Circo del Diablos-シルコ・デル・ディアブロス-

アクション
アクションシナリオ

「――ようこそ、地獄の底へ!」

 治安悪めの世界観で繰り広げられるバトルものなお話です。

はじめにお読みください

  • 本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
  • YouTubeやツイキャス、Twitterのスペースなど、非営利での配信であれば自由にお使いいただけます。
  • 使用時の許可やクレジットなどは特に必要ありませんが、配信の際には作者のTwitter(X)にメンションくださるなど、何らかの形でお知らせいただけると嬉しいです(強制ではありません)。
  • 会員制の配信アプリで使用する場合は、外部のシナリオを用いて良いかどうか、そのアプリの規約をご確認ください。
  • 営利を目的とした配信や商業作品、舞台やリアルのイベントなどで使用したいという場合は作者のTwitter(X)にご連絡ください。
  • 物語の雰囲気を大きく変えない限りは、アドリブやセリフ改変などもOKです。
作品概要

タイトル

Circo del Diablos-シルコ・デル・ディアブロス-


作者

島嶋徹虎


ジャンル

バトル、アクション


上演時間

約50分


男女比

不問7(※全員性別不問です。どのように演じても構いません)

登場人物

ベリアル

炎のような赤い肌。黒いショートヘア。ギザ歯。額から二本の短い角。お人好し。


ルシフェル

金髪碧眼。記憶喪失。細身のもやしっ子。鍵を象ったペンダントに『LUCIFER』と刻まれている。


ベルゼビュート

身なりの良い紳士風の姿。高級そうなスーツに身を包んでいる。胡散臭い。


アスタロト

キャスケットを被った小柄な姿。青白い肌。細い尻尾。気怠げ。スーパーハカー。


レヴィアタン

ジェンダーレスな姿。大きなTシャツとレギンス。黒いマスク。ピアスいっぱい。ドラゴンぽい尻尾。


アスモデウス

ゴシックパンクな姿。頭の横から二本の大きな角。厚底ブーツ。ビッチ。でかい。


マモン

ジャージを着たチンピラ風の姿。青肌。銀髪。ピアス。タトゥー。額から二本の短い角。

シナリオ

(※タイトルコールは誰が担当しても構いません。読まなくても構いません)
(※スペイン語のセリフは()内の日本語訳だけを読んでもOKです)
(※「」で括っていないセリフはナレーション、もしくはモノローグとして演じてください)


ベリアル

その街は、常に燃え盛っていた。決して消えることのない灼熱の業火が、この街に生きる者どもを、心の底から焼き尽くしていた――


ベリアル

どんな奴にも例外はない。その街に一歩でも足を踏み入れたが最後、手前てめぇのすべてを、真っ赤な炎が包み込む――


ベリアル

そのまま灰になって、きれいさっぱり消え去るか。炎を纏って狂いながら、炎を背負って苦しみながら、それでもなお生き続けるか。それはお前次第さ――


ベリアル

弱いものは死に、強いものだけが生き残る。それが、たった一つのシンプルなルールだ――


ベリアル

オレはこれまでそうして生きてきたし、これからもそうして生きていく。なら、お前はどうだ――


ベリアル

さあ、目を開けろ。足を踏み出せ。
此処が、お前の生まれ来る世界だ――


 

* * * * *


タイトルコール

Circoシルコ delデル Diablosディアブロス


 

* * * * *


 

――薄暗く人気のないゴミだらけの路地裏を、息を切らしながら逃げ続けるルシフェル


ルシフェル

「……ハァッ、ハァッ……ハァッ……」


マモン

「おいおい、どこへ行こうってんだ、ウサギちゃん?」


ルシフェル

「ハァ、ハァ……ッ!」


マモン

「逃げても無駄だぜ? どうせそっちは行き止まりだからな」


ルシフェル

「ハァッ……ハァッ……くっ……」


マモン

「ったく……ブツを持ってるヤツがいるって聞いてきたからわざわざ出向いてみれば、まさかこんな貧相なガキとはなぁ。……おい、テメェ、どっから来やがった?」


ルシフェル

「……わ、わからない……たぶん、あっちだと思う……」


マモン

「はァ? ふざけたやつだなテメェ! よーし、それなら俺様がイイコトを教えてやろう! その耳の穴かっぽじってよーく聞けよ? ここはなぁ、誰もが明日を生きて迎えられるかもわからねぇ、ファッキン地獄ヘルなんだ。テメェのようなひょろガキは、そこいらで毎日のようにくたばってんだぜ? つまり、テメェ一匹消えたところで、憐れむヤツはだァれもいやしねぇってこった。サヴィ?」


ルシフェル

「僕を……どうする気……?」


マモン

「言うまでもねェ。今からテメェのドたまはじく。そして、俺様はブツを手に入れる! ……な? 簡単な話だろ?」


ルシフェル

「ブツなんて知らない……僕は、何も持っていない……!」


マモン

「ンなもん、テメェが死んだ後にゆっくり探すからどうでもいいンだよ。……ま、恨むなら、テメェがこの世界に生まれてきたコトを恨むンだなァッ!」


 

