ビター×スイート【Ver.Riku】

ラブストーリー
ラブストーリー

 小悪魔的なお姉さんに誑かされる純情な男の子のお話です(言い方)。

はじめにお読みください

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作品概要

タイトル

ビター×スイート


作者

島嶋徹虎


ジャンル

ラブストーリー


上演時間

約20分


男女比

男1:女1

登場人物

リク

【♂】高校生。年上のウミに恋心を抱いている。


ウミ

【♀】社会人。リクの近所に住むお姉さん。婚約者がいる。

シナリオ

(※各節の副題は読んでも読まなくても大丈夫です。また、もしお読みになる場合はどちらが読んでも構いません。相談して決めてください。ちなみに、「×」の読み方も特に決めてませんので、ご自由にお読みください)


リク

あの頃、僕は、恋をしていた。


リク

十歳も年の離れた、あの人に。


 

 
 第一節『時間×速度』


リク

その日の夜遅く、最寄り駅の改札で偶然、僕はあの人に再会した。


ウミ

「あれ? リクくん……?」


リク

「あ、ウミさん……!」


ウミ

「ひさしぶりだね~! 今、帰りなの?」


リク

「はい、部活帰りで」


ウミ

「そっかぁ、遅くまで大変だね。お疲れ様」


リク

「ウミさんこそ、こんなに遅くまで、お仕事ですか?」


ウミ

「そうだよー、社会人だもん」


リク

「大変、なんですね……社会人……」


ウミ

「別にこれくらい普通だって。これでもウチの会社、割りとホワイトなんだよー? あ、そうだ。それよりも、家近くなんだし、せっかくだったら一緒に帰らない?」


リク

「……は、はい!」


ウミ

「ふふ、それにしても、キミももう高校生か~。前に会ったのって、まだ中学生だったよね。早いなぁ、ほんとちょっと前までこんなちっちゃかったのに」


ウミ

「……ね、覚えてる? キミが小学校上がりたての頃だったかな。近所の犬が怖くて帰れない~って公園で泣いてたキミを、私が手つないで一緒に帰ってあげてさ」


リク

「そ、そんな恥ずかしいこと、覚えてないです……!」


ウミ

「えー、うそー? その反応、絶対覚えてるでしょー」


リク

「し、知らないですって……」


ウミ

「まあ、でも、あれがちょうど十年くらい前か。私もまだ高校生だったし、若かったなー」


リク

「……ウミさんは、昔からずっと変わらないですよね」


ウミ

「えー、そう?」


リク

「だって、昔から……その、きれいだし、スタイルもいいし」


ウミ

「あはは。ありがと! お世辞もうまくなったねぇ」


リク

「そんな、お世辞なんかじゃ!」


ウミ

「そういうことにしといてあげる」


リク

「むぅ……」


ウミ

「あは、よしよし。そんな拗ねないで?」


リク

「こ、子ども扱いしないでください!」


ウミ

「ふふ、そっか。キミもいつまでも子どもじゃない、か……」


リク

「ウミさん……?」


ウミ

「ね。今度の週末、時間ある?」


リク

「え? えっと、土曜日は部活があるんで、日曜日なら……」


ウミ

「じゃあさ、よかったら一緒に、ご飯でも食べに行こうよ」


リク

「え……え?」


ウミ

「あー、やっぱり、だめだったかな……?」


リク

「いえ、行きます!」


ウミ

「……ふふっ、ありがと」


リク

ウミさんは、ウチの近所に住んでいるお姉さんで、親同士も昔から仲が良いらしく、僕も小学生の頃は彼女によく遊んでもらった。


リク

でも、彼女が大学を卒業して、社会人になってからは、あまり会う機会もなくなっていた。


リク

そんな時、こうして偶然再会してから、僕の毎日は少しずつ変わっていった。


リク

度々、時間をつくっては、ご飯を食べにいったり、買い物に付き合ったりもした。


リク

そして僕は、次第に、彼女に惹かれていったのだ。


リク

あの人にとって、きっと僕は、年の離れた弟くらいにしか思われてなかっただろう。


リク

それでも僕は、あきらめなかった。あの人と同じ場所に立てば、対等に僕を見てくれるはずだと信じていた。


 

* * * * *


 

