零点の魔法使い

ファンタジー
ファンタジー

国内随一の名門魔法学校、東極一系魔法学校。
そこに通う主人公アレインは、しかし、魔法を使えば暴発ばかりの劣等生である。
同級生から揶揄を受ける日々の中、突然彼女のもとにスナークと名乗る謎の存在が現れる。
スナークは、アレインを従属させる代わりに、彼女の力をコントロールすると約束する。
アレインとスナーク。一人と一匹?タッグの最初の相手は、校内一の実力者、一葉峰緑子だった。
勝負の行方は、果たしてーーー。

シナリオご利用上の注意

①本シナリオは営利・非営利問わず、どなた様の上演も歓迎いたします。 上演の際に、作者に連絡や許諾の申請は不要です。 また、上演するプラットフォーム上でのクレジット表記等も不要です。

②本シナリオは皆様のアドリブや効果演出を歓迎いたします。 ただし、以下の点にはくれぐれもご注意をお願いいたします。
・大きくシナリオの内容を改変するアドリブはお控えください。
・本シナリオはシリーズ展開のため、他エピソードの内容を多分に含んだアドリブはお控えください。(ネタバレになるため)
・上記を逸脱しない限り、アドリブやキャストの選択は自由におまかせいたします。

作品概要

タイトル

零点の魔法使い

作者

赤羽

ジャンル

ファンタジー/魔法学園もの

上演時間

約30~40分

男女比

男3:女2

登場人物

アレイン・レドリフ

女性

16歳 小柄で気弱な女の子。東極一系魔法学校の劣等生で、周りから馬鹿にされている。魔法は暴発してばかりだが、めげない努力家。幼少の頃に生き別れた両親と再会するのが夢。


スナーク
無性別

年齢無 アレインが呼び出した謎の存在。アレインの魔力を食べる代わりに、彼女の力をコントロールする。逆さまにした鏡餅のような姿で、体色は薄紫。いつもふよふよ浮かんでいる。


一葉峰 緑子
(かずはみね みどりこ)
女性

16歳 金持ちの令嬢であり、東極一系魔法学校一の実力者。そこそこ美人。令嬢らしい上品な振る舞いや口調だが、その性格は傲慢。


田乃石 仁一
(たのいし かずひと)
男性

16歳 一葉峰緑子の取り巻き。ストーカー気質あり。魔法の成績は中の下。一葉峰にあまり構ってもらえないのが、最近の悩み。高身長で容姿は良いが、普段の素行のせいでモテない。


宮部 太一
(みやべ たいち)
男性

30歳 東極一系魔法学校の教師で、アレインのクラスの担任。器用な魔法使いで、一人で魔法基礎のすべてを教えられる。それなりに優秀な教師だが、自分以上の実力である一葉峰には頭が上がらない。高身長で眼鏡をかけた生真面目そうな顔つき。気苦労が多く、白髪がちらほら。

シナリオ

アレイン

(N)声が聞こえる。私を呼ぶ、優しい声。遠い記憶の中にある、懐かしい名前。 《レイ》。私をそう呼ぶ声は、いったい誰のものだろう

宮部

アレイン! 起きなさい。授業中に熟睡するとは、何事ですか!

アレイン

ふえ・・・授業? あ、ごめんなさい!

緑子

全く。落ちこぼれの分際で、よくだらけていられますわね。毎度のことながら、あなたの能天気にはうんざりさせられますわ

田乃石

緑子様の言う通りです。アレインのドン臭さといったら、もう。それに比べて、緑子様は今日もお美しい! さすが校内最強の魔法使い。ああ、こうしてお側にいるだけで、心がズッキュンいたします!

緑子

それはどうも。それじゃ、黙って、田乃石

田乃石

んぐぐ!

宮部

一葉峰さん。クラスメイトに対して、むやみに《口封じ》を使ってはいけません! 授業中だというのに、みんな騒ぎ過ぎです。私の授業は、そんなに退屈ですか?

