(※「」で括られてない箇所はナレーションもしくはモノローグとしてお読みください)
ここは、冒険者たちが集う宿屋兼酒場 《銀翼亭》。大陸の中でも屈指の交通の要衝となっているこの国には、まだ見ぬ旅の仲間を求めて、世界中からたくさんの冒険者たちが訪れます。
実は先日、魔王を封印するための力の証であるという〝紋章〟を身体に宿す者――〝勇者〟のパーティが来店しました。
しかし、当初はこの《銀翼亭》に訪れた剣士、アルフレートさんだけかと思われていましたが、人数は非常に少ないながらも、世界各地で紋章を持つ〝勇者〟が現れ始めたというのです。
ところが、近頃はなにやら、そのことが問題となっているようで……
「ねえ、聞いた? まーた勇者詐欺の被害が出たらしいわよ」
「あら? クロードくん、知らない? 新手の詐欺よ」
「そ。最近、なにやら各地で勇者が現れ始めたじゃない? それに便乗した野郎共が自分も勇者だと詐称して、行く先々で金品をねだったり、酒場でタダ飯食らったり、民家のタンスを勝手に開けて薬草だの小さなメダルだのを持ち逃げしてくっていう事案も増え始めてて、ちょっとした社会問題になってるのよ」
「え? なに、ごめん、魔王院マオちゃんの配信見てて聞いてなかった」
「――政府の! 対応が! 遅れてるって! 国民からの批判が噴出しまっくってんのよ‼」
「いいいいい痛い痛い痛いおシズちゃん耳引っ張んないで⁉」
「おや、今日はアルフレートは一緒じゃないのかい?」
「まあ、アルフレートさんもパーティメンバー探しに忙しいでしょうし」
「とか言って、どうせまた脚線美がどうのこうのって、そこらの女戦士ナンパしまくってんじゃないの?」
「彼の場合、そこにすべてを賭けてる感はございますわね」
「そういうリディアも、いたいけな少年少女たぶらかしてたりしないわよね?」
「まあ! たぶらかすだなんて人聞きの悪い。わたくし、そこまであさましくはございませんわよ。ちょっとばかり目の保養にと、遠目に眺めながら多幸感に浸っているだけですわ!」
「YESロリショタ、NOタッチの精神ですわ! ……ところで皆様、今日は何のお話をなさっておられたのです?」
「あ、そうそう。最近、勇者詐欺が流行ってるじゃない?」
「勇者詐欺……確かに、近頃よく耳にしますわね。まったく不届きな輩が増えてきましたこと」
「でしょう? だからリディアも、正式な勇者パーティの一員として、注意喚起に努めてほしいのよ」
「なるほど。でしたら、ここから南にある、《試練の塔》を訪れてみてはいかがでしょう?」
「ええ。噂によると、本物の勇者とそうでない者を見分けることができる、《聖なる鏡》というアイテムが眠っているのだとか」
「みなまで言うんじゃないわよ! ……とはいえ、それで本物と偽物を判別できるとなれば、なかなか便利じゃない。そうと決まれば善は急げね! ほら、ルクえもん! さっさと転移魔法、転移魔法!」
「(あの声のモノマネで)もう、しょうがないなぁ、シズ太くんは。はい、どこでも転移門扉ぉ~!」
「ほんと、なんだかんだ仲良いんだよなぁ、この二人……」
「ほら、こういうところって古代に栄えた大魔法文明の遺跡だったりするからさ。古代の神々が祭られていて、世界各地から旅の巡礼者が集まってきてるんだよ。……って、あっ、やっべ、今日の『竜娘』のガチャ回してなかった!」
「そう! 魔導端末用アプリでね、実在するレース用のドラゴンを擬人化&美少女化したキャラがいっぱい出てくる育成シミュレーションゲームなんだ!」
「時折、まともな考察をしたかと思えば、ルクスさんは相変わらずですわね……」
「うーん。でも、巡礼者にしてはなんだか……ちょっと普通の人たちっぽいような……?」
「それにしてもこの塔、まさに天を衝くほどに高く聳え立っていますわね……これを登りきるのは一苦労ですわ」
「た、確かに……塔の外壁に巻き付くように設置されているあの螺旋階段も、全部で何段あるかもわからないくらいですし、これが《試練の塔》と言われるゆえんなんでしょうか……」
「あ、ねえねえ! あそこのエレベーターで昇れるみたいよ」
「まあ、とりあえず乗っちゃいましょ。人も多いし、けっこう待たされそうよ」
「確かにエレベーターはこの一基しかなさそうですし、上下を往復するだけでもそこそこ時間かかりそうですわね」
