魔法技術が発達した18世紀ヨーロッパ風の異世界を舞台に描く、ライトノベル的なファンタジー活劇です。
タイトル
トワ・エ・モワ~二人の魔術師~
作者
島嶋徹虎
ジャンル
ファンタジー
上演時間
約50分
男女比
不問2
シャル
シャルロット・エカルラート(※シャルロットは女性名。男性として演じる場合はシャルル)。通称・シャル。幼少期に魔力の暴発で右腕を失くしている。生真面目で努力家だが、ノエルに振り回されがちな苦労人。
ノエル
ノエル・テネブル。魔装具職人。質は良いがピーキーすぎる性能の魔装具を製作してしまう変人。祖父も腕の良い魔装具職人として知られている。傲岸不遜な性格。
(※「」で括っていないセリフはナレーション、もしくはモノローグとして演じてください)
ノエル
《魔法》という力が、いつからこの世界に存在しているのかはわからない。そして、その力を人類がいつ手にしたのかも。
ノエル
此処、ヴェルサリア王国では、そのような《魔法》を、自在に操るための術――即ち、《魔術》を専門的に学ぶ、《魔術師》の育成に力を注いでいた。
ノエル
王立サン=ジュリアン魔導学院。国内で最も古く、歴史ある《魔術》の学び舎。
ノエル
物語は、この学院に通う二人の若者の出会いから始まる――
* * * * *
タイトルコール(シャル)
『トワ・エ・モワ~二人の魔術師~』
* * * * *
――テネブル工房の店内。ノエルが何やら告知用のチラシを壁に貼り、腕を組みながら不遜な態度でそれを眺めている
ノエル
「……〝サン=ジュリアン魔導学院理事長、グラブール公バスケス・ド・ギャドレー主催、学生対抗《魔闘技大会》〟か……フン。毎度毎度、大層なものだ」
シャル
「……失礼する」
ノエル
「――おや、いらっしゃい。《呪具》をお探しかな? それとも《魔装具》をご所望かい?」
シャル
「ああ、えっと……」
ノエル
「ん? 君は……確か、先日の転校生じゃないか? 生徒集会で挨拶していただろう」
シャル
「え? ……そういうキミも、魔導学院の生徒なのか?」
ノエル
「ああ。私の名はノエル・テネブル。錬金工学科の一年だ」
シャル
「そうだったんだ……ボクは、シャルロット(orシャルル)・エカルラート。自然魔学科の一年だよ」
ノエル
「なんだ、同級生じゃないか。では、シャルと呼ばせてもらおう。よろしく頼むよ」
シャル
「ああ、よろしく。……それより、ここは《アーティファクト》の工房……だよな?」
ノエル
「ほう……このテネブル工房を知らないとは、さては君、この街の人間じゃないな」
シャル
「王都には昔住んでいたんだけど、すぐに地方に越したから、あまり詳しくなくて……街道沿いに来て、一番最初に目に付いた店だったから」
ノエル
「ドゥルーズ通りのテネブル工房と言ったら、この界隈はおろか、王都リュテスでも一、二を争う名のある工房だ。よーく覚えておきたまえ」
シャル
「そうなのか? ……それは知らなかった」
ノエル
「ふふん。凡人がまた一つ賢くなったな」
シャル
「むう。なんか癇に障るやつだな……そもそも、キミがここの店主なのか?」
ノエル
「私が店主だと? フッ、愚問だな。こんな若造が店主に見えるか? ――私は、実家の店番をしているだけだ」
シャル
「……なんでそんな偉そうなんだよ」
ノエル
「ま、いずれは私の工房になるのだ、問題ない。それに、うちのじいさん――ああ、この店の店主ときたら、流しの魔装具職人として各地を放浪していてな。最後に帰ってきたのはひと月前だ。まったく、今頃どこをほっつき歩いているのやら。とっくのとうにくたばってるかもしれんな」
シャル
「笑えないだろそれ……」
ノエル
「そんなことより、君は何が望みだ? まさか冷やかしじゃあるまい?」
シャル
「……って言っても、キミだってまだ学生なんだろ?」
ノエル
「馬鹿を言え。単なる見習いが店を任せられるわけないだろう。安心しろ。私の技術はじいさんにも勝るとも劣らん。この辺りのどの工房よりも優れた《アーティファクト》をこしらえてやろう」
シャル
「相当な自信だな。それなら……」
――シャルは一呼吸して、右腕を見せる。肘から先がない
シャル
「――義手が欲しい。見ての通り、右腕だ」
ノエル
「ふむ。随分慣れているようだな。その様子を見ると、先天性のものか、あるいは幼少の頃に負った傷のようだね」
シャル
「まあ、そんなところだ」
ノエル
「前に付けてたのは?」
シャル
「え?」
ノエル
「義手を付けるのは初めてじゃないんだろう? 前に付けてたのはどうした」
シャル
「……壊れた」