緑子

あら。今さらお気づきですの? 宮部先生の授業は、とっても退屈ですわ。ワタクシが、先生から教わることは、もう一つもありませんもの

宮部

うっ。確かに、あなたはすでに、私よりも優秀な魔法使いですが・・・。はあ、もういいです。アレイン、熟睡の罰として、魔法を一つ、みんなの前で実演してください

アレイン

はい! 昨日教わった《灯火とうか》をやってみます

田乃石

緑子様、今のうちにアレインから離れた方がいいですよ。どうせ、またやらかしますから

緑子

いいえ。ワタクシは、ここで見ているわ

アレイン

行きます! 《火よ、ともれ!》 あれ? これで合ってるはずなのに。えい、やあ、とう! (爆発する) きゃああああ!

田乃石

ほら、やると思ったぜ!

宮部

ああ、教室が・・・。アレイン、今度はもう少しホコリの立たない魔法をお願いしますね・・・

アレイン

ふぁ、ふぁい・・・。けほっ

緑子

ただの間抜けな失敗のはず・・・。 でも、アレインの魔法には、何か・・・

(放課後、アレインの帰路)

アレイン

はあ、また失敗しちゃったな。お父さんとお母さんと生き別れてから、一生懸命魔法を勉強して、なんとか東極とうきょく一系いっけいに入学したけど、私にはこんな名門魔法学校で通用する才能なんてないのかな。いや、いつかお父さんとお母さんに再会したとき、強くなった自分を見てもらうんだ。こんなことで、くじけていられないわ。早く寮に帰って、魔法の特訓をしなくちゃ!

(翌日、アレイン登校中)

アレイン

ふわあ。結局、夜通し特訓したけど、イマイチ成果はなかったな。おかげで、今日も寝不足ね。授業中眠らないように、気をつけなくちゃ・・・

スナーク

見つけたぞ、我を呼び起こせし人間よ

アレイン

なに、この変な声? 誰⁉

スナーク

我に仕えよ、人間。さすれば、我が大いなる加護を与えてやるぞ

アレイン

誰もいない? もしかして、お化け? うう、怖いよう・・・わっ、眩しい!

スナーク

怯えるな。今、汝の眼前がんぜんに我が姿を現してやる。さあ、とくと見よ! 汝が付き従う主君の、厳粛げんしゅくで尊き有様ありさまを!

(スナーク、アレインの前に出現)

アレイン

うわあ! ・・・って、あれ?

スナーク

ふふふ。我が怖いか、人間。無理もない。人間如き矮小わいしょうな存在には、我の姿はいと恐ろしく・・・

アレイン

可愛い

スナーク

なに?

アレイン

うん、可愛いよ! 小さくて、ふよふよぽわんって感じ! 色は少しケバイけど、総合的にはナイスマスコット!

スナーク

ふん。予期していた反応とは異なるが、悪い評ではないようだな

アレイン

ねえ、あなたは何者なの?

スナーク

我は汝の主だ

アレイン

いや、ちょっと、意味が分からないのだけど

スナーク

やかましい。第一、我をこの世界に呼び寄せたのは、汝ではないか。汝が我に捧げてきた力、その極上の味わいを、我は忘れておらぬぞ

アレイン

私、あなたに力を捧げた覚えなんてないけど?

スナーク

くどいぞ。とにかく、汝は今より我の従僕じゅうぼくだ。逆らわば、消すぞ

アレイン

ひい! 分かりました! これよりあなた様にお仕え申し上げます!

スナーク

よし。では、我が従僕となった汝への褒美に、我が加護を与えよう

アレイン

あ、ありがとうございます。ところで、あなたの加護ってどういうものなの?

スナーク

我が力が、汝を害するのを防ぐ加護だ

アレイン

・・・それだけ?

スナーク

そうだ

アレイン

えー、しょぼい! ご褒美っていうから、期待したのに!

スナーク

立場をわきまえろ。我は汝の主だぞ!

アレイン

主って言うわりには、ずいぶんけち臭いんだ。ご褒美なら、もっと役に立つのが欲しいなー

スナーク

ちっ。存外欲深い人間だな。よろしい、汝に対する褒美は別に考えておこう

アレイン

やったー! 意外と話が分かるのね。それで、私は何をすればいいの?

スナーク

これまで通り、我に力を捧げるのだ

アレイン

力って、魔力のこと? 捧げると言っても、どうやって?