――街中のとあるカフェの店内で


ウミ

「――ね、おいしいでしょー、ここのケーキ」


リク

「うん、おいしい! こんなとこ、一人じゃ来ないから」


ウミ

「ふーん? リクくんは、彼女とかいないの?」


リク

「い、いたら、こんな風にウミさんと出かけたりしてませんてば」


ウミ

「ふふ、そうー? でも、リクくん絶対モテるでしょー?」


リク

「そんなことないです! それよりも、ウミさんは、いないの……? その、付き合ってる人……」


ウミ

「ん? 私? いるよ?」


リク

「えっ……」


ウミ

「うん。まあ、年が年だし、結婚前提のお付き合いみたいな?」


リク

「そ、それって、婚約者ってこと……?」


ウミ

「一応ね。て言っても、この先どうなるかわからないけど」


リク

「…………」


ウミ

「あ、そうそう。それでさ、その人ね、めっちゃかっこいいんだよー。メガネ男子でさー、スタイル良くてスーツもビシッと決まっちゃうし」


リク

「……ッ」


ウミ

「それに、香水とかもいいやつ付けちゃってさー、さすがにちょっとずるいよね」


リク

「こ、香水くらい、僕だって……」


ウミ

「えー、どうかなぁ~。ムスク系の香りとか、キミにはまだ早いんじゃない? 今はまだシトラス系のデオドラントでじゅーぶん、じゅーぶん!」


リク

「それ、馬鹿にしてるでしょ」


ウミ

「あはは、してないしてない! いいじゃん、青春ぽくて。私は好きだよ?」


リク

「……でも、ウミさんは、そういう、あからさまなイケメンが良いんでしょ」


ウミ

「そうじゃないよ、その人がたまたまそうだっただけ。見た目だけだったらまず選んでないからね。そんなあからさまなイケメンなんか、胡散臭いでしょ」


 

――冗談ぽくくすくすと笑うウミに、リクは口をとがらせる。


リク

「じゃあ、なんで付き合ってるの……?」


ウミ

「んー、なんだろう、フィーリング? たまたま会って、たまたま気が合ったから、かな」


リク

「じゃ、じゃあ……その人は、いくつくらいの人なの……?」


ウミ

「私より十歳くらい年上だから、三十代後半だね」


リク

「ッ!」


ウミ

「ん? どうしたの?」


リク

「……それって、僕から見たウミさんと同じってこと……?」


ウミ

「あー、そっか。そう言われてみれば、リクくんと私も、それくらい離れてるんだね」


リク

「…………」


ウミ

「これでも私ね、頑張ってるんだよ。彼から見たら、私なんてまだまだ子どもだからさ。彼の隣に立って、一緒に歩けるように。彼の足手まといにならないようにって」


リク

「そ、そんな……ウミさんは、だって、もう一人前の大人だし……!」


ウミ

「それはー……私がリクくんよりも、ちょっとだけ先に生まれたから、そう見えるだけだよ」


リク

「だ、だったら……もしも、僕がもっと早く……」


ウミ

「え……?」


リク

「ううん、なんでも、ないです……」


 

* * * * *


リク

もしも、僕がもっと早く生まれていて、もっと早く貴女と出会っていたら。


リク

ウミさん――僕は、貴女の隣に立っていられたんですか?


リク

言いかけたその言葉を、僕はミルクティーと一緒に飲み込んだ。


リク

その時、僕は初めて知った。彼女は、僕が思うよりも先を走っていた。


リク

僕が立とうとしている彼女の隣よりも、もっと先を目指していたんだ。


リク

走って、走って、どれだけ走っても、僕は貴女に追いつけない。


リク

僕がどれだけ追いかけても、貴女は同じ速さで離れていく。


リク

僕が貴女の隣に立とうとしても、貴女はもっと先に行く。


リク

僕は、貴女との距離を、どうしたら縮められるのだろう。


 

 
 第二節『北風×太陽』


リク

色づいた木々の葉が、吹き抜ける冷たい北風に舞う季節。


リク

とある日曜日の昼下がり、唐突に、彼女からの通話が入った。


ウミ

「あ……もしもし、リクくん?」


リク

「ウミさん……どうしたんですか?」


ウミ

「今、時間ある? もしよかったら、会って話せないかな……ほら、家の近くの公園で……」


リク

「ウミさん、もしかして外なの? 今すぐいきます!」


ウミ

「あは、ありがとう。……待ってるね」


 

――しばらくして、リクが息を切らしながら、公園へと走ってくる。


リク

「――ウミさん!」


ウミ

「あ、リクくん……急に呼び出しちゃってごめんね」


リク

「ううん、大丈夫。それよりも……ウミさん、疲れてる? もしかして、寝てないの……?」


ウミ

「あ、はは、わかる……?」


リク

「そりゃ、わかるよ! だって――」


ウミ

「――でも、キミの顔を見たら、なんだか安心した」


リク

「ぇ……?」


 

――穏やかにほほ笑むウミ。


ウミ

「…………」


リク

「ぁ……」


ウミ

「……ねえ、リクくん、まだ時間ある? ちょっと、座って話さない?」


リク

「う、うん……」


リク

まるで辺り一面、黄色の絨毯(じゅうたん)が敷かれたように、


リク

数えきれないほどたくさんの、イチョウの葉が地面を覆う。


リク

そんな公園のベンチに、僕とあの人は、肩を寄せ合いながら腰を下ろした。


ウミ

「…………」


リク

「…………」


 

――しばしの沈黙ののち、ウミがおもむろに口を開く。


ウミ

「……彼ね、海外に行くんだって」


リク

「え……っ?」


ウミ

「急にそんなこと言われたってさ、どうしろってのよね」


リク

「そ、それは……」


ウミ

「そもそそもさ、勝手すぎない? こっちは何も聞かされてなくて、何の準備もしてないのに、いきなり付いて来てほしいなんてさ。私の生活はどうなるの? 家族とだって離れて暮らさないといけないし、友だちとだって会えなくなっちゃうんだよ? そんなの嫌に決まってるじゃん……」