――マモンはルシフェルの額に拳銃を突き付ける


ルシフェル

「……ッ!」


ベリアル

「――おい、マモン。そこでなにしてやがる」


マモン

「あァん? テメェ、ベリアル!」


ベリアル

「ここはベルゼビュートのシマだって、わかってんだろうな?」


マモン

「おいおい、ベリアルぅ。いつからテメェはあのボンクラ野郎の飼い犬になったンだ?」


ベリアル

「犬になったつもりはねぇ。だが、オレはいつだって金払いの良いヤツの側に着くと決めてんだ。なんなら、お前がオレを雇うか? 自分で言うのもなんだが、良い働きはすると思うぜ? ま、お前にそれだけの金があればの話だけどな?」


マモン

「テんメェ……ッ!」


 

――咄嗟にベリアルに向けて拳銃を発砲するマモン

 

――ベリアルは半身を僅かに反らして回避する


ベリアル

「はンっ! いきなりぶっ放すとは、穏やかじゃねぇなあッ!」


マモン

「テメェと顔合わせて、穏やかに済む方法を教えてほしいくらいだよッ!」


 

――マモンは続けざまに銃撃するが、ベリアルは避け続ける


ベリアル

「どうしたどうした、マモン! 腕が鈍ったんじゃねぇのか!」


マモン

「なめやがってぇ……!」


 

――すると、遠方から複数の声と足音が響いてくる


マモン

「――ッ⁉」


ベリアル

「おーおー。どうやら今の騒ぎで、ベルゼの兵隊どもに気付かれたみてぇだなー? いくらお前でも、あんだけの数に囲まれたらしんどいだろ?」


マモン

「チッ……わーったよ。今日のところはこれで引き上げてやらァッ! ……だが、いいか! 次に会ったら、テメェはゼッテェに殺すからな、覚えとけよベリアル!」


 

――去っていくマモンを見送りながら


ベリアル

「うるせーよ、Cabrónカブロン(クソ野郎)。それ言うの何回目だっつーの」


ルシフェル

「あ、あの……」


ベリアル

「あン?」


ルシフェル

「助けてくれて、ありがとう……」


ベリアル

「……ふんっ、別にお前を助けたくて助けたワケじゃねぇ」


ルシフェル

「あっ、そ、そっか……ごめん……」


ベリアル

「チッ、うぜぇ野郎だな……オレはもう行くぞ。お前もまた、あいつみてぇなチンピラに嬲り殺しにされねぇうちに、とっとと帰んな」


ルシフェル

「ま、待って! 帰れって言われても、どこに帰れば良いかわからないんだ……」


ベリアル

「は? 道に迷ったのか?」


ルシフェル

「そ、そうじゃなくて、何もわからないんだ……どうして僕は、こんなところにいるのかも……」


ベリアル

「……お前、名前は?」


ルシフェル

「……(無言で首を振る)」


ベリアル

「はぁ……もしかしなくても、記憶喪失ってやつか……ったく、しょうがねぇ……」


ルシフェル

「ご、ごめん……」


ベリアル

「謝んじゃねえ。イライラする」


ルシフェル

「ごめん……あっ」


ベリアル

「~~~ッ! お前なあッ」


 

――ルシフェルの胸ぐらを掴むと、その胸元にペンダントが提げられている


ベリアル

「あン? こいつは……鍵のペンダント? 文字が刻まれてる……《LUCIFERルシフェル》……これがお前の名前か?」


ルシフェル

「う、ううん……思い出せない」


ベリアル

「めんどくせぇ……もういいや、お前はこれからルシフェルな」


ルシフェル

「ルシ……フェル……」


ベリアル

「思い出すまでそういうことにしとけ。……とりあえず、ここにいてもしょうがねぇ。一緒に来な」


ルシフェル

「あ、あの……!」


ベリアル

「――オレはベリアルだ」


ルシフェル

「ベリアル、さん」


ベリアル

「〝さん〟はいらねぇ。ほら、さっさと来い!」


ルシフェル

「う、うん……」


 

* * * * *


 

――シンジュクシティにあるホテル。その最上階のベルゼビュートの執務室


アスタロト

「ふーん。それで連れてきちゃったんだ」


ベリアル

「ンだよ。なんか文句あんのか?」


アスタロト

「べつにー。ベリアルらしいなと思って」


ベリアル

「おい、アスタ! それどういう意味だ!」


ベルゼビュート

「――やあ、お待たせ。すまんね、打ち合わせが長引いてしまった」


ベリアル

「ようやくお出ましか、ベルゼビュート」


ベルゼビュート

「……ほほう、キミがルシフェルくんか! 記憶喪失なんだって? ベリアルから聞いたよ。私の名は、ベルゼビュート。この界隈を仕切っているものだ。よろしく頼むよ。そちらはアスタロトだ。情報屋をやっている」


アスタロト

「よろー」


ルシフェル

「よ、よろしくお願いします」


ベルゼビュート

「はは。そう固くならずに、楽にしてくれ。それにしても、キミは運が良かったねぇ。この《アンダーグラウンド》で治安が良いのは、うちの界隈くらいのものだ」


アスタロト

「ま、他と比べて、多少はマシくらいのものだけどねー」


ベルゼビュート

「そんな悲しいこと言わないでくれよ、アスタロトぉ。私だってけっこう頑張ってるんだよー?」


ルシフェル

「あの、ここは一体……」


ベルゼビュート

「……この街は、シンジュクシティ。そしてここは、カブキチョウエリアと呼ばれる歓楽街の一角に建つ、私が経営する超・高・級・ホテルだよ。この街はまだ穏やかなほうだが、エリアの外に一歩でも出れば、そこはもう無法地帯。殺人、誘拐、強盗、通り魔、なんでもござれだ。そんな中、キミがどこから来て、どうやってこの街までやって来られたのか、とても不思議だよ。うん、実に不思議だ。正直言って、めっっっちゃ興味深い!」