スナーク

知らん。汝がいつもやってきたことだろう

アレイン

私にはそれが、何のことやら・・・

スナーク

とにかく、主となった以上、我はいかなる時も汝の側に鎮座ちんざするから、そのつもりでいろ

アレイン

それって、なんか友達みたいだね。えへへ。そう思うと、悪くないかも

スナーク

我は汝の友達ではない。主だ

アレイン

おんなじようなものでしょ? ねえ、あなた名前はなんていうの?

スナーク

我の名か? 我はブー・・・いや、スナークだ

アレイン

スナーク、ね。私はアレイン・レドリフよ。アレインって呼んでね。ねえ、スナークもそんな難しい喋り方はやめて、もっとフレンドリーにいこうよ!

スナーク

我としては、この方が威厳を保てて良いのだが・・・んんっ(咳払い)。ま、いっか。オッケー。こんな感じ?

アレイン

うんうん! これからよろしくね、スナーク!

スナーク

ああ、よろしくな

緑子

お一人でずいぶん楽しそうじゃない、落ちこぼれさん

アレイン

あ、一葉峰さん

田乃石

緑子様! さっきから私もお側にいるのに、なぜ私より先にアレインに挨拶を⁉ この私にも、緑子様のお言葉をたまわりたく存じます!

緑子

黙って、田乃石

田乃石

ああ、辛辣しんらつ! でも、それが良い!

スナーク

なんだ、このムカつく生命体どもは

アレイン

同じクラスの一葉峰緑子さんと、田乃石仁一くん。一葉峰さんは学校一の魔法使いで、すごく優秀なんだよ。あ、田乃石くんはその大ファンね

田乃石

おい、アレイン! お前も俺を差し置いてぶつぶつ独り言を言うな!

アレイン

ごめんね、田乃石くん。私、独り言じゃなくて、友達と話してたんだ。二人にも紹介するね。こちら、私の友達のスナーク

スナーク

あ、おい

田乃石

友達? スナーク? 誰もいねーけど? 友達が出来なさ過ぎて、とうとうイカレたか?

アレイン

え?

緑子

ワタクシは、いいと思いますわよ。イマジナリーフレンドというものよね? 現実でお友達が作れないあなたには、お似合いですわ

アレイン

うう、スナーク・・・どういうこと?

スナーク

言い忘れてたが、俺は存在のくらいが高すぎて、お前以外の人間には認知されないんだ。見えず、聞こえず、触れられないって状態なわけ

アレイン

そんなぁ

緑子

朝から面白いものが見られたわ。じゃあまた教室でね、アレイン。うふふ

田乃石

待って、緑子様! 田乃石を置いていかないで!

スナーク

なんか、強烈な連中だな

アレイン

大丈夫、すぐ慣れるから

(チャイム鳴る。アレインのクラスにて)

宮部

今日は授業の前に、来週行われる模擬戦闘訓練の対戦者を選出したいと思います。  いつも通りくじ引きで決めますから、順番にくじを引いてください

アレイン

模擬戦闘訓練・・・もうそんな時期なのね

スナーク

なんだ、それ?

アレイン

二か月に一回、クラスの中から二人選んで、一対一の魔法戦闘をやるの。対戦者はくじ引きで決めるから、私が選ばれる可能性もあるんだよ。うう、当たったら嫌だなあ

スナーク

なに怯えてんだ。お前は俺を呼び起こすほどの力を持っている。その力をうまく使えさえすれば、誰が相手でも楽勝だ

アレイン

そんなわけない。私、落ちこぼれだもん

宮部

では、次にアレイン。くじを引いてください

アレイン

外れますように、外れますように・・・

田乃石

ふん。アレインの奴、いつも俺より緑子様にかまわれやがって。緑子様の一番のファンは、この俺なのに! たまには痛い目見せないとな・・・

アレイン

これかな、やっぱりこっち・・・お願い、外れて!

宮部

おや? 当たりですね。一人目はアレインに決定です

スナーク

お。やったな、アレイン!

アレイン

嘘だあ!

宮部

次は、一葉峰さん、引いてください

緑子

はい・・・あら?

宮部

こ、これは、また当たりだ。ということは、今回の模擬戦は、アレイン対一葉峰さんですね

アレイン

もっと嘘だあ!