「ぐ、ぐぬぬ……150連回してSSR一人もこないとは……こうなったら、さらに石追加いっちゃうかー‼」
「ったく、あいつ、あんなとこでまーたぽちぽちガチャ回してるわね」
「いいわよあんなやつ、置いてきましょ。ほら、さっさと閉めるボタン連打連打」
「――えっ? あ! ちょ、待って待って、私も乗る! 乗りますぅ!」
――エレベータ内に駆け込むも、無慈悲に鳴り響くブザー音
「まあ、これだけ人が乗り合わせてればそうなりますよね……」
「じゃっ、そういうわけで! あたしたち先に上がってるから! あんたは階段で上がってらっしゃい!」
「いやぁああ待って置いてかないでええええ!!!!」
「――で、着いたわけだけど……いや、人、多ッ⁉ なんでこんな観光地みたいになってんのよ⁉」
「こ、この人たちやっぱり、巡礼者じゃないですよね⁉」
「普通に家族連れとかもいますわね……あっ、あの子っ、か、か、可愛……ッ」
「ぜーはー……ぜーはー……お、王様の、脚力を、舐めん……なよ……ガクッ」
「いや、ま、まだ、私、生きてるから……! っていうか、置いてくなんてひどいじゃんか、おシズちゃん……っ!」
「――みなさま、ようこそいらっしゃいました。北の王国からお越しになられたルクス王陛下の御一行様でございますね?」
「みなさまがここを訪れることは、事前に予知魔法で把握していたのです」
「本日みなさまのガイドを務めさせていただきます、試練の塔の番人ことフローレンと申します。お気軽に〝フローレンちゃん〟とでも呼んでください」
「……いや、ええと、いろいろ突っ込みたいところはいっぱいあるんですけど、その、ガイドっていうのは……」
「そのままの意味ですよ。この試練の塔の成り立ちや、長きにわたる歴史、そして、その魅力を余すところなく、皆様にご案内差し上げているのです」
「今みなさんがいらっしゃるこちらは、試練の塔のメインフロアである展望室でございます。三六〇度の大パノラマを堪能できますよ」
「そして、あちらにはお土産屋さんが。キーホルダーとか記念メダルとか、名物の大福とかもご用意しています」
「さらに、上の階にはおしゃれなカフェも。オーガニックなコーヒーと砂糖不使用のスイーツが人気です」
「むぅ。まったく失礼な。ここは由緒正しき試練の塔。決して観光地などではございません」
「まあ、確かに巷で人気のバえるパワースポットとして、女性ファッション誌で特集組まれるくらいには有名にはなりましたが」
「最近では高齢化が進み、巡礼者の方々も少なくなってきましたからね。これからは流行の最先端にいる若い女性たちにこの場所の魅力を訴えかけ、新たな客層を取り込んでいかなければなりません。ま、言わば、わたしの営業努力の賜物と言ってください」
「ああ、そうそう、この展望台からは魔王城もよく見えますよ」
「夜にはきらびやかなパレードが行われますし、花火も打ち上がります。とってもきれいですよ」
「ほかにも人気アトラクションが目白押しで、一時間待ちとかざらにありますし。わたしも最近よく遊びに行くんですけどね」
「アトラクションとかもあるの⁉ ってか、遊びに行ってるの⁉」
「あと、最近は隠れ魔王ちゃんとか探すのハマってます」
「そうです。アトラクションや建物など、さまざまな場所に描かれていたり、レリーフになっていたり。アトラクションの順番待ちのときや、休憩時なんかに探してみるのもまた楽しいのです」
「なんだか、すごくどっかで聞いたような話ですわね」
「ま、どうやらそれも、魔王による人間から富を吸い取る恐ろしい計画の一つらしいわ。魔王軍の幹部連中なんかも、ゆるキャラだったりイケメンキャラだったりで売り出そうとしてて、子どもや女子にも大人気。パーク内で握手したり写真撮ったり、グッズ販売なんかもしてるっぽいし」
「最近じゃ、映画スタジオ買収してコンテンツを独占したり、独自のサブスク配信で視聴者囲い込もうとしてるそうよ」
「それ以上はやめろぉ! 甲高い声のネズミに目をつけられるぞぉ!」
「んーで、本物の勇者を判別する《聖なる鏡》ってのは?」
「おや。みなさんは《聖なる鏡》を求めていらしたのですね。ですが、《聖なる鏡》を手に入れるためには、過酷な試練に臨まなくてはなりません」
「まあ、そのためにわざわざここまで来たんだし。何だか知らないけどやってやろうじゃないの」
「ふむ。試練に臨むというのですね。……よろしい。では、さっそく参りましょう!
