竜の巣を探して

アクション
アクションシナリオ

※『星を追う天馬』と対になるお話です。見比べながら楽しんでいただけると幸いです。

はじめにお読みください

・本作は現実世界をベースに欧州の架空の国を舞台にした空戦アクションです。この物語はフィクションであり、実在の人物・団体等には一切関係ありません。
・軍事考証的におかしなところが多々あると思いますが、あくまでフィクションですのであらかじめご了承ください。
・キャラクターの性別は定めていますが、キャストの性別は不問です。
・YouTubeやツイキャス、Twitterのスペースなど、非営利での配信であれば自由にお使いいただけます。
・使用時の許可やクレジットなどは特に必要ありませんが、配信の際には作者のTwitter(X)にメンションくださるなど、何らかの形でお知らせいただけると嬉しいです(強制ではありません)。
・会員制の配信アプリで使用する場合は、外部のシナリオを用いて良いかどうか、そのアプリの規約をご確認ください。
・営利を目的とした配信や商業作品、舞台やリアルのイベントなどで使用したいという場合は作者のTwitter(X)にご連絡ください。
・物語の雰囲気を大きく変えない限りは、アドリブやセリフ改変などもOKです。
・主人公たちの乗機については自由に変えてしまって構いません(途中にト書きを入れてますのでそちらも参照してください)。お好きな機体で妄想しちゃってください。

作品概要

タイトル

竜の巣を探して

作者

島嶋徹虎

ジャンル

アクション/ミリタリー

上映時間

約20分

男女比

男2:女1(※あくまで目安ですので、基本的にはすべて男女不問です)

あらすじ

 2000年代初頭。ヨーロッパ南東部、バルカン半島。
 “欧州の火薬庫”などともいわれるこの地方に位置する二つの小国、ウォルトニア共和国とトリシア民主共和国は、領土問題に端を発する戦争に突入した。

 小国ゆえに空軍のパイロット不足に悩むウォルトニア共和国は傭兵を募り、外国人部隊を編成する。そして、その中には、それぞれ英軍と米軍のパイロットとしてかつて名を馳せた、二人の男の姿があった――

登場人物

ウィル

ウィリアム・フェアフィールド(♂) … イギリス出身の傭兵。階級は中尉。高校卒業後、空軍士官学校へ入学。王立空軍のパイロットになったのち、退役して傭兵となった。サムとは幼馴染。ウォルトニア共和国空軍第七航空団第三〇三戦闘飛行隊「グリフォン」一番機。コールサインは《グリフォン1》。TACネームは《マクベス》。愛称はウィル。斜に構えたクールな性格。


サム

サミュエル・レノックス(♂) … イギリス出身の傭兵。階級は中尉。高校卒業後、アメリカへ移住。もともと二重国籍者で、二十歳になった際にアメリカ国籍を選択。士官学校を経て合衆国空軍のパイロットとなったのち、退役して傭兵となった。ウィルとは幼馴染。ウォルトニア共和国空軍第七航空団第三〇三戦闘飛行隊「グリフォン」二番機。コールサインは《グリフォン2》。TACネームは《ハムレット》。愛称はサム。命知らずな熱血漢。調子に乗りやすい。


ティナ

マルティーナ・オルドイーニ(♀) … ウォルトニア共和国空軍少尉。空中管制機の管制官。「グリフォン」のオペレーティングを担当する。コールサインは《エアリエル》。愛称はティナ。生真面目な性格。

シナリオ

※「」もしくは『』で括られていないセリフはそのキャラのモノローグとしてください。

※冒頭のナレーションはティナ役を指定していますが、誰が担当しても構いません。ナレーションを省略して台詞からスタートしてもOKです。


ナレーション(ティナ)

2000年代初頭。ヨーロッパ南東部、バルカン半島。


ナレーション(ティナ)

“欧州の火薬庫”などともいわれるこの地方に位置する二つの小国、ウォルトニア共和国とトリシア民主共和国は、領土問題に端を発する戦争に突入した。


ナレーション(ティナ)