田乃石

ざまあみろ、アレイン

緑子

田乃石のやつ、魔法でくじを操作したわね。余計なことしかしない男だわ・・・。宮部先生、ワタクシ、この結果には納得いたしかねます

宮部

え、なぜですか?

緑子

ワタクシとアレインでは、実力に差がありすぎます。これでは、お互いの魔法技術向上という模擬戦の目的が達成されませんわ

宮部

確かにそうかもしれませんが・・・

田乃石

緑子様! 遠慮されることはありません! 緑子様が模擬戦に出るなら、きっと全校生徒が見学に来ます。アレインには、せいぜい都合の良い当て馬になってもらいましょう!

緑子

田乃石、そんなことが望みでいたずらを? あとできつくお灸を据えますからね

田乃石

やべ。くじを操作したの、バレてる。でも、緑子様からお灸をいただけるなんて、田乃石、幸せ~!

スナーク

なんだ、あの小娘。やけにお前との戦いを避けるじゃないか

アレイン

当たり前だよ。相手が私じゃ、弱すぎるもん

スナーク

いいや。あの小娘より、お前の方が遥かに強い

アレイン

そんなわけ・・・

宮部

アレイン、どうしますか? あなたも一葉峰さんに賛成なら、今回は特別にくじ引きをやりなおしますが

アレイン

え、私は・・・

緑子

聞くまでもないわ。アレインは私に勝てない。それは、落ちこぼれのアレイン自身が一番よく分かっていますもの

スナーク

アレイン。もう一度言うぞ。お前は、強い

アレイン

私・・・やります! 一葉峰さんと戦います!

緑子

なんですって⁉

スナーク

よく言った、アレイン!

緑子

アレイン、あなた、自分が何を言っているか分かっているの? 相手は、このワタクシなのよ? 東極一系歴代最優秀成績者の、一葉峰緑子なのよ!

アレイン

分かってる。でも、ここで逃げたら一生落ちこぼれのままだもん。たとえ勝てなくても、自分がどこまで頑張れるか、確かめたいの!

宮部

とてもいい心がけですね、アレイン。では、今回の模擬戦はアレインと一葉峰さんの対戦で決まりです

緑子

アレイン・・・。いいわ。調子に乗ったその心意気、地獄の底まで叩き落としてあげる。大勢の前で赤っ恥をかくといいわ!

田乃石

ああ、怒った緑子様も素敵だ。これでアレインも、緑子様に近寄れなくなるだろうぜ

(休み時間、空き教室でスナークとアレイン二人きり)

アレイン

どうしよう! 勢いでとんでもないこと言っちゃった! スナークのせいだよ。私が一葉峰さんより強いなんて、変なお世辞言うから

スナーク

世辞じゃねえよ。お前は、あの小娘を凌駕りょうがする力を持っている。それは紛れもない事実だ

アレイン

またそんなこと言って。一葉峰さんは、先生たちより強いんだよ? それに、私は魔法が上手く使えないし

スナーク

今から鍛えれば、なんとかなるだろう

アレイン

それで解決なら、とっくに私は成績優秀者だよ

スナーク

得意技とか必殺技とか、そういう奥の手はないのか?

アレイン

ない! あ、でも、強いて言えば防御系魔法かな。8種類くらい使えるよ。これだけは、クラスの中でも多い方なんだ

スナーク

ふーん。その防御系魔法ってやつ、見せてみろよ

アレイン

え、いいけど・・・じゃあ、基本的な《防壁ぼうへき》をやるね。 ごほん。《壁よ、外敵がいてきを防げ》!

スナーク

うおお! う、美味い!

アレイン

びっくりした! 何⁉

スナーク

今、お前の魔法を通して、俺に力が流れ込んで来た! 美味かった! やっぱり、お前の力の味は、最高だ

アレイン

どういうこと? 私、いつも通りに魔法を使っただけなのに

スナーク

なるほどな。お前は今まで魔法を使うたび、無自覚に力の一部を俺に捧げていたらしい。なぜそうなったのかは知らんが、これは使えそうだ。お前の魔法と俺がつながっているなら、暴走しがちなお前の力を、俺が調整してやることができる。よし、お前に対する褒美が決まった。これからは俺が力を制御し、お前を最強の魔法使いにしてやる!

