(※タイトルコールは誰が担当しても構いません。読まなくても構いません)
(※スペイン語のセリフは()内の日本語訳だけを読んでもOKです)
(※「」で括っていないセリフはナレーション、もしくはモノローグとして演じてください)
その街は、常に燃え盛っていた。決して消えることのない灼熱の業火が、この街に生きる者どもを、心の底から焼き尽くしていた――
どんな奴にも例外はない。その街に一歩でも足を踏み入れたが最後、手前ぇのすべてを、真っ赤な炎が包み込む――
そのまま灰になって、きれいさっぱり消え去るか。炎を纏って狂いながら、炎を背負って苦しみながら、それでもなお生き続けるか。それはお前次第さ――
弱いものは死に、強いものだけが生き残る。それが、たった一つのシンプルなルールだ――
オレはこれまでそうして生きてきたし、これからもそうして生きていく。なら、お前はどうだ――
さあ、目を開けろ。足を踏み出せ。
此処が、お前の生まれ来る世界だ――
『Circo del Diablos』
――薄暗く人気のないゴミだらけの路地裏を、息を切らしながら逃げ続けるルシフェル
「おいおい、どこへ行こうってんだ、ウサギちゃん?」
「逃げても無駄だぜ? どうせそっちは行き止まりだからな」
「ったく……ブツを持ってるヤツがいるって聞いてきたからわざわざ出向いてみれば、まさかこんな貧相なガキとはなぁ。……おい、テメェ、どっから来やがった?」
「……わ、わからない……たぶん、あっちだと思う……」
「はァ? ふざけたやつだなテメェ! よーし、それなら俺様がイイコトを教えてやろう! その耳の穴かっぽじってよーく聞けよ? ここはなぁ、誰もが明日を生きて迎えられるかもわからねぇ、ファッキン地獄なんだ。テメェのようなひょろガキは、そこいらで毎日のようにくたばってんだぜ? つまり、テメェ一匹消えたところで、憐れむヤツはだァれもいやしねぇってこった。サヴィ?」
「言うまでもねェ。今からテメェのド頭を弾く。そして、俺様はブツを手に入れる! ……な? 簡単な話だろ?」
「ブツなんて知らない……僕は、何も持っていない……!」
「ンなもん、テメェが死んだ後にゆっくり探すからどうでもいいンだよ。……ま、恨むなら、テメェがこの世界に生まれてきたコトを恨むンだなァッ!」
「ここはベルゼビュートのシマだって、わかってんだろうな?」
「おいおい、ベリアルぅ。いつからテメェはあのボンクラ野郎の飼い犬になったンだ?」
「犬になったつもりはねぇ。だが、オレはいつだって金払いの良いヤツの側に着くと決めてんだ。なんなら、お前がオレを雇うか? 自分で言うのもなんだが、良い働きはすると思うぜ? ま、お前にそれだけの金があればの話だけどな?」
「はンっ! いきなりぶっ放すとは、穏やかじゃねぇなあッ!」
「テメェと顔合わせて、穏やかに済む方法を教えてほしいくらいだよッ!」
――マモンは続けざまに銃撃するが、ベリアルは避け続ける
「どうしたどうした、マモン! 腕が鈍ったんじゃねぇのか!」
「おーおー。どうやら今の騒ぎで、ベルゼの兵隊どもに気付かれたみてぇだなー? いくらお前でも、あんだけの数に囲まれたらしんどいだろ?」
「チッ……わーったよ。今日のところはこれで引き上げてやらァッ! ……だが、いいか! 次に会ったら、テメェはゼッテェに殺すからな、覚えとけよベリアル!」
「うるせーよ、Cabrón(クソ野郎)。それ言うの何回目だっつーの」
「……ふんっ、別にお前を助けたくて助けたワケじゃねぇ」