小国ゆえに空軍のパイロット不足に悩むウォルトニア共和国は傭兵を募り、外国人部隊を編成する。


ナレーション(ティナ)

その中には、それぞれ英軍と米軍のパイロットとしてかつて名を馳せた、二人の男の姿があった――


 


 * * * * *


ティナ

「――《グリフォン》各機へ、こちら《エアリエル》。まもなく作戦空域に到達します。充分に警戒してください」


ウィル

「こちら《グリフォン1ワン》、了解した《エアリエル》。現在の速度を維持したまま作戦空域に突入する。……ふぅ(軽く溜め息)。しかしまさか、お前とこうして肩を並べて飛ぶ日が、本当に来るなんてな」


サム

「肩並べるって言ゃあ、ハイスクールん時以来か。俺とお前、フットボールじゃ敵なし。最強のツートップだった。なあ、《マクベス》!」


ウィル

「昔話が過ぎるぞ、《ハムレット》。何年前だと思ってんだ」


ティナ

「(咳払いして)二人とも、今は作戦行動中です。思い出話は後にしてください」


サム

「へいへい、ティナちゃんは本当に優等生さんだねぇ」


ティナ

「当方は《エアリエル》です、レノックス中尉。作戦行動中だと言ってるでしょ……っと、言ってるそばから、レーダーに敵影! 北北西より接近中、かず四機!」


サム

「さっそくお迎えがおいでなすったか! そんじゃ、まずはご挨拶だ! ――FOX3フォックス・スリー!」


ウィル

「こちらもだ。FOX3、アムラーム発射!


ティナ

「視界外射程ミサイル、目標到達まで3、2、1……あぁ、ダメです! 敵部隊、全機健在! ミサイル、命中弾なし!」


サム

「先制攻撃を避けやがるとは、敵さんもなかなかやるじゃないの」


ウィル

「良いさ。だったらこっちの間合いで仕留める」


サム

「上等だ。アムラームからサイドワインダーに切り替えるぞ」


ティナ

「敵機、急速接近! 気を付けてください!」


サム

「来たぜ来たぜぇ……チキンレースとしゃれこもうじゃねえか!」


ウィル

「あんまり無茶するなよ、《ハムレット》」


サム

「まーかしとけ!」


ティナ

「警告! 《グリフォン2ツー》! そのままのコースだと敵機と衝突します! 避けてください!」


サム

「――イイイイィィィヤッッッハアアアアァァァァッッッ!」


ティナ

「なっ、敵機のスレスレをかすめるだなんて……無茶苦茶ですッ!」


サム

「はっはぁー! ドッグファイトってのは、こうじゃなくちゃなぁ!」


ウィル

「はあ……やれやれだ」


サム

「だがよぉ、今ので敵の陣形が乱れた! 一気にやっちまおうぜ!」


ウィル

「ま、結果オーライか。……よし、俺は右。お前は左だ」


サム

「おーけい! ――よし、捉えた! FOX2フォックス・ツー!」


 

――爆発音


ティナ

《グリフォン2》、ミサイル命中です!


ウィル

「FOX2! 発射!」


 

――爆発音


ティナ

「《グリフォン1》のミサイルも命中! お見事です!」


サム

「良い腕じゃねえか、《マクベス》!」


ウィル

「お前もな《ハムレット》。っつーか、いまさらだが、俺たちのTACタックネーム、縁起悪くねぇか」


サム

「ブリーフィングで互いにこう呼ぼうって決めたのはお前だぜ?」


ウィル

「そうだったっけか?」


サム

「それによ、俺たちにゃ、縁起が悪いくらいがお似合いさ!」


ティナ

「(前のセリフが言い終わる直前にかぶせて)――敵飛行部隊、残存数ざんぞんすう二! 態勢を立て直してきます!」


ウィル

「(同じく言い終わる直前にかぶせて)……フッ、それもそうだな」


 