ノエル
「はあ?」
シャル
「安物だったから、壊れてしまったんだ。しょうがないだろう?」
ノエル
「(呆れたように)いくら安物と言ったって、そうそう壊れるものでもあるまいに。まあ、いいさ。一体どんな無茶をしたのか知らんが、余計な詮索はしないよ」
ノエル
「……あー、ちなみに、希望する材質とグレードは? 最も上質なのは、軽くて魔術補助効果にも優れたミスリル銀だが、当然ながら価格がかさむのが難点だな。コスパを重視するなら、私のオススメは……」
シャル
「一番安いやつで良い」
ノエル
「……おいおい、何を言うんだ。こいつは文字通り、君の右腕になるんだぞ? 悪いことは言わない、ちゃんとしたやつにしておくんだ。何なら多少はマケてやったっていい。ウチのじいさんでも同じことを言うはずだ」
シャル
「良いものなんて、もったいなくて使えないよ。どうせボクには《アーティファクト》はまともに使いこなせない」
ノエル
「ふぅん?」
シャル
「なんだよ?」
ノエル
「いーや、別に。……それでは、見積もりを取るぞ。素材は至って普通の炭素鋼と、一部にウォールナット材を使ったコンポジットタイプ。心臓部となる魔法石のグレードも、最低のEランクだ。……間違いないな?」
シャル
「ああ。それで良い」
ノエル
「まったく。これじゃバフはほとんど得られんぞ。魔法石の感度も低いから、指や関節も、思ったようにスムーズには動くまい。魔力を消費しない分、完全機械式のほうがまだマシだろうさ」
シャル
「そっちのが安く済むなら、そうしてくれ」
ノエル
「馬鹿を言え。君は魔術の素養があるから《アーティファクト》を買いに来たんだろう。それでは、何のために魔装具職人の工房に顔を出したんだか、わからないじゃないか、まったく。まあ、魔法石くらいは一段グレードの良いやつにサービスしておいてやる」
シャル
「あぁ……ありがとう」
ノエル
「フン。じゃあ、手を出せ。無いほうの手もだ」
シャル
「なっ、なんで……」
ノエル
「寸法を測るんだ。当たり前だろう? まさか、サイズまで何でも良いとでもいうつもりじゃないだろうな?」
シャル
「いや、まあ、それならいいけど……」
ノエル
「どんだけ用心深いんだ、まったく。……おかしなやつだな、君は」
シャル
「その言葉、キミにだけは言われたくはないな。……ほら、早くしてくれ」
ノエル
「ああ、失礼するよ。(シャルの手を取り)……む」
シャル
「ん、どうした……?」
ノエル
「いや、なるほど。だから君は《アーティファクト》を使いこなせないと言ったんだな」
シャル
「……わかるのか?」
ノエル
「ああ。さすがに原因まではわからないが、魔導脈の循環系が閉じられてしまっているな。確かにこれでは、《アーティファクト》どころか、魔術すらろくに使えまい。だが……」
シャル
「(それ以上聞きたくないという風に遮って)だからさっき言っただろ。……どうせボクには、魔術の才能はない」
ノエル
「(軽くため息を吐いて)……ならば、なぜ君は魔導学院にきた。魔術を学びたいからではないのか」
シャル
「む。それは、その……」
ノエル
「フン。いいさ、詮索はしないと言ったからな」
シャル
「なら良いけど……それより、あそこに貼ってあるのは?」
ノエル
「ああ、あれか。《魔闘技大会》と言ってな。簡単に言えば、学院に通う生徒たちが《魔術》の腕を競い合う〝競技会〟だ」
ノエル
「まあ、それ自体は古くからあるが、数年ほど前に、学院の運営責任者である理事長が代替わりしてな。その理事長殿の肝いりで、現在のように大々的な見世物として開催するようになったそうだ」
シャル
「理事長……グラブール公バスケス……ッ」
ノエル
「どうした、何か気になるのか?」
シャル
「ああ……いや、この理事長のグラブール公って人、どんな人なんだ?」
ノエル
「私もあまり詳しくはないが、貴族の中でも最近、特に権力を強めているそうでな。この歴史ある学院の理事長にも、国王陛下からの直々の指名で、鳴り物入りで就任したそうだ。本当かどうかしらんがね」
ノエル
「なんにしても、グラブール公に関しては、良い噂はまったく聞かないな。確か、十年ほど前に、エルダン伯の所領と財産すべてを継承したんだったか。あれもどうせ、非合法の手段だったのだろう」
シャル
「……ッ」
ノエル
「いずれにしろ、グラブール公が学院の理事長として、生徒たちの前に姿を現すのは年に数度。この魔闘技大会は、その数少ない中の一つだ」
シャル
「…………」
ノエル
「どうかしたか?」
シャル