「チッ、うぜぇ野郎だな……オレはもう行くぞ。お前もまた、あいつみてぇなチンピラに嬲り殺しにされねぇうちに、とっとと帰んな」
「ま、待って! 帰れって言われても、どこに帰れば良いかわからないんだ……」
「そ、そうじゃなくて、何もわからないんだ……どうして僕は、こんなところにいるのかも……」
「はぁ……もしかしなくても、記憶喪失ってやつか……ったく、しょうがねぇ……」
――ルシフェルの胸ぐらを掴むと、その胸元にペンダントが提げられている
「あン? こいつは……鍵のペンダント? 文字が刻まれてる……《LUCIFER》……これがお前の名前か?」
「めんどくせぇ……もういいや、お前はこれからルシフェルな」
「思い出すまでそういうことにしとけ。……とりあえず、ここにいてもしょうがねぇ。一緒に来な」
――シンジュクシティにあるホテル。その最上階のベルゼビュートの執務室
「――やあ、お待たせ。すまんね、打ち合わせが長引いてしまった」
「……ほほう、キミがルシフェルくんか! 記憶喪失なんだって? ベリアルから聞いたよ。私の名は、ベルゼビュート。この界隈を仕切っているものだ。よろしく頼むよ。そちらはアスタロトだ。情報屋をやっている」
「はは。そう固くならずに、楽にしてくれ。それにしても、キミは運が良かったねぇ。この《アンダーグラウンド》で治安が良いのは、うちの界隈くらいのものだ」
「ま、他と比べて、多少はマシくらいのものだけどねー」
「そんな悲しいこと言わないでくれよ、アスタロトぉ。私だってけっこう頑張ってるんだよー?」
「……この街は、シンジュクシティ。そしてここは、カブキチョウエリアと呼ばれる歓楽街の一角に建つ、私が経営する超・高・級・ホテルだよ。この街はまだ穏やかなほうだが、エリアの外に一歩でも出れば、そこはもう無法地帯。殺人、誘拐、強盗、通り魔、なんでもござれだ。そんな中、キミがどこから来て、どうやってこの街までやって来られたのか、とても不思議だよ。うん、実に不思議だ。正直言って、めっっっちゃ興味深い!」
「ふぅむ。その綺麗な碧色の瞳も、この街の住人にはまずいない。いや不思議だねぇ。きっと欲しがる輩も多いんだろうなぁ。うん。とぉっても高く売れるぞぉ!」
「ハッハッハ。冗談だよ。怖がらせてすまんね! だが、そういう輩がいるのも確かだ。そこで、他に行く当てがないのなら、どうだろう? 私がキミを保護しようと思うのだがね?」
「ああ。ただし、私も商売人だ。慈善事業というわけにはいかない。私の元で働いてくれるというのなら、キミの安全は保障しよう。いやなに、難しいことはないさ。未経験でも大歓迎の簡単なお仕事だ。アットホームな職場でやりがいもある。こんなに良い求人はなかなかないぞぉ!」
「オレはフリーランスだ。アンタんとこの社員になったワケじゃねぇ」
「ついでにぼくもねー。別にベルゼの部下ってわけじゃないんで、そこんとこよろしくー」
「もう、キミたちってば、ほんとツンデレさんなんだからぁ!」
「あの……わかりました。僕はあなたのもとで働きます。他にどうしようもないですし、死にたくもありませんから」
「ふふん、ならば契約成立だ。あらためてよろしく、ルシフェルくん。ではさっそくだが、キミにはベリアルのサポートをしてもらおう」
「¡Hostia!(マジかよ!) 何言ってやがんだ! こんな素人、足手まといにしかならねぇだろ!」
「というより、ベリアル。キミがルシフェルくんの手助けをしてあげてくれ。この子が記憶を取り戻すためのね?」
「はあ? ……お断りだね。オレは、一人で生きてく力もねえ弱いヤツが大嫌いだ」