――出でよ! 《暗闇の女王の花冠》!」
「魔法陣からマネキンみたいな大きな黒い頭が召喚された……⁉」
「これなるは試練の儀式に用いる魔法の祭具。その名も、《暗闇の女王の花冠》――略して、ダミヘッ‼」
「違います。ダークネス・ミストレス・ヘッドドレスです」
「ええ。かつてこの地に君臨したといわれる伝説の《暗闇の女王》が、花冠を被った姿を模したアーティファクト。その耳元に向かって言葉を発すことで、このアーティファクトによる魔法効果の対象となった者は、あたかも本当に耳の近くで囁かれているかのように感じてしまうのです」
「なんと! それはすごい魔法のアイテムだ! ASMRが捗るやつじゃないか!」
「違います。ダークネス・ミストレス・ヘッドドレスです」
「もういいわよそのくだり! 要するに、それに向かって何か言葉を言えってことでしょ!」
「なかなか理解が早いですね。そう、みなさんにはこのダミヘに、私が用意したセリフを読み上げていただきます。しかし、当然ながら、ただ読むだけではいけません。しっかりと気持ちを込めることが大事ですよ。そして、みなさんが見事に読み終えることができたら、晴れてクリアとなるわけです」
「なるほど。それが試練ってわけね。いいわよ、そんな試練なんかちゃちゃっと終わらしてやろうじゃない。さ、誰から行く?」
「では、順番はわたしが指名しましょう。まずは――貴方! 読んでいただく台詞はこちらです!」
「さあ、ではまいりましょう。……さん、に、いち、どうぞ!」
――これ以降、『』の劇中セリフは、可能であればエコーなど入れるとなお良しです。
『ハァ……うるせえよ、キャンキャン吠えやがって。少し黙ってろ。(壁ドン)フン、放せだ? 放すわけねぇだろ。お前はもう、とっくに俺のもんなんだからな?(イケゔぉ)』
「……っとにこいつ、無駄に声だけは良いのよね……はらたつわー」
「あぁ~(恍惚)、良いですよ良いですよぉ! そう! もっっと! 感情を込めてッッッ!」
『どうしたんだよ。そんな顔して。バーカ。いつでもそばにいてやるって言ったろ? ……ふっ、ほんと、カワイイやつだな(イケゔぉ)』
「うわー。ルクスさんてこういうのもイケるんですのね……普段とのギャップがまたえっぐいですわ!」
「くぅ~ッ! 普段は昼行燈的な青年がここぞとばかりに俺様キャラに変貌! これは罪の味ですねぇ!」
「って、フローレンさんの情緒がすごいことになってるんですけど⁉」
「なるほど。フローレンちゃんは重度の声フェチというわけだね」
「(棒読みかつ一息で)要するに新たな変態現るってことですね把握しました」
「クロードくんが虚無の表情になっていますわ……!」
「ふ、ふふ……まさか初っ端からこのクオリティとは恐れ入りました。どうやら、なかなかやるようですね……」
「フローレンちゃんの足元、鼻血で血だまりできてるね」
「なんだかちょっとシンパシーを感じてしまいますわ」
「しかし、試練はまだまだ始まったばかりです。さあ、続いては、そこの貴女!」
「では、こちらのセリフを読んでいただきましょう! どうぞ!」
『あら、どうしたの坊や。フフ、そんなにおびえなくて良いわよ。別にとって食おうだなんてわけじゃないんだから。……ただ、ちょっとだけ、アナタに興味があるの。ほら、遠慮なくこっちにいらっしゃい? お姉さんがたっぷりと、可愛がってあ、げ、る』
「あぁ~いいですよぉ! ナイスですよぉ! 最高ですよぉ~~~‼」
「さっすがリディア! これはもう十八番と言ってもいいね!」
「なんか悔しいけど、リディアは本当にこういうの似合うわよねぇ」