「いや、なんでもない。義手のことよろしく。とにかく最低限使えれば良いから、なるべく早く頼むよ。この状態のまま、あまりジロジロ見られるのも嫌だから」
ノエル
「任せておけ。三日以内には仕上げてやる」
シャル
「ああ。それじゃ、また学校で」
――そう言って店を後にするシャル。しばしの間
ノエル
「……確かにあれでは、魔術は使えない。だが、あいつの内に秘めた魔力量……あれは……――フッ、なかなかにおもしろそうなヤツじゃないか」
* * * * *
――三日後。サン=ジュリアン魔導学院の敷地内にある庭園
――噴水の前のベンチに腰掛けるシャルにノエルが声をかける
ノエル
「待たせたな、シャル。注文の品だ」
シャル
「やあ、ノエル。そうか、出来たのか……」
ノエル
「どうした、そんなに項垂れて。元気がないようだな。学院には慣れたのか?」
シャル
「いや……やっぱり、ボクには魔術の才能はないみたいだ」
ノエル
「その様子を見るに、随分と授業に苦戦しているらしい」
シャル
「ああ。本当に、キミが言っていた通りだ。これじゃ、ボクは何のためにこの学院に来たのかわかりゃしないな」
ノエル
「…………」
――ノエルも隣に腰掛けながら、不意にシャルに告げる
ノエル
「君の編入試験の結果を見させてもらった。実技の点数は最低だが、筆記のほうは非常に優秀だな。この学院に入学するために、よほど努力して勉強したんだろう」
シャル
「は……はあ⁉ そんな情報、生徒が閲覧できるものじゃないだろ!」
ノエル
「この学院のセキュリティは実にザルでな。ほんのちょっと管理魔術と封印魔術の構成を弄ってしまえば、それくらいはちょろいものさ」
シャル
「うっ……な、なんというか、呆れてものも言えないよ……」
ノエル
「フッ。世辞を言ったところで、見返りは何もないぞ?」
シャル
「いや、別に褒めてはないから」
ノエル
「まあ、ともかくだ。よく聞け、シャル。人間は、内なる《魔力》を放出することで、外界の《霊質》と結合させ、《魔法》という現象を発生させる」
ノエル
「その《〝魔〟法》を操るための〝術〟こそが《魔術》だ。自身の力量差や、得手不得手こそあれど、基本的には魔術の素養がある者ならば、やり方さえ身に付ければ《魔術》は使える。その《魔術》を、より専門的に学ぶ、六年制の学校がこの魔導学院だ」
シャル
「そんなの、誰だって知ってるだろ」
ノエル
「おさらいだよ、おさらい。その中でも、私のように《錬金工学科》に属する学生は、主に多種多様なアイテムの制作を学ぶ。例えば《呪具》は、それ自体が魔法的な効果を帯びたものだ。代表的なものと言えば――」
シャル
「《呪符》や《魔法薬》なんかだろ?」
ノエル
「フン、その通りだ。……一方の《魔装具》は、《魔法杖》や《魔法指輪》などが代表的だが、これらはあくまでも、魔術を使うための補助道具に過ぎない」
ノエル
「魔術の効果を増幅させるもの、魔術の行使におけるプロセスを効率的にするものなど、性能は様々あるものの、まあ、普通に魔術を使う分にはなくてもどうにかなるもんだ」
ノエル
「だが、中には、それ自体を魔術によって操作し、自身の四肢の代わりとするものもある。それこそ、この義手のようにな」
シャル
「……それで、何が言いたいんだ、キミは」
ノエル
「言っただろう。これはただのおさらいだ。――では、本題に入るとしよう」
シャル
「……えっ⁉ うわっ、ちょっ、何をッ……やめッ……だ、だめだ、そんなトコ触っちゃッ!」
――ノエルはシャルに義手を装着させ、その腰をポンと叩く
ノエル
「――ほら、これでどうだ」
シャル
「あ……こ、これが……キミの作った《アーティファクト》の義手……すごい、素人のボクが見ても、技術の高さがわかる……これを、たった三日で?」
ノエル
「フン、これくらいは造作もない。それより、〝つなげて〟やったんだ。何か感じるだろ」
シャル
「あ、え……なっ、なんだ、この感覚……」
ノエル
「よし、ならば……あそこの木に向かって、攻撃魔法を放ってみろ。衝撃波でも熱線でもなんでもいい。とにかく、君があの木を吹き飛ばせそうだと、想像する威力でやるんだ」
シャル
「え、でも……」
ノエル
「良いから、ほら。とにかくやってみろ」
シャル
「う、わかった……」
――シャルは一度、スゥーと深呼吸して静かに呪文を唱え、気合を放つ
シャル
「我が手に集いし光の力、獲物を射抜く鏃となれ――《光芒の矢》」
――爆発音。シャルが魔法を放った次の瞬間、低木が生えていた場所には小さなクレーターができている
シャル
「――どわああッ⁉ なんだこれッ! なんだこれええ! 木が跡形もなく吹っ飛んだぞ⁉」