「うるせえ! 行く当てがねえっていうから、仕方なく拾ってきてやっただけだ! オレが世話するとまでは一言も言ってねえ!」
「まあまあ。それならこうしようじゃないか。そのための報酬は、現在の契約金に上乗せだ。どうだい? 悪い話じゃないだろう?」
「私は知的好奇心の塊なのだよ。ルシフェルくんが一体何者で、どんな目的でここまで来たのか、すんごく知りたい。それに、キミが側に居れば、護衛としても最適だ」
「……はぁ~。わかったよ。オレが面倒見てやるッ。その代わり、ボディーガード代は別料金だ」
「承知した。それも新しい契約書に盛り込んでおこう。とりあえず、今のところは特に依頼する仕事もないし、今日はもうゆっくり休んでくれたまえ。それと、せっかくだから明日にでも、ルシフェルくんにこの界隈を案内してやってくれないか?」
「……あの子、マモンに襲われそうになっていたという話だったねぇ……なぜシブヤのマモンがここまで出張って来てたのかも気になるなぁ……」
「まーたはじまったよ、ベルゼってば。知識の暴食……《情報喰らい》の悪いクセだねー」
「――なあ、アスタロト。どんな手を使っても良いから、あの子についての情報を探ってくれ。それから、マモンらシブヤ近辺を根城にしているグループの動向も見張ってほしい。どんなに些細なことでも構わない。何か見つけたら、私に逐一報告してくれたまえ」
「ぇー。めどい。今日の仕事はもうないって言ってたじゃん」
「あれはベリアル向けの仕事の話だよ。キミにはもっとガッツリ働いてもらうからねっ!」
「……くそったれが! ベリアルの野郎、俺様をなめやがってッ! あいつ、今度会ったら顎を粉々に砕いて、減らず口を叩けなくしてやるッ!」
「あらあらぁ、マモちゃんてば、いつになく荒れちゃってぇ。愛しのベリアルちゃんにフラれちゃったぁ?」
「うっせぇぞ、クソビッチ! そのクソを垂れ流すだけの口を閉じねぇなら、テメェのクソ舌を引きちぎるからな!」
「ぷっ、おめおめ逃げ帰って来て八つ当たりとか、ほんとダッサ」
「まあまあ、落ち着きなさいって、マモちゃん。それよりも、ホラ、見つけたんでしょ~? 例の〝堕天使〟ちゃん」
「チッ……ああ。確かに、あのガキで間違いなさそうだ」
「それで、ブツはどうだったのよ? ちゃんと手に入れたわけ?」
「それを確認する前に邪魔が入ったンだっつーのッ! あンのくそ忌々しいちんちくりんのベリベリ野郎がッ!」
「でもまあ、もし《扉の鍵》を持ってなかったとしても、その子の生きたままの生体データさえ確保できてれば大丈夫……らしいよ。たぶん。知らんけど」
「……生きたままだと⁉ それを先に言えやレヴィ! あのガキぶち殺すところだったンだぞ! テメェが先にぶち殺されてぇかッ⁉」
「だ、だって、ベルフェゴールがそう言ってたんだもん! ウチに文句言わないでよ!」
「クソッ……あの野郎もベルゼビュートと同じだ! どいつもこいつも、うさんくせぇやつばっかりでマジムカツクぜ!」
「でっもぉ、あのベルフェくんがそこまで言うんだもの、相当な金になるんじゃない? それこそ、アタシらが一生遊んで暮らせるくらいの……ねー? レヴィたん?」
「どこまで本当か知らないけどねー。しかも殺しちゃダメで、生け捕りにしないといけないって、わりと難易度高いと思うけどさ。……まあ、それでも、乗ってみる価値はあると思ったよ、ウチは」
「わーってるよ! ダメなら代わりにベルフェの野郎を締め上げりゃいいだけだ!」
「とはいっても、どうするのよ? 〝堕天使〟ちゃんの身柄、ベルゼくんが確保してるんでしょ?」