 * * * * *


ウィル

TACネーム《ハムレット》こと、サミュエル・レノックス。通称、サム。


ウィル

あいつと再会したのは、つい先日のことだった。


ウィル

故郷はイギリスのリバプール。あいつとは家が隣近所で、ガキの頃からサッカーで競い合った。


ウィル

それから高校卒業と同時に、あいつは出生地のアメリカに渡って米国籍を取得し、合衆国空軍へ入隊。


ウィル

俺はイギリスに残り、王立空軍のパイロットになった。


ウィル

それから十年ほどの間、まったくと言って良いほど連絡は取り合わなかった。にもかかわらず、まるで示し合わせたみたいに、俺たちは互いに、同時期に軍を退役。そして、そのまま傭兵になった。


ウィル

何故か? 大した理由なんかない。ただ、自分の生きる道を探していたんだ。


ウィル

そして、きっとそれは、あいつも同じだったろう。なんとなく、そう感じていた。


ウィル

未だ冷戦の影響が色濃く残るバルカン半島。


ウィル

小国同士が始めた、小さな国境紛争。


ウィル

何の因果か、そこで俺たちは再び巡り合った。


サム

「よう、ウィル! ウィリアム・フェアフィールド! ひさしぶりじゃねぇか! こんな辺鄙な国でもう一度お前と顔合わすなんてなぁ。人生ってのはホント、わかんねぇもんだぜ」


サム

「ウォルトニア共和国空軍の外国人傭兵部隊、第七航空団、第三〇三さんまるさん戦闘飛行隊 《グリフォン》」


 

――次の『』内は好きな戦闘機名で、セリフも変えてしまって構いません。ウィルとサムで別々の機体にしてもOKです。演者間で相談してください。

サム

「配備されてる機体は、『小国がなけなしの防衛費で米軍から購入した、《F/A-18Cエフエーじゅうはちシー ホーネット》』」


サム

「……つっても、急ごしらえのちんけな部隊だ。所属は俺とお前だけ。ま、気楽にやろうや」


サム

「――ああ、ところでよ、ウィル。お前、当然覚えてるよな?」


ウィル

「あン? なんのことだ?」


サム

「ガキの頃、約束しただろうが。もう忘れちまったのか?」


ウィル

「……ガキの頃だからな」


サム

「ったく、しょうがねぇなぁ。一緒に空を飛ぼうって言ったのは、さすがに覚えてんだろ?」


ウィル

「まあ……なんとなくな」


サム

「そんでよ、こう誓い合ったろうが。俺たちで〝竜の巣〟を見つけようぜってな!」


ウィル

「……おいおい、勘弁してくれ。ドラゴンズネストなんざ、御伽噺だぞ」


サム

「シケたこと言うなって。いいか、ウィル。こういうのは浪漫が大事なんだ」


サム

「世界のどこかに現れる超巨大な積乱雲。その分厚い雲を抜けた先には、空に浮かぶ島がある」


サム

「そしてそこには、でっけぇドラゴンに守られたお宝が眠ってるってな」


ウィル

「はぁ……(呆れたように溜め息)」


サム

「俺たちがこうやって再会したのも、何かの運命だ。きっと何か楽しいことが起きる。そんな予兆じゃねぇか。なあ?」


ウィル

「ロマンチストかよ、くだらねぇ」


サム

「ロマンチスト、大いに結構! 俺たちは所詮、役者さ。舞台の上でしか生きていけねえんだ」


ウィル

「へえ……じゃあ、その舞台ってのはどこなんだ?」


サム

「決まってんだろ、あそこさ。空の上が、俺たちの舞台だ」


ウィル

「…………」


サム

「夢ってのはよ。一個叶っちまったら、また別のもんを探さなきゃいけねえ。人によっちゃ、一個叶えただけでもう生きる意味を失っちまう。別の目標を見つけるにも一苦労だ」


サム

「こうして、お前と空を飛ぶって夢は叶っちまったからな。だったら、それ以上のでっけぇ夢を追いかけなきゃ楽しくねぇだろ」


ウィル

「そうかい。お前のその馬鹿みてぇな夢なら、いつまでも追い続けられるだろうな」


サム

「おうよ。死ぬまで楽しめるぜ!」


ウィル

「(苦笑して)まったく、相変わらずだな、お前は。……何も変わってなくて安心したよ」


 