「まあ、この色気は、おシズちゃんには逆立ちしても真似できな……ごふぅ!(殴られ)」
『あっ、先輩っ! お疲れ様です! あの、これ……もし良かったら、私の手づくりで……。え? おいしい? ほんとですか! よかったぁ! ……あ、あの、明日の試合、頑張ってくださいね! わたし、先輩のこと、ずっと見守ってますから!』
「うっひょぉ~‼ セクシー系からの清楚系に流れるこのギャップ力の高さ、たまりませんねぇっっ!」
「おっ、フローレンちゃんは男女問わずイケる口か!」
「もちろんです! 良い声に老若男女の別はありませんッ!」
「あったりめぇですとも! さ、君はこちらをどうぞ!」
『お姉ちゃん、外国に行っちゃうの……? そんなのやだよ、さびしいよ……っ! ぐすっ。また、ぜったいに会えるよね……? ほんと? 約束だよっ! ぼく、お姉ちゃんのこと、ずっと待ってるから……!』
「外国へ留学に行ってしまう近所のお姉さんと、仲の良い男の子のシチュかぁ~! いやあ、これもクロードくんならではの魅力だね!」
「ああ、神様、ありがとうございますわ~~~今日というこの日に、生きとし生けるものすべてに感謝ですわ~~~」
「わたしも耳からの幸せ注入で脳汁ドッバドバですッッ‼ ……では、お次のセリフまいりましょう!」
『――っと、危ないところだったね、お姉さん。もうちょっとで転んじゃうところだったよ。……え? 僕の顔にどこかで見覚えが? そりゃそうだよ、忘れちゃったの? 約束したでしょ、ずっと待ってるって。……おかえり、お姉ちゃん』
「キターーーーッ‼ 160キロの剛速球がど真ん中に決まりましたよッ‼」
「なんと! あの時の子が少し見ぬ間に立派に成長していた展開!」
「これは一粒で二度おいしいやつね! やるじゃない、クロードくん」
「(息も絶え絶えに)は、ハァ、ハァ……て、てぇてぇ……」
『はあ? その荷物一人で運ぶ気ぃ? 何日かかると思ってんのよ! 学園祭までもう三日しかないんだから! ……ったく、しょうがないわねぇ。ほら、あたしが半分持ったげるから、さっさと行くわよ! ……え? あ、ありがとうって……ふ、ふんっ……別に、アンタのために付き合ってあげてるわけじゃないんだからねっ!』
「おっほぉ~っ‼ これぞ往年の正統派ツンデレヒロイン! ごっつぁんでーーーす‼」
「だぁれが平成で輝いてただけの時代遅れな行き遅れアラサーヒロインよ!!!!」
「お、おシズさん落ち着いて! 誰もそんなこと言ってませんから!」
「いやあ、なんかこういうのって、私がまだ皇太子だった頃の学生時代におシズちゃんから散々聞いたから、あんまり新鮮味がなくてさぁ」
「……こ、この人ってば、聞く人が聞いたら羨ま死刑されるようなエピソードをこうも堂々と……まったく自覚ないのかしら⁉ ――でも、おシズさんの学生時代、やっぱりそういう感じでいらしたのですわね!」
「――だからそれはあたしの黒歴史だつってんのよッッッ!!!!」
「ふ、ふふふ……さあさあ、次はこちらのセリフをお願いします……ッ!」
「どうでもいいけど鼻血拭きなさいよ。……って、ええっ、これ読むの? ……ちょっ、ちょっと待っててもらっていい?」
「ええ、かまいませんよ。セリフに気持ちを込めるための準備も必要でしょうからね!」
「(独り言っぽく)まあ、おシズちゃんのセリフって言っても、どうせいつものような感じだろうし、ガチャ回すついでに、今のうちにイベント消化に集中しとこ。えーと、イヤホン、イヤホンっと」
――シズリース、ルクスに近づくが照れくささで視線をそらしたまま。ルクスはイヤホンしてるので気付かず。