「はンっ……上等だ。やってやろうじゃねぇか。どっちにしろ、近いうちにヤツのシマは潰そうと思ってたところだ。手間が省けて助かるってもンだぜ。――アスモデ、レヴィ、準備しとけ。明日、さっそく仕掛けンぞ!」
「キャハっ、おもしろそーじゃん。本気のカチコミっていつ以来だっけ?」
「フフ、そうこなくっちゃ。ひさびさにアタシも腕が鳴るわぁ」
「お、お邪魔します……でも、本当に良いの? 僕なんかを入れて……」
「どうせ風呂入って着替えて寝るだけの場所だ。好きに使え」
「文句を言うならベルゼに言えよな。……ったく、あんだけ大層なホテル持ってんだから、部屋の一つや二つあてがってくれりゃ良いのに、ケチくせぇんだからよぉ」
――言いながら、ベリアルは冷蔵庫からビールを取り出して飲み始める
「本当に、助けてくれてありがとう。あなたがいなかったら今頃、僕は……」
「――うるせぇ、黙れ。気に食わないってんなら、オレが今、ここで殺してやったっていいんだぜ?」
「そもそもオレはな、お前みたいなウジウジした弱虫野郎が大っ嫌いなんだ」
――ルシフェルを押し倒して馬乗りになり、そのこめかみに拳銃を突き付ける
「……お前を見てると、胸糞悪ぃこと思い出すんだよ……ッ」
――ベリアルは馬乗りになったまま、ルシフェルの胸元に顔をうずめる
「……お前の、せいだからなっ、馬鹿ルシフェル……ッ!」
「――で、ここいらが飲食店街だ。飯を食いたきゃ、ここにくりゃ何かしらあんだろ。ま、むやみやたらにアヤシイ店入って、ぼったくられてもしらねーけどな」
「そ、そうなんだ、気を付けるよ。……あ、あの、さ……」
「オレには弟がいた。両親はいねえ。ほかに親戚もいねえ。たった一人の家族だった。……だが、ガキの頃に死んじまったよ。お前みたいにひょろくて、ウジウジしてて、弱虫の泣き虫野郎だった」
「だから死んだんだ! あいつが弱かったから! 力がなかったから! だったらルシフェル、お前はどうだ? お前はこの街で、一人で生きていける力があるのかッ⁉」
「いいか、ルシフェル。オレは何でも屋だ。金になりそうなことならなんだってやる。どんなに汚ぇことだってな。オレはこの街で、今までそうやって生きてきた。……確かにお前は今、記憶がなくて、何も知らねえ〝赤ん坊〟みたいなもんだろう。だから、オレが世話してやる。仕事として、契約を結んだからな。だが、その契約が切れたら? オレがお前を見限ったら? ……もし万が一、オレが死んだら? そうしたら、これからお前はどう生きるつもりだ?」
「強いヤツだけが生き残り、弱いヤツはくたばる。それがこの街の、たった一つの単純な掟だ。……オレがお前の側に居る間に、せいぜい強くなるんだな」
「くそ。オレとしたことが、おしゃべりが過ぎたな。……ほら、次行くぞ。ぼさぼさしてないで、付いて来やが――」
「(前のセリフに被せて)あはっ――見ぃーつけた!」
――突如としてレヴィアタンから銃撃を受け、物陰へと身を隠すベリアルとルシフェル
「どうしたんだ、アスタロト。珍しく慌ててるじゃないか。さっそく何かわかったのかい?」
「うん。すごいことがわかったよ。あのルシフェルって子、《天上人》だ」
「昨日、あの子が座ってたソファに残ってた毛髪から、遺伝子サンプルを解析してみたんだ。そうしたら、明らかにぼくらとは異なるDNA組成だということが判明した。んで、過去の事例――つまり、〝堕天〟した《天上人》の遺体の一部や臓器を保管してる研究所のデータをハッキングして照らし合わせてみたら、特徴がばっちり一致したってわけさ」