ノエル
「フッ、まさかここまでの威力とは思わなかったな」
シャル
「どういう、ことだ……? こんなに高威力の魔術なんて、ボクには……」
ノエル
「体内の魔力と魔動脈の関係性は、〝水道〟に例えられる。魔術師の体内に蓄えられた魔力は、いわば〝水源〟。魔動脈は、体内の魔力を外に放出させるための、〝水道管〟と〝蛇口〟といったところだ」
シャル
「水道と、蛇口……」
ノエル
「ああ。しかし、君の体質は循環系にバグが生じており、〝水道管と蛇口〟が壊れてしまっている。そのため、うまく魔力を放出できず、思うように魔法を発生させられなかった」
シャル
「…………」
ノエル
「通常の《アーティファクト》は、例えるなら、水道の〝蛇口〟に細工をするようなものだ。高圧にして水の勢いを良くしたり、拡散させてシャワータイプにしてみたりな」
ノエル
「だから、もともと〝蛇口〟が壊れてしまっている君にとっては、どんな《アーティファクト》を付けても同じことだった」
ノエル
「それで、使いこなせないどころか、無理矢理に魔力を放出させようとして、その圧力に耐えられず、壊れてしまったんだろう」
シャル
「うん……確かに、キミの言う通りだ」
ノエル
「しかしその点、私が独自の方法で制作した《アーティファクト》は、少々特殊でなぁ。いわば〝水道管〟そのものを拡張させ、放出する魔力量を増やし、魔法の質や威力を底上げする効果を持っている」
ノエル
「だから、私が本気で作った《アーティファクト》を、そんじょそこらの魔術師が使えば、すぐに過負荷を起こして、あっという間に魔力が枯渇してしまうんだ」
ノエル
「まあ、魔力は体力と同様に休めば回復するが、一回キリでダウンしてしまえば意味がない。そのため、これまでまともに使いこなせる者がいなかった」
シャル
「そ、それって、逆に言えば、とてつもなく危ない代物なんじゃ……」
ノエル
「(無視して)だが、幸いにも君の体質――いや、非常に優れたポテンシャルならば、使いこなせるのではないかと考えた。そして、それは正解だった!」
シャル
「ちょ、ちょっと待って、ボクなんかにそんなポテンシャルなんて……」
ノエル
「今まで循環系が閉じてしまっていたから、君自身はおろか、周りの人間は誰も気付いていなかったようだが……君が蓄えている魔力量は、正直言って尋常じゃない」
シャル
「…………」
ノエル
「(どこか楽しそうにニヤリと笑って)だから君なら、きっと使いこなせる。君の中に溜め込まれた、無尽蔵の魔力を、私の《アーティファクト》で存分に開放できるってわけだ!」
シャル
「だ、だけど……」
ノエル
「まあ、最初は信じられなくても構わんさ。だが、そうだな……シャル、そこにある噴水は、この庭園のシンボルだ。日に数回、決まった時間になると水の勢いが増して、高く吹き上がる仕掛けになっている」
シャル
「それが、どうしたんだ?」
ノエル
「そうして勢いよく放出された水は――ほら、見たまえ」
――シャルが視線をやると、ちょうど噴水が勢いよく、高く吹き上がった。
シャル
「……空に……虹をつくる……」
――しばし噴水がつくりだす虹の光景に見惚れながら、思い出したようにシャルが慌てて口を開く。
シャル
「――って、あっ、それはそうと! こんなに良いモノ作ってくれても、ボクには持ち合わせが!」
ノエル
「ああ、気にするな。料金はいらん。なんせ、私の《アーティファクト》をまともに使えたのは君が初めてだからな。……それよりも、聞かせてくれないか」
シャル
「な、何をだ……?」
ノエル
「君がこの学院に来た理由だ。その体質では、編入試験だって相当に苦労するとわかっていたはずだ。先ほども言ったが、実技を捨てて筆記試験の成績だけで入学しようなど、その努力は並大抵のものじゃない。……なぜそれほどまでして、君はこの学院に来ようと思った?」
シャル
「……《クレ・ドゥ・フラム》って、宝玉級の魔法石を知っているか?」
ノエル
「《炎の紋章》か。聞いたことがある。魔術師協会から特級品に指定された宝玉だな」
シャル
「うん。魔法石は、基本的に《アーティファクト》の心臓部として、さまざまな補助効果を生み出すものだ」
シャル
「中でも、宝玉級の魔法石は、補助効果に優れるだけでなく、それ自体に莫大な魔力が宿っていると言われている」
ノエル
「ああ……思い出したぞ。そう、それこそ《クレ・ドゥ・フラム》といえば、グラブール公が常に所持している、《魔法杖》に取り付けられているやつじゃないか」
シャル