「え、えっとさ、ルクス……べ、別に他意はないんだけど、このセリフ、あんたにちゃんと聞いててほしいかなーって……。あっ、別に他意はないんだからね! ただ、ちょっと、聞いたら感想ほしくてさ。……え、えと、その……よ、読むね……」
『あたしさ……今まで、自分に嘘ついてた。アンタとは、ずっと昔から一緒に育ってきて、兄弟みたいなものだし、そんなわけないって思ってたんだけど。でもやっぱり、これ以上この気持ちに嘘はつけないみたい。その気持ちを隠したくて、あたし、今までアンタにひどいこと言っちゃってたよね。……ずっと素直になれなくて、ごめん。本当はね、あたし……ずっと、昔からアンタのことが――……』
「え? え? なに、ごめん、もう一回やってもらっていい?」
「あ、あれー? おシズちゃん、ちょ、ちょっとー……? いつもなら容赦なくドゴォッて殴ってくるのに、どうしちゃったの……? なんかちょっと拍子抜けしちゃうんだけど? ね、ねえってばー……?」
「はぁ~(クソデカため息)。店長がここまで残念な人だとは思いませんでした」
「はぁ~(クソデカため息)。だぁからモテないんですのよ、この甲斐性なしは」
「(拍手しながら)いやあ、みなさん素晴らしい。ありがとうございます。みなさんのおかげでわたしの枯れた心が潤いました。試練は見事クリアといたしましょう」
「ということは、これで《聖なる鏡》が手に入るんですか?」
「あ、鏡ですね、ちょっとお待ちください。えーと。確かこの中に……はい、これです」
「ここまでキッパリ言い切られるとぐうの音もでないね」
「……というわけで、みなさんがお求めのこちらの鏡ですが、定価1万2千ゴールド(税込)のところ、みなさんの頑張りに免じて、なんと3千ゴールドでお譲りいたしますよ」
「ちなみに先ほどのダミヘは140万ゴールドくらいです」
「まあまあ、ここは私が国王としてビシッと、現金一括払いで支払っておこうじゃないか!」
「はい、お買い上げありがとうございます。領収書いります?」
「そこはちゃんと記名しなさいよ! ……まあ、なにはともあれ、これで目的のブツは手に入ったわけね」
「でも、本当にこれで勇者かどうか判別できるんですかね?」
「どれどれ、試しにおシズちゃんにかざしてみようか」
「あらぁ、やぁだぁもう~♡ もしもあたしが勇者だったりとかしたらぁ~、数多の愚民どもから崇め奉られたりとかしちゃったりなんかして~?♡」
「えー? 私ー? いや~、王様が勇者だったなんて、なんか照れちゃうな~?」
「……ま、まあほら、私はアルフレートみたいな真性の変態じゃないからさ!」
「でも確かに、店長はバカですけど、変態かというとちょっと違うかも」
「しっかしこれじゃ、勇者を判別できるのかわからないわね……」
「とはいえ、ここにはアルフレートもおりませんし……」
「ついでだし、ちょっとフローレンちゃんにもかざしてみようぜ」
「わたしですか? いやあ、そんな簡単に勇者なんて見つかるわけが――」
「わ! フローレンさんの手の甲に、紋章が浮かび上がった⁉」
「おやおや? なんと、わたしにも勇者の資格があったとは、意外でしたね」
「なんで鏡の持ち主本人が今まで気づかなかったのよ!」
「あのー、まさかとは思うんですが……リディアさん、ちょっと良いですか?」
「わたくしですか? いえ、わたくしが勇者であるはずがございませんわ、そんな恐れ多い……」
「……ハッ! ま、まさか、わたくしも勇者でしただなんて!」
「あー……やっぱり、これって……――変態判別機ってコトッ⁉」