ルシフェル

「え、えっと、顔が近いんですけど……」


ベルゼビュート

「ふぅむ。その綺麗なみどり色の瞳も、この街の住人にはまずいない。いや不思議だねぇ。きっと欲しがる輩も多いんだろうなぁ。うん。とぉっても高く売れるぞぉ!」


ルシフェル

「う、売れるって……⁉」


ベルゼビュート

「ハッハッハ。冗談だよ。怖がらせてすまんね! だが、そういう輩がいるのも確かだ。そこで、他に行く当てがないのなら、どうだろう? 私がキミを保護しようと思うのだがね?」


ルシフェル

「本当ですか? ありがとうございます」


ベルゼビュート

「ああ。ただし、私も商売人だ。慈善事業というわけにはいかない。私の元で働いてくれるというのなら、キミの安全は保障しよう。いやなに、難しいことはないさ。未経験でも大歓迎の簡単なお仕事だ。アットホームな職場でやりがいもある。こんなに良い求人はなかなかないぞぉ!」


ベリアル

「おいおい、どんなブラックだそりゃ」


ベルゼビュート

「キミが働いてる職場だけどぉ?」


ベリアル

「オレはフリーランスだ。アンタんとこの社員になったワケじゃねぇ」


アスタロト

「ついでにぼくもねー。別にベルゼの部下ってわけじゃないんで、そこんとこよろしくー」


ベルゼビュート

「もう、キミたちってば、ほんとツンデレさんなんだからぁ!」


ルシフェル

「あの……わかりました。僕はあなたのもとで働きます。他にどうしようもないですし、死にたくもありませんから」


ベルゼビュート

「ふふん、ならば契約成立だ。あらためてよろしく、ルシフェルくん。ではさっそくだが、キミにはベリアルのサポートをしてもらおう」


ベリアル

「¡Hostiaオスティア!(マジかよ!) 何言ってやがんだ! こんな素人、足手まといにしかならねぇだろ!」


ベルゼビュート

「というより、ベリアル。キミがルシフェルくんの手助けをしてあげてくれ。この子が記憶を取り戻すためのね?」


ベリアル

「はあ? ……お断りだね。オレは、一人で生きてく力もねえ弱いヤツが大嫌いだ」


ルシフェル

「……ッ」


アスタロト

「自分で捨て犬拾ってきたくせにー」


ベリアル

「うるせえ! 行く当てがねえっていうから、仕方なく拾ってきてやっただけだ!  オレが世話するとまでは一言も言ってねえ!」


ベルゼビュート

「まあまあ。それならこうしようじゃないか。そのための報酬は、現在の契約金に上乗せだ。どうだい? 悪い話じゃないだろう?」


ベリアル

「チッ、ったく……あんたもとんだ物好きだな」


ベルゼビュート

「私は知的好奇心の塊なのだよ。ルシフェルくんが一体何者で、どんな目的でここまで来たのか、すんごく知りたい。それに、キミが側に居れば、護衛としても最適だ」


ベリアル

「……はぁ~。わかったよ。オレが面倒見てやるッ。その代わり、ボディーガード代は別料金だ」


ベルゼビュート

「承知した。それも新しい契約書に盛り込んでおこう。とりあえず、今のところは特に依頼する仕事もないし、今日はもうゆっくり休んでくれたまえ。それと、せっかくだから明日にでも、ルシフェルくんにこの界隈を案内してやってくれないか?」


ベリアル

「……ったく、しょうがねぇ。りょーかいだ」


ルシフェル

「……あ、あの……よろしく、ベリアル、さん……」


ベリアル

「〝さん〟はいらねぇつったろ。……行くぞ、ほら」


ルシフェル

「う、うん……」


 

――部屋を後にするベリアルとルシフェル


ベルゼビュート

「……あの子、マモンに襲われそうになっていたという話だったねぇ……なぜシブヤのマモンがここまで出張って来てたのかも気になるなぁ……」


アスタロト

「まーたはじまったよ、ベルゼってば。知識の暴食……《情報喰らい》の悪いクセだねー」


ベルゼビュート

「――なあ、アスタロト。どんな手を使っても良いから、あの子についての情報を探ってくれ。それから、マモンらシブヤ近辺を根城にしているグループの動向も見張ってほしい。どんなに些細なことでも構わない。何か見つけたら、私に逐一報告してくれたまえ」


アスタロト

「ぇー。めどい。今日の仕事はもうないって言ってたじゃん」


ベルゼビュート

「あれはベリアル向けの仕事の話だよ。キミにはもっとガッツリ働いてもらうからねっ!」


アスタロト

「もうーやだー働きたくなーい」


 

* * * * *


 