 * * * * *


ウィル

そして、現在。


ティナ

「――残存数ゼロ、敵部隊の殲滅を確認!」


サム

「よーし、一丁上がりだ! どうだい! 俺の活躍ちゃんと見てたか、ティナちゃん!」


ティナ

「《グリフォン2》、調子に乗らないでください」


サム

「へーいへい」


ティナ

「(こほんと咳払いして)周囲に新たな機影なし。作戦行動を終了します。お疲れ様でした。《グリフォン》各機、帰投してください。以上オーヴァー


ウィル

「了解、《エアリエル》。これより帰投する」


サム

「よっしゃあ、帰ったらぱーっとやろうぜ、相棒!」


ウィル

「フッ……ほどほどにしとけよ、相棒」


 

 * * * * *


ウィル

それから、二国間の紛争は一進一退の攻防が続き、俺たちも何度かにわたって出撃を繰り返し、その度に戦果を挙げていった。


ウィル

そして、ちょうど夏至の日に始まった紛争は、日に日に戦闘を激化させながら、ひと月が過ぎようとしていた。


ウィル

そんなある日。


 

――ウォルトニア軍基地施設の屋上にて


ティナ

「フェアフィールド中尉、ここにいらしたんですね」


ウィル

「どうした、オルドイーニ少尉」


ティナ

「ティナで良いですよ。今は作戦中じゃありません」


ウィル

「そうか。なら、俺のこともウィルで良い」


ティナ

「ウィル……あなたは、レノックス中尉――サムとは、長い付き合いなんですよね?」


ウィル

「……ああ。それこそ、幼稚園の頃からだ。あいつはアメリカで生まれたあと、親御さんの故郷のイギリスに越してきた。それから、高校卒業するまで、あいつとは散々バカやってきた」


ティナ

「良いですね、そういう関係。まるで兄弟みたい」


ウィル

「フッ……今、思い出してみても、くだらないことばかりさ」


ティナ

「高校卒業後は、彼はアメリカに?」


ウィル

「そうだ。出生地がアメリカだから、国籍を持ってたんだ。でもまさか、戦闘機乗りになってるとは思いもしなかったよ」


ティナ

「そして、あなたもイギリスでパイロットになった……それって、偶然だったんですか?」


ウィル

「どうだろうな。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」


ティナ

「では……あなたは、どうしてパイロットになろうと思ったんです? ……彼と、約束を?」


ウィル

「…………」


ティナ

「あ、すみません……答えたくなければ、良いんです」


ウィル

「……あいつのこと、気になるのか?」


ティナ

「へ? いえ、そんな……ッ!」


ウィル

「フッ……きれいだな、この国は」


ティナ

「あ……そ、そう、思いますか……?」


ウィル

「ああ。英軍にいたとき、世界中の空を飛んだが、こんなに空を飛ぶのが気持ち良いと感じたのは初めてだ」


ティナ

「何もない田舎だからですよ、きっと」


ウィル

「それでも、そんな何もない田舎を守りたいと思った。だから軍人になったんだろう、君は?」


ティナ

「どうですかね……いえ、それももちろんあると思います。だけど……」


ウィル

「だけど?」


ティナ

「時々、わからなくなります。私は何故、こうして生きているんだろうって。私の夢ってなんだったんだろうって」


ウィル

「……この国は、良い国だよ、ティナ。もっと自信を持って良い」


ティナ

「ウィル……」


ウィル

「なによりも、誇れるものがあるだろ」


ティナ

「……なんです?」


ウィル

「この国の飯はうまい。〝俺の国〟とは大違いだ」


ティナ

「……フフ」


 