「ふ、ふふふ……面白いことになってきたぞ……これまでに発見された《天上人》は、いずれもすでに死体の状態だった。……だが、生きた《天上人》が見つかったとなれば、前例のない一大事だ。この街が……いや、《アンダーグラウンド》中が、〝戦争〟になるかもしれない!」
「ったくもー、物騒なことはお断りだからね。……ああ、物騒と言えば、シブヤの連中の動向についても調べてみだけど、あいつらの部下どもが沸き立ってるみたい。どうやら本気でこちらに攻め入るつもりみたいだよ」
「なるほどねぇ。連中も昨日までは、ルシフェルくんについて探りを入れてる段階だったんだろう。それで大人しく帰ってくれたみたいだけど、きっとルシフェルくんの持つ〝価値〟について、確信を得たに違いない。それこそ、《楽園》への扉を開く鍵としてのね」
「……空を覆う〝蓋〟の上にあるといわれてる、伝説の《楽園》ね……ぼくはあんま興味ないけどー」
「ともあれだ。そうなるとマモンだけじゃなく、アスモデウスやレヴィアタンも動いてくる。それに、連中を裏で手引きしてるのは、やはりベルフェゴールだろう……」
「ま、なんにしても、ぼくはやることはやったからね。あとはそっちで勝手にやって。ひさびさに頭使ったら疲れちゃった。もう寝る。おやすみー」
「――って、寝かせないよ⁉ キミも来るんだ、アスタロト! やつらが本気を出したら、さすがのベリアルでも、一人では無理だ!」
「ほーらぁ、出ておいでよ、ベリアルー? ま、しょうがないかぁ。大事な堕天使ちゃんを子守しながらじゃ、キミも動くに動けないっしょ? キャハハっ! いいよ、出てこないんだったらぁ……ぜーんぶ跡形もなくぶっ壊しちゃうから! ――さあ、顕現しなぁ? ウチの《閃光の咆哮》ッ!」
「チッ、ありゃあ、レヴィアタンの《業魔技能》だ」
「簡単に言や、超能力だよ。《ヒト》の中でも、一部の〝頭のイカレた〟ヤツらだけが使える。ま、オレも含めてだけどな。……中でもレヴィアタンのは、辺り一面を吹き飛ばすほどの破壊力を持つ、巨大な斧を召喚する能力。そのうえ、あいつ自身が持つ〝嫉妬の権能〟により、嫉妬に狂えば狂うほど威力が上がるとかいう、デタラメなしろもんさ」
「――ほらほらぁ! さっさと出てこないと、この街ごと跡形もなくなっちゃうよー?」
――レヴィアタンが斧を振り回すと、まるで爆風を受けたように周囲のものが吹き飛ばされてゆく
「……¡joder!(くそが!) 好き勝手に大暴れしやがって! いいか、ルシフェル、お前はそこで隠れてろ! 絶対に出てくんなよ!」
――ルシフェルの制止を無視し、ベリアルはレヴィアタンの前に姿を晒す
「ああ、そんなとこにいたんだー? こんな安っぽい挑発にノッちゃうなんて、ベリアルってばほんとチョロいねっ! ざぁーこ、ざぁーこ♡」
「うるせえクソガキ! これ以上はお前の好きにさせねえ! ――顕現しろ、《砲煙弾雨》!」
「おっ、出た出た、ベリアルの《業魔技能》! 光の弾丸の雨を浴びせる能力、だったっけ? ――せいぜい楽しませてよねっ!」
「へっ、楽しむ間もなく蜂の巣にしてやるぜ! 喰らえぇッ!」
――空中を飛び交う無数の光弾が、レヴィアタンを襲う
――レヴィアタンは斧を振り回し、光弾を叩き落としていく
「オラオラぁ! まだまだこんなもんじゃねぇぞっ!」
「――あらぁん、レヴィたんだけに気を取られてちゃ、危ないわよぉ?」
「さあ、思う存分ヤっちゃいなさい! 操り人形ちゃんたち!」