アレイン

最強の魔法使い? 本当に、なれるの? 落ちこぼれの、私が?

スナーク

お前はもう、落ちこぼれじゃない。まずはその証として、あのムカつく小娘を打ち倒してやろうぜ!

アレイン

スナーク、ありがとう! 私、がんばるよ!

(一週間後、模擬戦闘訓練当日。学校内の第二闘技場にて)

宮部

レディース、エンド、ジェントルメン! これより、東極一系魔法学校第一年次の模擬戦闘訓練を行います! ここ第二闘技場には、今回の模擬戦を観戦しようと、全校生徒が詰めかけております! 司会進行および実況解説および審判を務めますのは、皆さんおなじみの魔法教員、宮部太一です! さあ、まずは選手の紹介だ! 全校生徒も大注目の実力者、東極一系歴代最強の魔法使い、一葉峰緑子ぉ!

田乃石

緑子様あああああ! 素敵ですう!

スナーク

なんか、異様な雰囲気だな

アレイン

一葉峰さんの魔法戦闘なんて、滅多に見られないからね。そりゃあ、お祭り騒ぎにもなるよ

スナーク

雰囲気に飲まれるなよ。この一週間、俺とお前は力の制御を徹底的に鍛えたし、作戦も練ってきた。自信を持っていけ

アレイン

うん、分かってるよ、スナーク

宮部

続いて登場するのは、魔法は苦手だが、努力の量は人一倍! アレイン・レドリフ!

田乃石

せいぜい緑子様の引き立て役になるんだな、アレイン

アレイン

よし、行こう!

宮部

さあ、両者ステージ上に出そろったところで、試合のルールを説明します。対戦者は私の合図で試合を始めます。試合中は禁忌の魔法以外、あらゆる魔法を使用可能です。先に相手に敗北を宣言させれば勝利となります。それから、私が危険と判断した行為は中止の指示を出しますから、必ず従ってくださいね。ルールは以上です。二人とも、よろしいですか?

アレイン

はい

緑子

問題ありませんわ

宮部

それでは、試合前の握手をお願いします!

緑子

アレイン、最後のチャンスよ。今すぐ敗北を宣言すれば、大勢の前で恥をかくことも、ケガをすることもない。この一週間、あなたがどう過ごして来たかは知らないけど、どうせワタクシには勝てない。今ここで、負けを認めなさい!

アレイン

一葉峰さん。今日は、いい勝負をしようね

緑子

・・・叩き潰してあげる

宮部

両者、開始地点まで下がってください。準備はいいですか? ・・・試合開始!

スナーク

作戦通りいくぞ、アレイン!

アレイン

うん! 《壁よ、外敵を防げ》!

緑子

そんな防壁、消し飛ばしてあげる。《怒涛どとう神風しんぷう》、《光槍こうそう五月雨さみだれ》!

アレイン

うわあ!

宮部

一葉峰選手、いきなり大技だ! 凄まじい威力の魔法が、アレイン選手に襲い掛かる! さっそく勝負ありか⁉

田乃石

緑子様、かっこいい!

アレイン

はあ、はあ。死ぬかと思った・・・

スナーク

なんとか、凌いだな

宮部

こ、これは意外! アレイン選手の《防壁》が、一葉峰選手の魔法を防いだ! あれだけの攻撃を耐えきるとは、アレイン選手も成長しているようで、先生、嬉しいです!

田乃石

ええ! これには、田乃石もびっくり!

アレイン

本当に、一葉峰さんの攻撃を防げるなんて

スナーク

言ったはずだ。力の強さなら、お前に分がある。俺が力を制御してやるから、存分に行け!

アレイン

う、うん

緑子

今の攻撃を防ぐとは、生意気ね。だったら・・・《波よ、巍巍岩塊ぎぎがんかいはいせ》!

宮部

防御系魔法のほとんどを砕く、波状魔法だ! 私にもできない高度な魔法です! アレイン選手に、これを防ぐ手立てはあるのか!

スナーク

気をつけろ! あれは《防壁》じゃ防げん!

アレイン

波状魔法なら、こっち! 《山風やまかぜよ、歩みをはばめ》!