 * * * * *


ウィル

そして、事態が動いたのは、その翌日のことだった。


ウィル

敵軍が、大規模な攻勢を仕掛けてきたのだ。


サム

「――ヒュウ(口笛)。あっちでもこっちでも派手にドンパチやってるぜ」


ウィル

「敵も本気を出してきたってことだ。まあ、逆に言えば、今さえ凌げば勝機はある」


サム

「ああ。けどよ、全エリアの戦力的には五分五分ってところだが、ここの空域は特にやべえぞ。まったく、鬼が出るか蛇が出るか……」


 

――次の英語部分は読まなくてもOKです。

ウィル

「To be or not to be, that is the Question.〝やるべきか、やらざるべきか。それが問題だ〟」


サム

「おいおい、それは俺が言うべきセリフじゃねえか、TACネーム的に」


ウィル

「こういうのは言ったもん勝ちだ、《ハムレット》」


サム

「ハハッ! 違ぇねえ。ま、やるもやらないもねえさな。ここで守り切らねぇと、制空権が敵さんに渡っちまうんだ」


ウィル

「ああ。もとより、俺たちの契約書には退却して良いとは書かれてない。やってやろうさ」


ティナ

「――レーダーが敵影を捕捉、数四機! この空域で活動している部隊は、一つしかありません。相手はトリシア軍の一、二を争うエース部隊です! 十分に警戒してください!」


ウィル

「了解、《エアリエル》。――覚悟決めろよ、《ハムレット》!」


サム

「おうよ、《マクベス》!」


ティナ

「敵部隊、急速接近! ――接敵エンゲージ!」


サム

「はッ、敵ながら良い連携だ。なかなか隙を見せやがらねぇ!」


ウィル

「焦るなよ。チャンスは一瞬だ」


サム

「わかってるが……畜生めっ、ホントに良い動きしやがるぜ!」


ウィル

「ああ。こいつら、他の奴らとはまったく違う。ガチの手練れだ」


サム

「――うお、くそ! 背中を取られた!」


ティナ

「警告! 警告ッ! 《グリフォン2》、ロックオンされています!」


サム

「チッ、言われなくたってわかってる! さっきから警告音アラートが鳴りっぱなしだ! こんだけ目覚まし鳴ってりゃあ、どんなお寝坊さんもすぐに飛び起きるだろうよ!」


ウィル

「フッ、軽口叩けるくらいなら、まだまだ余裕だな。――ケツは任せろ、《ハムレット》!」


 

――機銃を掃射し、サムを追う敵機を引きはがすウィル


サム

「サンキュー、相棒!」


 

――サム機は反転し、逆に敵機を照準に収める


サム

「今度はこっちの番だ! ――もらったぁッ! FOX2!」


 

――爆発音


ティナ

「――ミサイル、命中です! 敵機撃墜、残存数三!」


サム

「よし、このまま一気に行くぜ!」


ティナ

「《グリフォン2》! もう無茶するのはやめてくださいよ!」


サム

「心配すんなって、ティナ! ちゃちゃっと終わらせて帰ってやるさ! それよりも、あの約束忘れんなよ?」


ティナ

「も、もう、バカ……」


ウィル

「(呆れたように)《グリフォン1》より《グリフォン2》へ。奴らも必死だ。油断すんじゃねえぞ」


サム

「わーってるよ! そぉら、もう一機、ロックオンしたぞ!」


ウィル

「……ん? なんだ、あの敵の動き……」


サム

「仕留めるぜぇ! ――FOX2!」


 

――そこへ別の敵機が割り込み、盾になって撃破される


ウィル

「(呟くように)なっ……別の機体が、盾に……」


サム

「(動揺しながら)……僚機を、庇いやがっただと⁉」


ティナ

「《グリフォン2》、敵機撃墜! 残り二機です!」


サム

「ど、どういうことだ? ……嘘だろ……あいつ、なんで……」


ウィル

「まさか、大切な恋人でも庇ったとかじゃねぇだろうな」


サム

「恋人……? 大切な……?」


ウィル

「おい、何をボーっとしてんだ《ハムレット》! 生き残りの敵機が後ろに回り込むぞ!」


サム

「あ、ああ……! わかってる……!」


ウィル

「チッ、まずい……《ハムレット》、回避運動を取れ!」


サム

「くっ……クソっ!」


ティナ

「気を付けてください、《グリフォン2》! ミサイルが来ます! 回避を!」


サム

「だめだッ……間に合わねえッ」


ウィル

「――《ハムレット》ッ!」


サム

「ああ、すまん、ウィル……約束、守れ――――」


 