――まるで生ける屍のように操られた群衆が、ベリアル目掛けて集まってくる
「フフ、そうよぉ。アタシの《禁断の処女》は、精神支配に抗えない者たちを自在に操る能力。やさしいやさしいベリアルちゃんなら、無関係の一般市民を傷つけられないもんねぇ?」
「や、やめろっ! くそ、放せっ! 放しやがれっ!」
「顕現しやがれ――《暴虐機関》!」
――群衆にまとわりつかれて身動きの取れないベリアルの鳩尾をマモンが殴りつける
「俺様の《暴虐機関》は、テメェもよーく知ってるよなぁ? 鋼鉄と化した身体を、超高速で稼働させることができンだ。今もテメェの鳩尾に三発くれてやったンだぜ? もちろん、ちゃァンと手加減してやったうえでだ。ま、速すぎて見えなかったろうけどなァ! ……ああ、そうとも。その気になりゃ、テメェの全身の骨を、一瞬で粉々にすることだってできる。だけど、テメェはすぐにゃァ殺してやらねェ。じわじわと痛め付けながら、たーっぷりと可愛がってやンよ?」
「へっ……べらべらと喋り過ぎだボケカス……ンなもん、能無しの三下悪役がやることだぞ……まあ、チンピラのお前には、お似合いだろうけどなあ……ッ!」
「なっ、なっ――¡Qué burro eres!(なんて馬鹿野郎だお前は!) ……かっ、隠れてろって、言ったろ……っ!」
「ごめん、ベリアル。やっぱり、じっとしてられなくて」
「あれあれ~? キミ、噂の堕天使ちゃんだよね? なにのこのこ出てきちゃってんの?」
「僕の名前は……ルシフェルだ。ベイビーじゃない。ベリアルに付けてもらった名前がある」
「そう、だね……バカなんだと思う。自分が何者なのかもまだ思い出せないてないくせに、こんな無謀なことをしてる。本当は怖くて震えてるくせに、こんな無茶なことしてる。……だけど、やっぱり見過ごせないって思ったから。守りたいって、思ったから……だから!」
「こうするに、決まってるさ――顕現せよ、《狂った果実》!」
「はあああ⁉ 嘘、ウソ、うそ⁉ なんでキミが――《業魔技能》を持ってるんだよ⁉」
――ルシフェルが放った爆発による衝撃波が、操られた群衆を加減しつつ吹き飛ばしていく
「ごめん、隠してたわけじゃないんだけど、何故だかこれだけは覚えてたんだ……でも、なかなか言い出せなくて……どうやら僕も、〝頭のイカレたヤツら〟の一人みたい」
「――くそったれが! よくもやりやがったなっ! テメェらまとめて、ボコボコにしてやらァっ!」
「へっ……そっちこそ、さっきはよくもやってくれたなマモン。ここで決着をつけようじゃねぇか!」
「やってやンよッ! ――《暴虐機関》ッ!」
「――薙ぎ払え、《砲煙弾雨》ッ!」
――迫りくる光弾の雨を搔い潜り、一気に間合いを詰めながら殴りかかるマモン
「オレの《砲煙弾雨》は、ただ単に大量の光弾ばら撒くだけじゃねぇ。すべての威力を一点に集中させて、ゼロ距離でぶっ放すこともできるんだよ! こうやってなぁッ!」
――マモンの腹を目掛け、ベリアルは銃口にエネルギーを集中させた拳銃を撃ち放つ
「¡Vete a la Mierda, Gilipollas!(くたばりやがれ、クソ野郎!)」
――最大威力の攻撃を食らい、吹き飛ばされたマモンはそのまま気を失う
「へっ、今のを食らって死なねぇとはな。ったく、さすがにしぶとい野郎だぜ……」
「ま、マモン⁉ このっ、よくもッ! ――叩き潰せ、《閃光の咆哮》ッ!」
「――させない! 爆ぜろ、《狂った果実》‼」
――爆発の衝撃を咄嗟に防ぎ、再び斧を振り上げるレヴィアタン
「おぉっと、そこまでだ。――顕現したまえ、《超越への旅路》」