「そう……十センチほどの、ルビーにも似た紅の宝玉。その小さな石の中に、魔力量にして数メガソロモンとも言われる、莫大なエネルギーがあるそうだ」
ノエル
「それだけの魔力を一気に解放すれば、王都どころか、この国が文字通り吹っ飛んでしまうほどだな」
ノエル
「……まあ、だが、並大抵の魔術師では、それだけの魔力を一度に解放できやしない。どれだけ豊富な魔力が宿っていても、引き出せないのなら意味がない」
ノエル
「結局は、その希少性だけが注目され、魔法石としての価値よりも、身分の高さを示すステータスの役割でしかないな。……それが、どうかしたのか?」
シャル
「確かにあの宝玉は、ある種の象徴でしかないかもしれない。だけど……決して、あんな男が所持していて良いものじゃない……ッ」
ノエル
「ふむ……なにやら、ワケありのようだな」
シャル
「あの宝玉のもとの所有者の名は、エルダン伯ジロン・ド・リュミエールだ」
ノエル
「エルダン伯というと、グラブール公が継承した……」
シャル
「……奪ったんだよ、あいつが、全部ッ! ボクの本当の名は――シャルロット(orシャルル)・ド・リュミエール。エルダン伯ジロンは、ボクの父だ!」
ノエル
「ほう、なるほど。確か十年ほど前、エルダン伯は原因不明の爆発事故と、それに伴って起きた屋敷の火災によって、一家もろとも犠牲になったと聞いた」
ノエル
「一説には錬金術の実験中に誤って魔力が暴発したと言われていたな。――だが、ということはつまり、グラブール公が、君の父上を殺害したと」
シャル
「ああ、そうだ。父だけじゃない、ボクの家族を……あいつは、すべて奪ったんだ」
ノエル
「詳しく聞かせてもらえるか」
シャル
「……当時あいつは、王国政府の魔術管理院で、長官を務めていた」
シャル
「そして、ボクの父が長年研究していた、宝玉級の魔法石から莫大な魔力を解放するための技術に目を付け、数名の部下を連れて、ウチの屋敷を訪れた」
ノエル
「ふむ……君の父上は、とんでもない研究をしていたんだな」
シャル
「ああ。キミも言ったように、あれだけの魔力を一気に解放できれば、世界の軍事バランスを崩しかねないほどの、危険な兵器になるだろう」
シャル
「あいつはそれを狙って、父を多額の金で買収しようとした。だが、父はそれを断り……あいつに、殺された……ッ」
ノエル
「……君は、それを目撃した唯一の証人というわけか。だが、グラブール公の犯罪を知らしめる証拠はあるのか?」
シャル
「ある……それこそが、《クレ・ドゥ・フラム》だ」
ノエル
「証拠が《クレ・ドゥ・フラム》だと? ……どういうことだ?」
シャル
「犯行時、ボクは物陰に潜みながら、それを見ていた。父があいつに殺される瞬間、大声を上げて泣き出したい衝動を必死に抑えながら……その一部始終を、《記録魔法》に残した」
ノエル
「……!」
シャル
「だが、《ログ》は、保存するために絶えず魔力を消費し続けなければ、やがて消えてしまう」
シャル
「それでボクは、あいつに見つからないよう、父の保管庫にあった《クレ・ドゥ・フラム》に、それを封印することにしたんだ」
ノエル
「これは驚いた……私とそう変わらん年なら、君はその時まだ十歳にも満たない頃だろう? 大した機転だな」
シャル
「そして、咄嗟に《ログ》を移し、自分以外には解けないような、とにかく複雑な封印を構築した。だけど、段階を踏まずに、無理に魔術を仕込んだものだから……」
ノエル
「《クレ・ドゥ・フラム》の膨大な魔力が逆流、暴発して……」
シャル
「ああ。腕が吹っ飛んで死にかけた」
ノエル
「ひどい無茶をしたもんだな……あれだけのエネルギーが込められた宝玉なんて、それこそ国が吹っ飛ぶほどではないにしろ、扱い方を間違えればすぐに暴発してしまう。文字通り、爆弾を弄るようなものだぞ」
シャル
「だけど、《ログ》を長期間にわたって保存できるほど、充分に魔力を蓄えたものなんて、あの場には他になかったんだ。……ともあれ、それ以来だよ。ボクが魔力をうまく放出できなくなったのは」
ノエル
「なるほど。宝玉の魔力が一気に逆流したから、魔導脈の循環系にバグが起きてしまったわけか。……それから、君はどうしたんだ」
シャル
「あいつは、ボクがその爆発で死んだと思ったんだろう。実際は気を失っていただけで、その後、父の部下だった人に助けられ、生き延びることができた」
シャル
「だけど、ボク以外の家族は全員殺され、屋敷はあいつの証拠隠滅のために焼失。父の所領や財産は、全部あいつに奪われた。そして、ボクは正体を隠しながら、今日まで生きてきたわけだ」
ノエル