 ――爆発音
 ――途切れた無線からノイズが響く


ウィル

「なッ……サムッ! おい、サムッ! ベイルアウトはどうした⁉ 脱出できたんだろう⁉ なあッ!」


 

――息をのむティナ

ティナ

「そ、そんな……」


ウィル

「応答しろよ! なあ、サム! サムッ! ……この馬鹿野郎ッ!」


ティナ

「うっ……ぐ、《グリフォン2》の反応、途絶えました……」


 

――呆然とするウィル

ウィル

「…………」


ティナ

「あっ、……《グリフォン1》、高度が極端に落ちています……! どうしたんですか、《マクベス》! 応答してください!」


ウィル

「(焦燥感にかられるように静かに息を荒らげる)ハァ……ハァ……ハァ……」


ティナ

「《グリフォン1》! ……《グリフォン1》、応答を! お願いです、気をしっかりしてください! ――ウィルッ!」


ウィル

「(さらに息を荒らげて)ハァッ、ハァッ……!」


ティナ

「わ……私はこれまで、何度も何度も、仲間のパイロットたちが散って行くのを見てきました。いえ、見届けることしかできなかった……そんなのはもう、嫌なんですッ」


ティナ

「でも、彼は約束してくれました。『俺とあいつなら、大丈夫だ。絶対に生きて、この戦いに勝ってやる』って。だから、お願いです。あなたは生きて! 生きてあの人の約束に、応えてあげてください……!」


ティナ

「――ウィル!」


ウィル

「……ったく、本当に――勝手なんだよ、あいつは――」


 

 * * * * *


サム

「――生きる意味を見つけた」


ウィル

「……はあ?」


サム

「だからよ、生きる意味を見つけたって言ったんだ」


ウィル

「どういうことだそれ」


サム

「この紛争が終わったら、俺はパイロットを辞める」


ウィル

「……ッ!」


サム

「それでよ、もっとこう、なんつーか……地に足を付けて生きたいと思ったつーか、なんつーかさ。その、大切なモノのためによ……」


ウィル

「勝手なんだよ……」


サム

「……おい、ウィル?」


ウィル

「――勝手すぎんだよ、テメェはッ!(サムを殴り飛ばす)」


サム

「ぐおッ……」


ウィル

「ガキの頃の約束だぁ? 〝竜の巣〟を探すだぁ? ――ああ、覚えてたよ! しっかりとな! だから俺は、英軍でパイロットになった!」


サム

「…………」


ウィル

「一緒に空を飛ぼうだとかなんとか最初に言いだしたのはテメェだろう! なのにテメェは、勝手にアメリカ行って、そっちでパイロットなって! 演習で被りもしなきゃ一緒に飛べるわきゃねえだろ!」


ウィル

「こうやって再会したのも奇跡的な偶然なんだぞ! それでようやく一緒に飛べたかと思えば、今度はなんだ? パイロットを辞める? 俺をコケにするのもいい加減にしろ!」


サム

「へ、へへ……っ」


ウィル

「どうした、サム! 立てよ! 殴り返してこいよ!」


サム

「……すまねぇな、ウィル。確かにお前の言う通りだ。俺は、お前にどれだけ殴られても文句は言えねえ……」


ウィル

「…………」


サム

「でもよ、これだけは信じてくれ。俺は、お前をコケにしようとしたことなんか、一度もねえ。俺は、俺なりに、お前と一緒に飛ぶ方法をずっと考えてた」


サム

「こうやってその機会がきたのも、確かに偶然かもしれねえが……でも、嬉しかったんだよ。本気で。心の底からな」


ウィル

「サム……」


サム

「なあ、もし俺に万が一のことがあったら……代わりにお前が〝竜の巣〟を探してくれねぇか?」


ウィル

「何を縁起でもねぇこと――」


サム

「(ウィルの言葉を遮るように)頼むぜ、ウィル。ウィリアム・フェアフィールド。前は俺の、最高のマブダチだ」


ウィル

「お前……お前ってやつは……どんだけ、勝手なんだよ……」


 

