないんだよ? まあ、百歩譲ってそれはいいとしても、自分勝手で超わがままな魔王様のお世話を四六時中やらなきゃならないって……罰ゲーム以外の何物でもないでしょ!


カーテン

えぇ……


ジョウロ

魔王様に向かって、なんたる暴言……! 口が過ぎますよ、ファン!


ファン

あ? あ、そうだ。なら、ジョウロやんなよ


ジョウロ

……はい?


ファン

ほら、うちらの中で最も状況判断ができるのって君だろ? 魔王様のことを一番崇拝しているのも君だし。やんなよ、大臣


ジョウロ

いや、そんなことは魔王様が許さ――


カーテン

やってくれるか?


ジョウロ

え? あ、いや、私は、私はとてもエゴが強くて協調性がないので、なので、ね! あ、まとめるで言えば、バーナーが適任かと。我々の中で最も部下に慕われていますし、幹部歴も一番長いですし


バーナー

はぁ!? え、えあ、えーっと……あては無理。無理って言うか、その、そのー、書類とかが……そう! 書類作業がなー! あてアホやからなー! アホやから無理なんや!


ファン

別に、その作業は手伝うよ?


バーナー

いや、それは悪いやん?


ファン

全然


バーナー

悪いねん! 極悪やねん! せやから、大臣はシャベルでええんちゃうか?


シャベル

なんでだよ!?


バーナー

ほらジブン、元々記者やから書類に強いやろ? あと、状況判断能力も高いし、支配地域も権力意識もいっちゃん大きい。さっきファンが大臣になると決まったときも悔しがっとったし


シャベル

あんなのはポーズに決まってんだろうが! 面倒くさいことを押し付けてんじゃねえぞ!


カーテン

面倒くさいこと?


シャベル

いや、あのー、あ、そうだ! 先ほど雷は駄目と言っていましたが、こいつは我々の中で最も人気があり、最も強く、最も若い。今はチャランポランですが、やがて最高の右腕になることでしょう。――というわけで、雷。お前が大臣になれ。な?


コイル

こんなにみんなが嫌がっているものになるわけないじゃん! 一度決まったんだから、ファンがやってよ!


ファン

ぎゃだ!(※嫌だの最上級形)


 

 ▽


カーテン

こやつら……


メテオ

やはり、こうなりましたか


カーテン

予測しておったのか


メテオ

彼らはサポーターではなくプレイヤーでございますからね。わたくしめがやっているような仕事は苦痛でしかないのでしょう


カーテン

大臣


メテオ

なんですか


カーテン

なんか……今まですまなかったな


メテオ

おや、今日は星が降りますかな。とはいえ、いつまでも決まらないわけにはいきませんね


メテオ

――界層の狭間、剪定(せんてい)されし星域(せいいき)の虚(うろ)よ。我の前にその姿を現せ。万物の崩壊と再生を世界に示せ


カーテン

……何故、詠唱しておるのだ?


メテオ

アーティファクト――ジンジャーエールファンク!


 

――メテオの手にどこからともなく一冊の本が現れる。


カーテン

何故、アーティファクトを出しておるのだ?


メテオ

開け――架空間エムアイオーガニック!


 

――メテオの魔法が発動し、7人は一瞬でメテオが作った空間に転移される。


コイル

あれ? いつの間に?


シャベル

これは、メテオの……


バーナー

懐かしいな。で、なんであてらを架空間に移動させたんや


メテオ

話し合いでは、にっちもさっちもいかないようなので――ここでなら、いくら暴れても問題ございませんので、皆様の得意な方法で決着をおつけください


ジョウロ

いいのですか!?


ファン

さすがメテオさん、話が判る!


カーテン

おい、大臣。何を勝手なことを――!


メテオ

まぁまぁ。いいではございませんか。こうやって決める方が、皆様らしい


カーテン

それは、そうだが……!


バーナー

超越者はすでに去り、天を抱くは紅蓮の腕(かいな)。その怒りを解き放ち、全てを跡形もなく灰にせよ


ジョウロ

水竜よ、深き海の底より舞い上がり、災厄を産み落とせ。大地を潤す青き怒涛


コイル

空を裂く雷獣よ、その身を焦がし、尚も走り続ける破壊者よ。趨勢(すうせい)を捻じ曲げ、一閃の光と共に我が敵を粉砕せよ


シャベル

堅牢なる大地よ、総てを防ぐ、揺るぎなき城塞となれ。足場を崩し、星の均衡を打ち破れ


ファン

静寂など要らぬ。膠着(こうちゃく)など要らぬ。風よ、吹き荒べ。無惨に無慈悲に圧倒的に、戦場を制圧せよ


 

 

5人

アーティファクト!

 

 


バーナー

アップルジャズ!


ジョウロ

ペリエオペラ!


コイル

パインエレクトロニカ!


シャベル

コーヒーブルース!


ファン

ウーロンディスコ!


 

 

 

――5人、それぞれ固有のアーティファクトを構え、向かい合う。

 

 


バーナー

全員、どつきまわしたるわ!


ジョウロ

こちらの台詞です


コイル

ぼくについてくることもできないのに?


シャベル

いつまでもはしゃいでられると思うなよ


ファン

やっぱり、四天王にチンピラはいらないかなぁ


 

 

カーテン

……アーティファクト――コーラポップ!

 

 


 

――カーテン、巨大な剣を手に、5人を見据える。


ジョウロ

魔王様!?


ファン

詠唱なしで、アーティファクトを……!?


シャベル

相変わらずバケモンだな……


バーナー

もしかして王様――混ざるつもりなん?


カーテン

無論だ。余は魔王ぞ。こんな楽しそうな戦い、黙って見ているわけがなかろう


ファン

……それは、本気でやってもいいってことだよね?


カーテン

無論だ


ジョウロ

ということは、一番最初に負けた者が大臣で、最後まで残っていたのが魔王になる、ということで、いいんですね


カーテン

むろ……そうなるのか?


コイル

うん。これはぼくらの立場を賭けた戦いだから。その戦いに参加する以上、魔王様にも賭けてもらわなきゃ


カーテン

……よかろう。勝利者が魔王。最初の敗北者が大臣。それ以外が四天王だ。さぁ、死ぬ気でかかってこい――中ボスども!


 

▽▲▽


メテオ(M)

雌雄は決した。


メテオ(M)

戦場は、今や静寂に包まれている。


メテオ(M)

そんな中、ソレは、足元に横たわった5人を見下ろしながら、途切れ途切れの呼吸を整えると――


メテオ(M)

次の瞬間、激しい雄叫びをもって、静寂を破った。


メテオ(M)

――新たな魔王が、産声を上げた。

タイトルとURLをコピーしました