「壮絶な過去を経験してきたのだな……なんにしろ、君の事情はよく分かった。それで君は――〝復讐〟のために、この学院に来たのか」
シャル
「……ああ、そうだよ。高位の貴族ともなれば、警備が厚くてそう簡単に近寄れない。それで、あいつがこの学院の理事長に就任したと聞いて、近づくチャンスがあるんじゃないかと思った……だけど、この学院にも滅多に顔を出さないんじゃ、本当に何の意味があってここにきたのか……」
ノエル
「ちなみに、グラブール公は《クレ・ドゥ・フラム》に《ログ》が封印されていることを知っているのか」
シャル
「……うん。たぶん、何らかの封印魔法が仕組まれているのは、気付いていると思う。でも、強引に解呪しようとしたら、それこそボクみたいに暴発の危険性があるし、そもそも、ボクを含めて、あの場にいた人間はきっと全員死んだと思い込んでる。だから、おそらく封印は放置して、そのままになってるはずだ」
ノエル
「なるほどな。――ならば、手はある」
シャル
「……?」
ノエル
「今度の《魔闘技大会》で優勝すればいいのさ。それならば、表彰式の際に、ヤツの至近距離に近づき、封印された《ログ》を、公衆の面前でさらけ出すことができるだろう」
シャル
「はあ⁉ 何を馬鹿げたことを! そもそも、ボクなんかの力で優勝なんて……」
ノエル
「いいやできるさ。もちろん、君だけだったら無理だろう。当然、私だけでも無理だ。だが、できる。――君と私ならね」
シャル
「もしかして……単独部門ではなく、二人組部門に出場するつもりか?」
ノエル
「その通りだ。……フッ、何も心配は要らん。この私に任せておけ」
シャル
「はあ……本当にキミってやつは、呆れるほどに大した自信だな……でも、わかったよ。ボクは……キミに賭けよう」
――そう言って二人は、互いに口元を歪めながら握手を交わす
* * * * *
――テネブル工房にこもり、装備の制作と作戦会議に臨む二人
ノエル
「《魔闘技大会》のペア部門には、過去三年間無敗の、絶対王者と謳われる二人組がいる」
ノエル
「一人は、フランソワ・ド・ムルタージュ。自然魔学科五年。攻防共に優れた魔術の使い手だ」
ノエル
「そして、その相方は、シモン・レギーユ。錬金工学科五年。こいつは《魔法人形》使いとして知られている」
ノエル
「こいつらの特長は、フランソワが展開する《魔法障壁》に守られた、シモンの《ゴーレム》が大暴れし、そこへフランソワが攻撃魔法で追撃するという、練度の高いコンビネーションにある」
ノエル
「特に厄介なのは《バリア》だな。こいつを突破できなければ話にもならない」
シャル
「ん? シモン・レギーユって確か、以前、ゴーレムのコンテストで優勝してたよな。新聞で見たことある」
シャル
「それに、フランソワ・ド・ムルタージュって、代々、宮廷魔術師を輩出してきた、あのムルタージュ家の子息か⁉ 天才コンビじゃないか!」
ノエル
「……フン。なぁにが三年間無敗の天才コンビだ。逆に言えば三年の間、ヤツらは手の内をさらけ出し続けたのさ」
シャル
「だけど、実際に彼らに勝てた者はいないんだろう?」
ノエル
「良いか、シャル。魔術は確かに万能だが、絶対じゃない。この国の魔術師どもは、どいつもこいつも、その根本的なところを忘れている。人間のやることに、完全無欠など、あり得ないというのにな」
シャル
「…………」
ノエル
「つまりだ。どれだけ強固な《バリア》であっても、どんな魔法も通じないなんてことはありはしない」
シャル
「まさか、《対抗魔術》を使うつもりか? 魔術そのものを打ち消してしまえば、確かに《バリア》は消せる。だけど、大会のルールとしては反則だろ?」
ノエル
「その通り。《アンチマジック》合戦になってしまったら千日手だ。それこそどちらかが音を上げるまで、不毛な応酬を繰り返さなければならない」
ノエル
「だから大会のルール上では、《アンチマジック》は禁止となっている。……まあ、なんでもありの〝実戦〟なら、それを回避するために、刀剣を用いて白兵戦に持ち込んだり、火打石銃で射撃したりするところだが、あくまでもこれは魔法の優劣を決める競技だからな。……ならば、《バリア》を突破するための条件とはなんだ?」
シャル
「ええと、《バリア》を上回るほどの威力の魔法をぶつけたとき」
ノエル
「ほかには?」
シャル
「ほかに? ええと……」
ノエル
「最も〝初歩的〟で、最も〝決定的〟な条件があるだろう。――そう、相手がくたばった時だ」
シャル
「あ……え? えぇッ⁉」
ノエル
「あの《バリア》は確かに優秀だ。どれだけ強力な攻撃魔法をぶつけても破られない」