――すると、レヴィアタンの首元に、鋭い剣の切っ先が突き付けられる
「さあ、おとなしく武装解除するんだ、レヴィアタン。もし一歩でも動けば、キミの頭と体が永遠にバイバイすることになっちゃうぞ?」
「すまない二人とも。遅れてしまった。っていうか、もうほとんど終わった後じゃないかぁ……せっかく私の華麗な活躍をお見せしようと思っていたのに……キミがもたもたしてるからだよ、アスタロト!」
「奇遇ねぇ、ベルゼくん。アタシもまだ本気出してないから、欲求不満なのよぉ」
「……残念だけど、やらせないよ。きみの《禁断の処女》と、ぼくの《幻想との戯れ》は、互いの効果を打ち消し合う。どちらにとっても相性最悪だ。ここで無理にやり合うのはバカげてるって、きみもわかってるでしょ、アスモデっち」
「はぁ~あ……もちろんよ、アスタちゃん。いいわよ、今回はアタシたちの負け。煮るなり焼くなり好きにして? まあ、拷問とかはちょっと興奮するかもだけど♡」
「はっはっは。さすがは〝色欲の権能〟持ちだ。だが、別に何もしないさ? そこで伸びてるマモンを連れて、大人しく縄張りに帰るっていうなら見逃してあげよう」
「その代わり、キミたちのバックにいるであろうベルフェゴールに伝えてくれ。今度、私の前に顔を見せたときには、容赦はしないとね?」
「私は平和主義者なのさ。こんな世界だ。お互い持ちつ持たれつやっていこうじゃないか」
「そーだよ、アスモデっち。きみらのせいで、ぼくまでこんなめんどくさいことに巻き込まれちゃったんだかんね。大人しくしときなー?」
「はぁ~、わかったわよアスタちゃん。……ほんと、あとで色々と怖いし、ベルゼくんにだけは借りを作りたくなかったんだけど、こうなっちゃ仕方ないわねぇ。……じゃあね、ベルゼくん、アスタちゃん、ベリアルちゃん。……それに、ルシフェルくん。またいずれお会いしましょう?」
――アスモデウスとレヴィアタンはマモンを抱えて去っていく
「そ、そんな子ども扱いしなくたって……そもそも、そんなに年変わらない気がするんだけど……」
「――ルシフェルくん。キミにもいろいろ聞きたいことはあるが、今日は帰ってシャワーでも浴びて、ゆっくり休んでくれ。明日から忙しくなるぞー!」
「……とっ、と思ったけど! 別にお前の助けなんかなくても一人で何とかなってたわ! ちょーし乗んなよバーカバーカ!」
「……ほんと素直じゃないねー。ま、ベリアルらしいけど」
「――って、アスタ、お前なぁッ! あ、ちょっ、こら! 待ちやがれええ!」
――追いかけっこを始める二人を見て楽しそうに笑うルシフェル
その街は、常に燃え盛っていた。決して消えることのない灼熱の業火が、この街に生きる者どもを、心の底から焼き尽くしていた――
どんな奴にも例外はない。その街に一歩でも足を踏み入れたが最後、手前ぇのすべてを、真っ赤な炎が包み込む――
そのまま灰になって、きれいさっぱり消え去るか。炎を纏って狂いながら、炎を背負って苦しみながら、それでもなお生き続けるか。それはお前次第さ――
弱いものは死に、強いものだけが生き残る。それが、たった一つのシンプルなルールだ――
オレはこれまでそうして生きてきたし、これからもそうして生きていく。なら、お前はどうだ――
……へえ。そうかい。オレと一緒に行こうってのか。フッ、おもしれえ。それなら、その目をしっかりかっ開いて、よーく見るんだな。ああ、そうだとも。此処が、オレたちの生きる世界だ――
「――¡Bienvenidos al infierno!(ようこそ、地獄の底へ!)」