宮部

おお。アレイン選手、お見事! 波状魔法を防御する手段を、ちゃんと勉強していたんですね。風の力を使って、一葉峰選手の魔法を食い止めました!

アレイン

やった、攻撃が止まったよ!

スナーク

アレイン、後ろだ!

緑子

つるぎよ、大敵たいてきつらぬけ》!

アレイン

え? うわ! か、《鏡返し》!

緑子

嘘、これも防がれた? 死角からの攻撃だったのに!

宮部

な、何が起こっているんだ⁉ いつの間にか一葉峰選手がアレイン選手の背後に回り込んで、えーと、アレイン選手はそれに気づいて・・・もう、分かりません! 私、教師としての自信を失いそうです!

田乃石

どうなってんだ! 緑子様とアレインが互角の勝負なんて!

スナーク

危ない、危ない。よく反応したな、アレイン。しかし、あの小娘。お前を下に見ていたくせに、ずいぶん本気で来るじゃねーか

アレイン

はあ。はあ

スナーク

苦しいだろうが、まだへばるなよ。小娘の力が空っぽになるまで耐えて、無防備になったところを仕留めるのが、俺たちの作戦だからな!

緑子

アレインの防御が、思ったより堅い。このままじゃ、先にワタクシの魔力が尽きる・・・。 ワタクシの、負け? 嫌よ! ワタクシは、校内最強の魔法使い、一葉峰緑子なのよ! たとえ道を外しても、まだアレインに負けるわけには行きませんわ!

スナーク

おい、小娘・・・お前、何をするつもりだ・・・?

宮部

一葉峰選手が、再び攻撃の準備をしています・・・こ、これは、なんという魔力だ・・・危険すぎる! 一葉峰選手、その魔法を使ってはいけません! 一葉峰選手、聞こえますか⁉

田乃石

緑子様が、焦っておられる! 俺が止めなくては!

宮部

田乃石くん、今ステージに上がっては危険です! 戻って!

田乃石

緑子様、それはやりすぎです! アレインが、いや、学校すら吹き飛んでしまう! 私は、あなたに殺人者になって欲しくありません! どうか、この田乃石に免じて、その魔法を使うのはお止め下さい!

緑子

もう遅いわ、田乃石。ごめんね・・・《法典ほうてんよ、蛮勇ばんゆうを砕き、塵芥じんかいけ》!

田乃石

緑子様あああ!

宮部

田乃石くん、アレイン、下がって! ここは、私が食い止めます! 《城よ、門扉もんぴを閉ざし、民を守れ》!

緑子

邪魔よ、宮部!

宮部

宮部先生です、一葉峰さん。教師を甘く見ては、いけませんよ

緑子

いいわ! だったら、あなたも一緒に吹き飛びなさい!

宮部

うう。なんて魔力だ・・・。 私の全力でも、防ぎきれないとは・・・

アレイン

宮部先生、私も手伝います! 《壁よ、外敵を防げ》!

宮部

ア、アレイン・・・危険です・・・あなたは、逃げて・・・

スナーク

そいつの言うとおりだ、アレイン! あれは、やばい!

アレイン

逃げないよ! 最強の魔法使いは、こういう時こそ、立ち向かうんだから!

宮部

アレイン・・・成長、しましたね・・・先生、嬉しい、です

緑子

二人がかりなら止められると? ワタクシも、舐められたものねえ!

宮部

ぐはっ! まだ私は、生徒を守れていない、のに・・・

アレイン

み、宮部先生!

緑子

邪魔者は倒れたわ。あなたも楽になりなさい、アレイン!

アレイン

う、うう。魔力が、もう残ってない・・・はあ、はあ。防壁が、割れる・・・でも、このままじゃ、学校が、みんなが・・・ぜえ、ぜえ・・・ああ、もう、ダメ。やっぱり、私、最強の魔法使いには、なれないわ・・・ごめんね、お父さん、お母さん・・・そして、スナーク・・・

スナーク

アレイン! くそ、こいつ、意識が・・・

緑子

ワタクシ相手に、よくここまで粘りましたわ。でも、これで終わりよ、アレイン!