ノエル
「そのための完璧なまでの術式が〝構築〟されている。だが、いくら魔術が完璧でも、それを使うのは所詮、人間だ」
シャル
「…………」
ノエル
「考えてもみろ。対象となる魔法を、《バリア》が打ち消す際に消費される魔力量は、どんなしょぼい攻撃魔法でもほぼ一定だ」
シャル
「あ。つまり、とてもコスパが悪い」
ノエル
「その通り。低威力で魔力消費の少ない魔法を、絶えず放ち続け、《バリア》に使う魔力を無駄に消費させてやるんだ」
シャル
「そうか、もし彼らがそれを嫌がり、低威力の魔法に合わせて《バリア》のグレードを下げたら、今度は最大威力の魔法で《バリア》を打ち破ってしまえばいいわけか」
ノエル
「ああ。だが、それだけじゃない。やつらの魔力を消費させ、集中力を削ぐために、ありとあらゆる方法で嫌がらせしてやるのさ」
シャル
「うわあ……悪い顔だ……」
ノエル
「フッ、世辞はよせ」
シャル
「だから褒めてないんだよなぁ。……それより、今までそんな戦術を使った相手はいなかったのか?」
ノエル
「ああ。どいつもこいつも、自分自身の《魔力》と《魔術》に自惚れているのさ。だから、これまでは〝通り一辺倒〟な魔法比べにしかならなかった」
ノエル
「いわば、プライドが高いだけの脳筋共しかいなかったわけだ。そして、それはあいつらも同じだ。絶対王者だなんだとおだてられて、今が一番慢心しきっている頃だろうよ」
シャル
「でも、決勝で当たる相手が彼らだとして、それまでに三回は勝たないといけないんだぞ」
ノエル
「言っただろう? 魔術は万能だが、絶対じゃない。所詮は人間のやることだ。必ずどこかにボロが出る。それを突いていけば、簡単さ」
シャル
「(ぽそりとつぶやくように)キミとボクなら、か……」
ノエル
「クックック……明日の本番が楽しみだなぁ、シャル。やつらに目にもの見せてやろうじゃあないか!」
シャル
「ほんと悪い顔するなぁ……」
* * * * *
シャル
そして迎えた《魔闘技大会》当日。ノエルの言う、相手のミスを逃さず的確に捉える戦術と、ノエルが作ってくれた〝義手〟の効果もあり、ボクは、これまでにないほどの、最高のパフォーマンスを発揮することができた。
シャル
そして、ボクたちはそのまま、一回戦、二回戦、準決勝を勝利し――
ノエル
「――いよいよ、決勝だな」
シャル
「うん……まさか、本当にここまでこれるなんて思わなかったよ。キミのおかげだ。ありがとう」
ノエル
「フン。言っただろう、私だけでも無理だと。君の実力があってこそだ」
シャル
「珍しいな、君が謙遜するなんて」
ノエル
「私は事実を言っているだけだ。……それにまだ、もう一つ残ってるじゃないか」
シャル
「そうだね……ここまで来たら、本当に信じられる気がする。ボクたちでなら、きっと……」
ノエル
「ああ、絶対に優勝してやろう」
シャル
「うん……さあ、試合開始だ」
ノエル
「フン。天才だか前菜だか知らんが、吠え面をかかせてやるわ!」
シャル
「だからそれ、悪役のセリフだよ……?」
* * * * *
シャル
――開幕一番。ノエルは自身が錬成した、《火焔の魔法薬》を、相手陣営に放り投げた。辺り一面を炎が囲む。
シャル
炎そのものは相手の《バリア》に防がれ、ダメージにはならないが、〝熱〟は《バリア》でも防げない。ノエルは、相手の体力と集中力を切れさせることを狙ったのだ。
ノエル
「ふはは! 蒸し焼きにしてくれる!」
シャル
「言い方が物騒すぎる!」
ノエル
そして、シャルは義手を構えて集中し、魔術を撃ち放つ。
シャル
「我が手に集いし光の力、闇を劈く稲妻となれ――《眩き雷光》!」
ノエル
シャルの放った雷撃は、全長3メートルはあるかという、巨大な《石の人形》を確実に捉えた。
ノエル
当然ながら、その図体では避けることなどできはしない。しかし、雷撃は《ゴーレム》を覆う《バリア》に弾かれ、霧散する。
シャル
「――まだまだぁ! 《光芒の矢》!」
シャル
けれど、もちろん、《バリア》に遮られることは想定内だ。ボクは、最初の作戦通り、威力を抑えた魔術を、絶えず連続で撃ち続けた。
ノエル
「よし、そのまま、フランソワには《バリア》を張ることに集中させて、攻撃魔法を使わせるな!」
シャル
防戦一方の相手の顔に、ジリジリと焦りの表情が浮かぶ。ノエルの放った炎の熱のおかげもあってか、彼らの額には汗が浮かび、疲労の色が見えた。
ノエル
「いいぞ、シャル! その調子だ!」
シャル
だが、そうは言っても、彼らも相当な実力者だ。簡単に勝たせてくれる相手ではなかった。