――マモンがねぐらとしているシブヤの雑居ビル


マモン

「……くそったれが! ベリアルの野郎、俺様をなめやがってッ! あいつ、今度会ったら顎を粉々に砕いて、減らず口を叩けなくしてやるッ!」


アスモデウス

「あらあらぁ、マモちゃんてば、いつになく荒れちゃってぇ。愛しのベリアルちゃんにフラれちゃったぁ?」


マモン

「うっせぇぞ、クソビッチ! そのクソを垂れ流すだけの口を閉じねぇなら、テメェのクソ舌を引きちぎるからな!」


アスモデウス

「あらやだぁ~ん、怖ぁい♡」


レヴィアタン

「ぷっ、おめおめ逃げ帰って来て八つ当たりとか、ほんとダッサ」


マモン

「レヴィ! テメェ⁉」


アスモデウス

「まあまあ、落ち着きなさいって、マモちゃん。それよりも、ホラ、見つけたんでしょ~? 例の〝堕天使ベイビー〟ちゃん」


マモン

「チッ……ああ。確かに、あのガキで間違いなさそうだ」


アスモデウス

「それで、ブツはどうだったのよ? ちゃんと手に入れたわけ?」


マモン

「それを確認する前に邪魔が入ったンだっつーのッ! あンのくそ忌々しいちんちくりんのベリベリ野郎がッ!」


レヴィアタン

「でもまあ、もし《扉の鍵》を持ってなかったとしても、その子の生きたままの生体データさえ確保できてれば大丈夫……らしいよ。たぶん。知らんけど」


マモン

「……生きたままだと⁉ それを先に言えやレヴィ! あのガキぶち殺すところだったンだぞ! テメェが先にぶち殺されてぇかッ⁉」


レヴィアタン

「だ、だって、ベルフェゴールがそう言ってたんだもん! ウチに文句言わないでよ!」


マモン

「クソッ……あの野郎もベルゼビュートと同じだ! どいつもこいつも、うさんくせぇやつばっかりでマジムカツクぜ!」


アスモデウス

「でっもぉ、あのベルフェくんがそこまで言うんだもの、相当な金になるんじゃない? それこそ、アタシらが一生遊んで暮らせるくらいの……ねー? レヴィたん?」


レヴィアタン

「どこまで本当か知らないけどねー。しかも殺しちゃダメで、生け捕りにしないといけないって、わりと難易度高いと思うけどさ。……まあ、それでも、乗ってみる価値はあると思ったよ、ウチは」


マモン

「わーってるよ! ダメなら代わりにベルフェの野郎を締め上げりゃいいだけだ!」


アスモデウス

「とはいっても、どうするのよ? 〝堕天使ベイビー〟ちゃんの身柄、ベルゼくんが確保してるんでしょ?」


マモン

「はンっ……上等だ。やってやろうじゃねぇか。どっちにしろ、近いうちにヤツのシマは潰そうと思ってたところだ。手間が省けて助かるってもンだぜ。――アスモデ、レヴィ、準備しとけ。明日、さっそく仕掛けンぞ!」


レヴィアタン

「キャハっ、おもしろそーじゃん。本気のカチコミっていつ以来だっけ?」


アスモデウス

「フフ、そうこなくっちゃ。ひさびさにアタシも腕が鳴るわぁ」


 

* * * * *


 

――一方、ベリアルのねぐら。


ベリアル

「――ほら、入れよ」


ルシフェル

「お、お邪魔します……でも、本当に良いの? 僕なんかを入れて……」


ベリアル

「どうせ風呂入って着替えて寝るだけの場所だ。好きに使え」


ルシフェル

「そ、そうじゃなくて……」


ベリアル

「文句を言うならベルゼに言えよな。……ったく、あんだけ大層なホテル持ってんだから、部屋の一つや二つあてがってくれりゃ良いのに、ケチくせぇんだからよぉ」


 

 ――言いながら、ベリアルは冷蔵庫からビールを取り出して飲み始める


ベリアル

「お前も飲むか?」


ルシフェル

「い、いや、僕はいいよ……それよりも」


ベリアル

「あン?」


ルシフェル

「本当に、助けてくれてありがとう。あなたがいなかったら今頃、僕は……」


ベリアル

「いちいち気にすんな。たまたまだよ、たまたま」


ルシフェル

「で、でも――」


ベリアル

「――うるせぇ、黙れ。気に食わないってんなら、オレが今、ここで殺してやったっていいんだぜ?」


 

――そう言ってベリアルは拳銃を向ける


ルシフェル

「……ッ」


ベリアル

「そもそもオレはな、お前みたいなウジウジした弱虫野郎が大っ嫌いなんだ」


ルシフェル

「……じゃあ、なんで助けてくれたの……?」


ベリアル

「お前なあッ!」


 

――ルシフェルを押し倒して馬乗りになり、そのこめかみに拳銃を突き付ける


ルシフェル

「ぐっ……」


ベリアル

「黙れっつったろ! そんなに死にてぇのかッ⁉」


ルシフェル

「死にたくは、ない……けど、でも……」


 

――ルシフェルは無垢な眼差しでベリアルを見つめる


 

――次第に顔を歪めながら、声を震わせるベリアル


ベリアル

「……お前を見てると、胸糞悪ぃこと思い出すんだよ……ッ」


ルシフェル

「……ごめん……」


ベリアル

「ああ、くそッ……なんなんだよ、お前は……ッ」


 

――ベリアルは馬乗りになったまま、ルシフェルの胸元に顔をうずめる


ルシフェル

「ベリアル……? も、もしかして……泣――」


ベリアル

「――それ以上言ったらマジで殺す」


ルシフェル

「…………」


ベリアル

「……お前の、せいだからなっ、馬鹿ルシフェル……ッ!」


ルシフェル

「ベリ……アル……」


 