アレイン

・・・誰、私を呼ぶのは? 優しい声・・・ああ、懐かしいね、その名前・・・私の、名前・・・

スナーク

なんだ⁉ 急にアレインの力が、増大した・・・。 おい、なんだ、この力。いつもの力とは異質すぎる。しかも、俺の制御が全く利かねえ! どうなってんだ⁉

アレイン

思い出した。私の名前、私の力・・・

スナーク

アレイン、お前、意識が戻ったのか? いや、待て。 ・・・お前、本当にアレインか?

アレイン

アレイン・・・? 私は、《レイ》よ

緑子

う、そ・・・ワタクシの魔法が、跳ね返されて・・・きゃああああ!

(SE:爆発 しばらく、沈黙)

宮部

・・・い、今の爆発は一体・・・しかし、学校は無事のようですね・・・。はっ! 二人は、無事ですか⁉ アレイン! 一葉峰さん! 先生の声が、聞こえますか⁉

スナーク

アレイン! おい、アレイン!

アレイン

すう、すう

スナーク

力を使い果たして、寝ちまったか。明らかに様子が変だったが、ひとまず身体は大丈夫そうだな。しかし、あの魔法を防ぐどころか、跳ね返すとは。あの異質な力は、何だったんだ? まともに喰らったあの小娘も、さすがに生きちゃいないだろうな

田乃石

緑子様! 返事をしてください! 緑子様あああ!

緑子

ぜえ、ぜえ。黙って、田乃石

田乃石

み、緑子様!

スナーク

生きてやがった・・・まじかよ

宮部

ふ、二人とも、無事でしたか! 良かった、本当に良かった!

緑子

試合は、先に負けを認めさせた方の勝ち・・・そうでしたよね、宮部先生?

スナーク

なに⁉

宮部

一葉峰さん、試合はとっくに中止です! もう、これ以上は・・・

緑子

ワタクシは! ・・・アレイン、ワタクシは・・・負け、ましたわ・・・

宮部

・・・一葉峰さん、今、なんと?

緑子

聞こえたはずよ。二度は言いません

宮部

あ・・・。し、試合終了! 一葉峰選手の敗北宣言により、勝者、アレイン・レドリフ選手! とんでもない試合でしたが、なにはともあれ、その激闘を制したのは、アレイン・レドリフです! おめでとう、アレイン!

スナーク

いよっしゃあ!

田乃石

緑子様、申し訳ございません。全ては私の責任です。私があの時、ちゃんと貴方様をお止めできていれば! この田乃石、もう貴方様のお側にいる資格はございません・・・

緑子

田乃石。いつまで頭を下げているつもり? ワタクシ、疲れたから、帰るわ。もたもたしないで、一緒に来なさい。ワタクシのファンなら、当然でしょう?

田乃石

緑子様・・・! はい! この田乃石、どこまでも緑子様のお側に!

スナーク

ははは。色々あったが、とにかく勝ったぞ、アレイン! といっても、眠ったままで、聞こえちゃいねーか。幸せそうな顔しやがって。一体、どんな夢を見てるんだか・・・

アレイン

ふへへ。紹介するね、こちら、友達のスナーク・・・。 むにゃむにゃ

アレイン

(N)夢の中で、声が聞こえた。私を呼ぶ、変な声。さっきまで、落ちこぼれだった、私の名前。 《アレイン》。私をそう呼ぶ声は、私の主で、友達で、そんな不思議な声だった

end

作者プロフィール
akabane

北海道出身 26歳(2024年調べ) 男性

文章を書くこと、ボードゲームを作ることが趣味。
こえコン!にて、声劇シナリオを書く。
・好きな言葉は、おはようございます。
・嫌いな言葉は、おはようございました。
上記二点、嘘であり、かつフィクションでもある。

赤羽:以上を持ちまして、プロフィール情報と代えさせていただきます。
ピアノ:Ⅰ-Ⅴ-Ⅰ。
赤羽N:僕が一礼を済ませて降壇すると、待ち構えていた左ストレートが僕の右耳下部を97km/hで通過した。
左ストレート:油断大敵だよ、坊ちゃん。
赤羽:左ストレートがしゃべった…?
左ストレート:いや、ピアノもしゃべってましたやん。
完:完

akabaneをフォローする
シェアする
タイトルとURLをコピーしました