シャル
――《ゴーレム》の放った衝撃波が、ノエルの身体を吹き飛ばしたのだ。
ノエル
「がはっ……!」
シャル
「ノエル!」
ノエル
「くっ……私に構うな! 君はとにかく、相手が音を上げるまで、魔法をぶつけまくれ……!」
シャル
「わかった……! ――我が手に集いし光の力、蒼穹を貫く槍となり、大地を穿つ剣となれ――《蒼き雷》!」
ノエル
シャルは、さらに一段と勢いを増しながら、魔法による攻撃を加え続けた。まさしくそれは、鬼神の如き戦いぶりである。その時、私は確信した。やはり、この目に狂いはなかった、と。
ノエル
シャルの無尽蔵ともいうべき魔力量の前に、相手が次第に息を切らし、《バリア》の効果が薄れていくのが目に見えてわかる。
ノエル
――そして、ついに勝機は訪れた。
ノエル
「そぉら、《バリア》をはがしたぞ!」
シャル
「や、やった!」
ノエル
「今だシャル! 丸裸になったその泥人形に、君のありったけの魔力を! 思う存分、ぶち込めぇぇッ‼」
シャル
「おおおおおおお――ッ‼」
――爆発音。そして、しばしの間
シャル
次の瞬間、ボクたちの目に映っていたのは。
ノエル
自慢の《ゴーレム》を破壊され膝をつくシモンと、体力と魔力の限界に達し、倒れこむフランソワの姿だった。
シャル
「勝った……のか?」
ノエル
「ああ。やったな、シャル。私たちの勝利だ」
シャル
「そんな……本当に、本当にボクたちが……」
シャル
気付けば、会場には割れんばかりの大歓声が響き渡っていた。
* * * * *
ノエル
そして長い戦いを終え、一息ついたのち、表彰式が執り行われることとなった。
ノエル
貴賓席には、ヴェルサリア王国近衛騎士団長など、政府の要職に就く者の姿もちらほら見える。
ノエル
当然、魔導学院理事長である、グラブール公の姿も。
シャル
「魔導学院生徒の皆様、教職員の皆様、ご来賓の皆様……この会場にお集まりのすべての皆様方に、お聞かせしたいことがございます!」
ノエル
メダルの授与を終え、優勝者のスピーチとなった時、待ちに待ったとばかりに、シャルは声高らかに会場内に語りかけた。
シャル
「――我が名はシャルロット(orシャルル)・ド・リュミエール。十年前にこの世を去った、エルダン伯ジロン・ド・リュミエールの息女(or子息)だ!」
ノエル
シャルの告白によって、会場が俄かにどよめく。
シャル
「我はここに、サン=ジュリアン魔導学院の理事長である、グラブール公バスケス・ド・ギャドレーを、父を殺害した下手人として告発する!」
ノエル
そう言ってシャルは、グラブール公が手にする杖に向かって義手を向け、《クレ・ドゥ・フラム》に封印されていた、《ログ》を解放する。
ノエル
――その刹那、十年前の顛末が、会場の中空に幻影となって克明に映し出された。
シャル
「……我が父、我が家族の悲しみ、苦しみを味わいながら……貴様の犯した罪を償え!」
ノエル
すると、シャルに一喝されたグラブール公の顔が、見る見るうちに青ざめていく。そして、同席していた近衛騎士団長は、すぐさま憲兵を呼び、彼の身柄を拘束した。
ノエル
こうして、シャルの〝復讐〟は、見事に遂げられたのであった。
* * * * *
――数日後、魔導学院の中庭にて
ノエル
「……聞いたぞ。エルダン伯の称号と旧領の返還を、辞退したそうだな」
シャル
「ああ。今のボクにはもう必要のないものだから。これからはリュミエールという家名を隠さずに、ありのままの自分で生きられる。それで充分さ」
ノエル
「ふむ……これからどうするつもりだ」
シャル
「わからない。けど、学院の生活にもようやく慣れてきたところだし、とりあえず卒業するまでは、ここにいようと思う」
ノエル
「そうか。それにしても……《光明》、か……」
シャル
「え?」
ノエル
「君の家名だよ。リュミエール。……《暗闇》の相棒には、ピッタリじゃないか?」
シャル
「な、なんだよ、それ。今さらあらたまって相棒だなんて、気持ち悪いなぁ」
ノエル
「フン。まんざらでもなさそうな顔でよく言う」
シャル
「う、うるさいな……」
ノエル
「(ケラケラと笑う)」
シャル
「キミは本当に、意地が悪い」
ノエル
「ま、それが私の性分だからな」
シャル
「でも……キミとだったら、この先もきっと、楽しい気がするよ」
ノエル
「フッ、どうせなら、頂点を目指そうじゃないか。この国で……いや、この世界で、最も名のある魔術師になるなんてのはどうだ?」
シャル
「ふふ……そんな大それたこと、できるかな?」
ノエル
「ああ、できるさ――君と私ならな」
〈Fin〉