――ルシフェルは恐る恐る、ベリアルを抱き寄せる


ベリアル

「……くそっ……くそぉっ……」


 

* * * * *


 

――翌日。シンジュクの街中


ベリアル

「――で、ここいらが飲食店街だ。飯を食いたきゃ、ここにくりゃ何かしらあんだろ。ま、むやみやたらにアヤシイ店入って、ぼったくられてもしらねーけどな」


ルシフェル

「そ、そうなんだ、気を付けるよ。……あ、あの、さ……」


ベリアル

昨夜ゆうべのことは忘れろ」


ルシフェル

「ッ……で、でも……」


ベリアル

「チッ……ハァ……なんで助けたか、聞いたな?」


ルシフェル

「あ、……うん」


ベリアル

「……重ねて見ちまったからだよ」


ルシフェル

「……え?」


ベリアル

「オレには弟がいた。両親はいねえ。ほかに親戚もいねえ。たった一人の家族だった。……だが、ガキの頃に死んじまったよ。お前みたいにひょろくて、ウジウジしてて、弱虫の泣き虫野郎だった」


ルシフェル

「そんな……」


ベリアル

「――だから死んだ」


ルシフェル

「……ッ!」


ベリアル

「だから死んだんだ! あいつが弱かったから! 力がなかったから! だったらルシフェル、お前はどうだ? お前はこの街で、一人で生きていける力があるのかッ⁉」


ルシフェル

「そ、それは……」


ベリアル

「いいか、ルシフェル。オレは何でも屋フリーランスだ。金になりそうなことならなんだってやる。どんなに汚ぇことだってな。オレはこの街で、今までそうやって生きてきた。……確かにお前は今、記憶がなくて、何も知らねえ〝赤ん坊〟みたいなもんだろう。だから、オレが世話してやる。仕事として、契約を結んだからな。だが、その契約が切れたら? オレがお前を見限ったら? ……もし万が一、オレが死んだら? そうしたら、これからお前はどう生きるつもりだ?」


ルシフェル

「僕は……」


ベリアル

「強いヤツだけが生き残り、弱いヤツはくたばる。それがこの街の、たった一つの単純シンプルルールだ。……オレがお前の側に居る間に、せいぜい強くなるんだな」


ルシフェル

「ベリアル……」


ベリアル

「くそ。オレとしたことが、おしゃべりが過ぎたな。……ほら、次行くぞ。ぼさぼさしてないで、付いて来やが――」


レヴィアタン

「(前のセリフに被せて)あはっ――見ぃーつけた!」


ベリアル

「――っぶねぇ! 伏せろ!」


ルシフェル

「えっ……うわ⁉」


 

――突如としてレヴィアタンから銃撃を受け、物陰へと身を隠すベリアルとルシフェル


レヴィアタン

「あっれぇ、どこに隠れたのかなー?」


ベリアル

「あいつは……レヴィアタン!」


 

* * * * *


 

――一方、ベルゼビュートのホテル


アスタロト

「――ねえねえ、ベルゼ! これ見てよ!」


ベルゼビュート

「どうしたんだ、アスタロト。珍しく慌ててるじゃないか。さっそく何かわかったのかい?」


アスタロト

「うん。すごいことがわかったよ。あのルシフェルって子、《天上人テンジョウジン》だ」


ベルゼビュート

「……それは、本当か?」


アスタロト

「昨日、あの子が座ってたソファに残ってた毛髪から、遺伝子サンプルを解析してみたんだ。そうしたら、明らかにぼくらとは異なるDNA組成だということが判明した。んで、過去の事例――つまり、〝堕天〟した《天上人》の遺体の一部や臓器を保管してる研究所のデータをハッキングして照らし合わせてみたら、特徴がばっちり一致したってわけさ」


ベルゼビュート

「ふ、ふふふ……面白いことになってきたぞ……これまでに発見された《天上人》は、いずれもすでに死体の状態だった。……だが、生きた《天上人》が見つかったとなれば、前例のない一大事だ。この街が……いや、《アンダーグラウンド》中が、〝戦争〟になるかもしれない!」


アスタロト

「ったくもー、物騒なことはお断りだからね。……ああ、物騒と言えば、シブヤの連中の動向についても調べてみだけど、あいつらの部下どもが沸き立ってるみたい。どうやら本気でこちらに攻め入るつもりみたいだよ」


ベルゼビュート

「なるほどねぇ。連中も昨日までは、ルシフェルくんについて探りを入れてる段階だったんだろう。それで大人しく帰ってくれたみたいだけど、きっとルシフェルくんの持つ〝価値〟について、確信を得たに違いない。それこそ、《楽園エデン》への扉を開く鍵としてのね」


アスタロト

「……空を覆う〝蓋〟の上にあるといわれてる、伝説の《楽園エデン》ね……ぼくはあんま興味ないけどー」


ベルゼビュート

「ともあれだ。そうなるとマモンだけじゃなく、アスモデウスやレヴィアタンも動いてくる。それに、連中を裏で手引きしてるのは、やはりベルフェゴールだろう……」


アスタロト

「ま、なんにしても、ぼくはやることはやったからね。あとはそっちで勝手にやって。ひさびさに頭使ったら疲れちゃった。もう寝る。おやすみー」


ベルゼビュート

「――って、寝かせないよ⁉ キミも来るんだ、アスタロト! やつらが本気を出したら、さすがのベリアルでも、一人では無理だ!」


アスタロト

「ぇーやだぁーめどいー」


ベルゼビュート

「いいから! つべこべ言わずに来るの!」


 