 * * * * *


ウィル

「――《エアリエル》……いや、ティナ」


ティナ

「あっ、ウィル! 大丈夫ですか⁉」


ウィル

「……あいつと、婚約してたんだろ」


ティナ

「な、なぜそれを……」


ウィル

「あの野郎のことは大体わかる。ガキの頃からの付き合いだからな。大方、この戦いが終わったら、式を上げようなんざ考えてたんだろ。俺には内緒で、サプライズでってな」


ティナ

「(声を震わせながら)あ、うぅ……」


ウィル

「ったく、戦争映画のお約束じゃあるまいし、ほんと大馬鹿野郎だよ、あいつは。いつもいつも、勝手に約束だのなんだのぬかしやがって、気づいたらふらっとどっかに消えちまう。本当にムカつく野郎さ」


ティナ

「…………(涙を必死に堪えるように、歯を食いしばりながら嗚咽する)」


ウィル

「だが……ああ、わかってる、ティナ。俺は生きてやるよ。生きて、あいつの給料分も働いてやる」


ティナ

「ウィル……!」


ウィル

「それに、俺もあいつと約束してたんだ。なんとしてでもそいつを、約束を果たさなきゃならねえ。だから、まずはこいつらを片付ける――覚悟しろよ、クソ野郎どもッ!」


 

 * * * * *


ウィル

そのあとのことは、よく覚えてない。


ウィル

こうして俺が生きてるということは、おそらく戦闘には勝ったんだろう。


ウィル

あの戦いから間もなく、即時停戦を求める国際世論に圧された結果、紛争はあっけなく終結した。結果は現状維持の停戦合意。ただただ、無駄に血が流れただけの、誰も得しない痛み分けだった。


ティナ

しばらくしてティナも軍を辞め、今は田舎に帰ってのんびりと暮らしているそうだ。その腹ん中に、あいつとの子どもを宿しながら。


ティナ

「――親愛なるウィル。お元気ですか? 早いもので、私が軍を辞めてから半年が過ぎました。お腹もだいぶ大きくなって、もうすぐ臨月に入ります」


ティナ

「エコーで調べてもらったところ、赤ちゃんは男の子でした。なので名前は、サミュエル・ジュニアと名付けようと思っています。生まれたら、また写真送りますね」


ティナ

「ああ、そうだ。それと今度、こちらの方に来る機会があったら、ぜひウチに寄ってください。ウォルトニアの美味しい田舎料理、ごちそうしますから――」


ウィル

そして、終戦とともにお役御免となった俺はといえば、その後アメリカに渡り、民間の小さな航空会社に就職し、これまた小さな旅客機のパイロットをやっている。


ウィル

〝竜の巣〟を探すなんてうそぶいて、俺に厄介ごとを押し付けながら、あっさりとくたばりやがった、自分勝手な友人とかわした約束。


ウィル

その、決して成就することのない約束を果たさんがため、決して見つかるはずのないものを探しながら、俺は相も変わらず、空を飛び続けている。


ウィル

こんな人生に、何の意味があるのかはわからない。


ウィル

人は、生きる意味を見つけるために生きるのだとしたら、実に不毛な話だと思う。


ウィル

けれど、それでもまあ、いいさ。人生ってのはそんなもんだ。


ウィル

あいつの言葉を借りるなら、俺たちは舞台の上でしか生きていけない。


ウィル

ならば、飛び続けてやろう。探し続けてやろう。


ウィル

いつか舞台から降りる、その日まで。


サム

――シェイクスピアに曰く。


サム

――人生は歩く影、哀れなる役者。


サム

――舞台の上で大見得切っても、出番が終ればサヨナラだ。


 

〈Fin〉

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