* * * * *


レヴィアタン

「ほーらぁ、出ておいでよ、ベリアルー? ま、しょうがないかぁ。大事な堕天使ベイビーちゃんを子守しながらじゃ、キミも動くに動けないっしょ? キャハハっ! いいよ、出てこないんだったらぁ……ぜーんぶ跡形もなくぶっ壊しちゃうから! ――さあ、顕現しなぁ?  ウチの《閃光の咆哮シャイニング》ッ!」


 

――次の瞬間、レヴィアタンの手に巨大な斧が現れる


ルシフェル

「……な、なんだ、あの、大きな斧……ッ!」


ベリアル

「チッ、ありゃあ、レヴィアタンの《業魔技能デモニックスキル》だ」


ルシフェル

「《業魔技能デモニックスキル》……?」


ベリアル

「簡単に言や、超能力だよ。《ヒト》の中でも、一部の〝頭のイカレた〟ヤツらだけが使える。ま、オレも含めてだけどな。……中でもレヴィアタンのは、辺り一面を吹き飛ばすほどの破壊力を持つ、巨大な斧を召喚する能力。そのうえ、あいつ自身が持つ〝嫉妬の権能〟により、嫉妬に狂えば狂うほど威力が上がるとかいう、デタラメなしろもんさ」


レヴィアタン

「――ほらほらぁ! さっさと出てこないと、この街ごと跡形もなくなっちゃうよー?」


 

――レヴィアタンが斧を振り回すと、まるで爆風を受けたように周囲のものが吹き飛ばされてゆく


ベリアル

「……¡joderホデル!(くそが!) 好き勝手に大暴れしやがって! いいか、ルシフェル、お前はそこで隠れてろ! 絶対に出てくんなよ!」


ルシフェル

「えっ、ちょ、ベリアル!」


 

――ルシフェルの制止を無視し、ベリアルはレヴィアタンの前に姿を晒す


ベリアル

「――オレはここだ、レヴィアタン!」


レヴィアタン

「ああ、そんなとこにいたんだー? こんな安っぽい挑発にノッちゃうなんて、ベリアルってばほんとチョロいねっ! ざぁーこ、ざぁーこ♡」


ベリアル

「うるせえクソガキ! これ以上はお前の好きにさせねえ! ――顕現しろ、《砲煙弾雨フルメタルジャケット》!」


レヴィアタン

「おっ、出た出た、ベリアルの《業魔技能デモニックスキル》! 光の弾丸レーザーの雨を浴びせる能力、だったっけ? ――せいぜい楽しませてよねっ!」


ベリアル

「へっ、楽しむ間もなく蜂の巣にしてやるぜ! 喰らえぇッ!」


 

――空中を飛び交う無数の光弾が、レヴィアタンを襲う

 

――レヴィアタンは斧を振り回し、光弾を叩き落としていく


レヴィアタン

「くぅっ、この程度でぇえええ!」


ベリアル

「オラオラぁ! まだまだこんなもんじゃねぇぞっ!」


アスモデウス

「――あらぁん、レヴィたんだけに気を取られてちゃ、危ないわよぉ?」


ベリアル

「なに……⁉」


アスモデウス

「――顕現なさい、《禁断の処女ロリータ》ッ!」


ベリアル

「アスモデウス……ッ!」


アスモデウス

「さあ、思う存分ヤっちゃいなさい! 操り人形ちゃんたち!」


 

――まるで生ける屍のように操られた群衆が、ベリアル目掛けて集まってくる


ベリアル

「……くっ、こいつ、カタギの連中を……っ!」


アスモデウス

「フフ、そうよぉ。アタシの《禁断の処女ロリータ》は、精神支配に抗えない者たちを自在に操る能力。やさしいやさしいベリアルちゃんなら、無関係の一般市民を傷つけられないもんねぇ?」


ベリアル

「や、やめろっ! くそ、放せっ! 放しやがれっ!」


マモン

「顕現しやがれ――《暴虐機関クロックワーク・オレンジ》!」


 

――群衆にまとわりつかれて身動きの取れないベリアルの鳩尾をマモンが殴りつける


マモン

「オラァッ!」


ベリアル

「――がはッ⁉」


マモン

「よーう、ベリアルぅ。まーた会ったなぁ?」


ベリアル

「ゲホッ、ゲホッ……お前っ……マモン……ッ」


マモン

「俺様の《暴虐機関クロックワーク・オレンジ》は、テメェもよーく知ってるよなぁ? 鋼鉄と化した身体を、超高速で稼働させることができンだ。今もテメェの鳩尾に三発くれてやったンだぜ? もちろん、ちゃァンと手加減してやったうえでだ。ま、速すぎて見えなかったろうけどなァ! ……ああ、そうとも。その気になりゃ、テメェの全身の骨を、一瞬で粉々にすることだってできる。だけど、テメェはすぐにゃァ殺してやらねェ。じわじわと痛め付けながら、たーっぷりと可愛がってやンよ?」


ベリアル

「へっ……べらべらと喋り過ぎだボケカス……ンなもん、能無しの三下悪役がやることだぞ……まあ、チンピラのお前には、お似合いだろうけどなあ……ッ!」


マモン

「黙れ! ンなにぶち殺されてぇかッ⁉」


ベリアル

「がぼッ……ごはッ……」


 

――再び殴られ、血反吐を吐くベリアル

 

――そこへ、ルシフェルが姿を現す


ルシフェル

「――やめろ!」


マモン

「……あァ?」


アスモデウス

「あらぁ? あの子……」


ベリアル

「なっ、なっ――¡Qué burroブーロ eresエレス!(なんて馬鹿野郎だお前は!) ……かっ、隠れてろって、言ったろ……っ!」


ルシフェル

「ごめん、ベリアル。やっぱり、じっとしてられなくて」


レヴィアタン

「あれあれ~? キミ、噂の堕天使ベイビーちゃんだよね? なにのこのこ出てきちゃってんの?」


ルシフェル

「……ルシフェルだ」


レヴィアタン

「はあ?」


ルシフェル

「僕の名前は……ルシフェルだ。ベイビーじゃない。ベリアルに付けてもらった名前がある」


レヴィアタン

「……それを言いにわざわざ? バカなの、キミ?」


ルシフェル

「そう、だね……バカなんだと思う。自分が何者なのかもまだ思い出せないてないくせに、こんな無謀なことをしてる。本当は怖くて震えてるくせに、こんな無茶なことしてる。……だけど、やっぱり見過ごせないって思ったから。守りたいって、思ったから……だから!」


マモン

「テメェ、なにをするつもりだ……⁉」


ルシフェル

「こうするに、決まってるさ――顕現せよ、《狂った果実ストレンジラヴ》!」


マモン

「なっ、こいつは……ッ!」


レヴィアタン

「はあああ⁉ 嘘、ウソ、うそ⁉ なんでキミが――《業魔技能デモニックスキル》を持ってるんだよ⁉」


ルシフェル

「――ベリアルを、放せぇッ!」


 

――ルシフェルが放った爆発による衝撃波が、操られた群衆を加減しつつ吹き飛ばしていく


レヴィアタン

「……爆発⁉ うわあああ⁉」


マモン

「どわァっ⁉」


アスモデウス

「きゃあ!」


 

――すぐさまベリアルの元へ駆け寄るルシフェル


ルシフェル

「ベリアルっ! 大丈夫⁉」


ベリアル

「お、お前……一体……」


ルシフェル

「ごめん、隠してたわけじゃないんだけど、何故だかこれだけは覚えてたんだ……でも、なかなか言い出せなくて……どうやら僕も、〝頭のイカレたヤツら〟の一人みたい」


ベリアル

「ったく……馬鹿ルシフェル……」


マモン

「――くそったれが! よくもやりやがったなっ! テメェらまとめて、ボコボコにしてやらァっ!」


ベリアル

「へっ……そっちこそ、さっきはよくもやってくれたなマモン。ここで決着をつけようじゃねぇか!」


マモン

「やってやンよッ! ――《暴虐機関クロックワーク・オレンジ》ッ!」


ベリアル

「――薙ぎ払え、《砲煙弾雨フルメタルジャケット》ッ!」


 

――迫りくる光弾の雨を搔い潜り、一気に間合いを詰めながら殴りかかるマモン


マモン

「バカが! ンなもので俺様を止められるかよォ!」


ベリアル

「バカはお前だ! まんまと引っかかりやがって!」


マモン

「なにぃッ⁉」


ベリアル

「オレの《砲煙弾雨フルメタルジャケット》は、ただ単に大量の光弾レーザーばら撒くだけじゃねぇ。すべての威力を一点に集中させて、ゼロ距離でぶっ放すこともできるんだよ! こうやってなぁッ!」


マモン

「しっ、しまった……ッ⁉」


 

――マモンの腹を目掛け、ベリアルは銃口にエネルギーを集中させた拳銃を撃ち放つ


ベリアル

「¡Veteヴェテ a la Mierdaミエルダ, Gilipollasヒリポジャス!(くたばりやがれ、クソ野郎!)」


マモン

「がっ……は……ッ」


 

――最大威力の攻撃を食らい、吹き飛ばされたマモンはそのまま気を失う


ベリアル

「へっ、今のを食らって死なねぇとはな。ったく、さすがにしぶとい野郎だぜ……」


レヴィアタン

「ま、マモン⁉ このっ、よくもッ! ――叩き潰せ、《閃光の咆哮シャイニング》ッ!」


ルシフェル

「――させない! 爆ぜろ、《狂った果実ストレンジラヴ》‼」


レヴィアタン

「ぐぅっ……くっそ! 邪魔をするなぁっ!」


 

――爆発の衝撃を咄嗟に防ぎ、再び斧を振り上げるレヴィアタン


ベルゼビュート

「おぉっと、そこまでだ。――顕現したまえ、《超越への旅路スペース・オデッセイ》」


 

――すると、レヴィアタンの首元に、鋭い剣の切っ先が突き付けられる


レヴィアタン

「なッ⁉ お前は、ベルゼビュート!」


ベルゼビュート

「さあ、おとなしく武装解除するんだ、レヴィアタン。もし一歩でも動けば、キミの頭と体が永遠にバイバイすることになっちゃうぞ?」


レヴィアタン

「……くっ、わかった……」


ベルゼビュート

「ふふん。わかればよろしい」


ベリアル

「ベルゼ……!」


ルシフェル

「ベルゼビュートさん!」


ベルゼビュート

「すまない二人とも。遅れてしまった。っていうか、もうほとんど終わった後じゃないかぁ……せっかく私の華麗な活躍をお見せしようと思っていたのに……キミがもたもたしてるからだよ、アスタロト!」


アスタロト

「ぇー理不尽を押し付けるパワハラ上司めー」


アスモデウス

「あらあらぁ……やってくれたじゃないの」


ベルゼビュート

「む。アスモデウスか」


アスモデウス

「奇遇ねぇ、ベルゼくん。アタシもまだ本気出してないから、欲求不満なのよぉ」


アスタロト

「……残念だけど、やらせないよ。きみの《禁断の処女ロリータ》と、ぼくの《幻想との戯れアイズ・ワイド・シャット》は、互いの効果を打ち消し合う。どちらにとっても相性最悪だ。ここで無理にやり合うのはバカげてるって、きみもわかってるでしょ、アスモデっち」


アスモデウス

「はぁ~あ……もちろんよ、アスタちゃん。いいわよ、今回はアタシたちの負け。煮るなり焼くなり好きにして? まあ、拷問とかはちょっと興奮するかもだけど♡」


ベルゼビュート

「はっはっは。さすがは〝色欲の権能〟持ちだ。だが、別に何もしないさ? そこで伸びてるマモンを連れて、大人しく縄張りに帰るっていうなら見逃してあげよう」


レヴィアタン

「はあ?」


ベルゼビュート

「その代わり、キミたちのバックにいるであろうベルフェゴールに伝えてくれ。今度、私の前に顔を見せたときには、容赦はしないとね?」


レヴィアタン

「……本当に良いの? ウチらをこのまま帰して」


ベルゼビュート

「私は平和主義者なのさ。こんな世界だ。お互い持ちつ持たれつやっていこうじゃないか」


アスタロト

「そーだよ、アスモデっち。きみらのせいで、ぼくまでこんなめんどくさいことに巻き込まれちゃったんだかんね。大人しくしときなー?」


アスモデウス

「はぁ~、わかったわよアスタちゃん。……ほんと、あとで色々と怖いし、ベルゼくんにだけは借りを作りたくなかったんだけど、こうなっちゃ仕方ないわねぇ。……じゃあね、ベルゼくん、アスタちゃん、ベリアルちゃん。……それに、ルシフェルくん。またいずれお会いしましょう?」


 

――アスモデウスとレヴィアタンはマモンを抱えて去っていく


ベルゼビュート

「――さてさて。ひとまず一件落着ってところかな」


アスタロト

「やっと終わったー。帰ろ帰ろー」


ベルゼビュート

「しかし、よく頑張ってくれたね、ベリアル」


ベリアル

「ほんと、ガキの世話も骨が折れるぜったくよぉ!」


ルシフェル

「そ、そんな子ども扱いしなくたって……そもそも、そんなに年変わらない気がするんだけど……」


アスタロト

「ベリアルだって大概、お子ちゃまのくせにねー」


ベリアル

「ンだとぉ⁉」


ベルゼビュート

「――ルシフェルくん。キミにもいろいろ聞きたいことはあるが、今日は帰ってシャワーでも浴びて、ゆっくり休んでくれ。明日から忙しくなるぞー!」


ルシフェル

「は、はい!」


ベリアル

「あー……ルシフェル」


ルシフェル

「ん?」


ベリアル

「なんつーか、その……ありがとな。助けてくれて」


ルシフェル

「あ、いや、そんな……こちらこそ……」


ベリアル

「……とっ、と思ったけど! 別にお前の助けなんかなくても一人で何とかなってたわ! ちょーし乗んなよバーカバーカ!」


アスタロト

「……ほんと素直じゃないねー。ま、ベリアルらしいけど」


ベリアル

「――って、アスタ、お前なぁッ! あ、ちょっ、こら! 待ちやがれええ!」


ルシフェル

「ふ……ふっ、ふふ、あはははっ!」


 

――追いかけっこを始める二人を見て楽しそうに笑うルシフェル

 

――場面は次第にフェードアウトしていく


 

* * * * *


ベリアル

その街は、常に燃え盛っていた。決して消えることのない灼熱の業火が、この街に生きる者どもを、心の底から焼き尽くしていた――


ベリアル

どんな奴にも例外はない。その街に一歩でも足を踏み入れたが最後、手前てめぇのすべてを、真っ赤な炎が包み込む――


ベリアル

そのまま灰になって、きれいさっぱり消え去るか。炎を纏って狂いながら、炎を背負って苦しみながら、それでもなお生き続けるか。それはお前次第さ――


ベリアル

弱いものは死に、強いものだけが生き残る。それが、たった一つのシンプルなルールだ――


ベリアル

オレはこれまでそうして生きてきたし、これからもそうして生きていく。なら、お前はどうだ――


ベリアル

……へえ。そうかい。オレと一緒に行こうってのか。フッ、おもしれえ。それなら、その目をしっかりかっ開いて、よーく見るんだな。ああ、そうだとも。此処が、オレたちの生きる世界だ――


ベリアル

「――¡Bienvenidosビエンヴェニードス alアル infiernoインフィエルノ!(ようこそ、地獄の底へ!)」


 

〈Fin〉

タイトルとURLをコピーしました