リク

「あ、あの……」


ウミ

「それに、いつまで経っても、私のこと子ども扱いするしさ。それなのに、ずっと俺を支えてほしいだなんて、虫が良すぎだろって思うじゃん。なんなのよほんと、自分勝手でさ……」


リク

「…………」


ウミ

「もう、終わりなのかな……」


リク

「う……」


ウミ

「ハァ……(深くため息)」


リク

「ウミさんッ」


 

――そう言って、リクはウミを抱き寄せる


ウミ

「あ……リク、く……」


リク

「ぼ、僕がいます! 僕が、貴女の傍にいますから……!」


ウミ

「ん……っ」


リク

そう言って彼女を抱きしめる僕の声は、僕の手は、慣れないことへの緊張と、嫌われてしまうかもしれない、拒絶されてしまうかもしれないという恐怖に、震えていた。


リク

すると、彼女は僕の背中に腕を回し、きつく抱きしめ返してくれた。


ウミ

「リクくん……」


リク

「……っ!」


ウミ

「ねえ……もう少しだけ、こうしてても良い……?」


リク

「もちろんです……っ」


ウミ

「ん……ありがとう」


リク

「…………」


ウミ

「こうしてると、温かいね」


リク

「うん……まるで、お日様みたいに」


ウミ

「…………」


リク

「……あ、あの、ウミさん」


ウミ

「うん……」


リク

「僕……ウミさんのこと……」


ウミ

「ごめんね」


リク

「え?」


リク

それは、そのごめんは、何に対して?


リク

僕に愚痴を吐き続けたこと?


リク

僕をきつく抱きしめたこと?


リク

それとも――


リク

「……あの、それって、どういう……」


ウミ

「――あーあ、なんかすっかり日が落ちるのも早くなってきちゃったね」


リク

「ウミさ……」


ウミ

「ありがとね、リクくん。なんだか、ちょっとすっきりした」


リク

「あ、いえ、その……」


ウミ

「あ。ねえ、チョコでも食べない? 私これ、最近カバンにいつも入れててさ。けっこう好きなんだ」


リク

「高純度カカオの……ビターチョコ……?」


ウミ

「チョコってね、身体を暖める効果があるんだって。雪山に登る時の必需品らしいよ?」


リク

「…………」


ウミ

「あー、リクくんもしかして、ビターなやつ、嫌い?」


リク

「う、ううん……いただきます」


リク

そうして僕の口の中で溶けたチョコレートは、甘くてほろ苦い、大人の味。そんな相反するものが混ざり合うことができるなんて、子供の僕には理解できるはずもなく。


リク

隣にいる彼女の、その太陽のような温もりを、確かに感じているはずなのに、何故だか同時に、僕の心の中を、冷たい北風が吹き抜けた気がした。


 

 
 第三節『Bitter × Sweet』


リク

やがて年が明けてから、少し経った頃。


リク

春を待たずして、別れの季節が訪れた。


リク

結局、彼女は婚約者とよりを戻し、結婚を機に、外国で暮らすのだという。


リク

一足先に日本を発った婚約者の許に向かうというあの人を、僕は、空港まで追いかけた。


 

――リクは空港のロビーでウミの姿を見つけ、駆け寄る。


リク

「――ウミさん……!」


ウミ

「え、リクくん……どうして」


リク

「ハァ、ハァ……よかった、間に合って……」


ウミ

「学校は、どうしたの?」


リク

「サボった。……もうテスト終わったし、どうせあとは春休み待つだけだし」


ウミ

「ふふ……悪い子だね」


リク

「ウミさんのせいだよ……」


ウミ

「私の?」


リク

「だって……僕、ウミさんのこと……」


ウミ

「……」


リク

「どうしても、行っちゃうの……?」


ウミ

「リクくん……」


リク

「本当は、まだ迷ってるんじゃないの……?」


ウミ

「それは……」


リク

「迷惑、だよね……」


ウミ

「……」


リク

「ウミさんの足枷になっちゃうかも……」


ウミ

「……」


リク

「だけど、僕もう、抑えられないよ……」


ウミ

「……リク、くん……」


リク

「あのさ、ウミさん……一つだけ、教えて」


ウミ

「うん……?」


リク

「もしも、僕がもう十年早く生まれていたら、もしも、あなたと十年早く知り合っていたら……僕はあなたの横に、立っていられたんですか?」


ウミ

「ふふ、そっか……私のせい、か……」


リク

「…………」


ウミ

「飛行機の時間、まだあるからさ。一緒に、座ろ?」


リク

「う、うん……」


 

――二人は待合スペースのベンチに腰掛ける。


ウミ

「なんだかさ、前に公園で話したときみたいだよね」


リク

「うん……」


ウミ

「あの時、急だったのにすぐ来てくれて、嬉しかったよ」


リク

「うん……」


ウミ

「……そうだ。ねえ、チョコ、一緒に食べよっか」


リク

「え……?」


リク

そう言って彼女は、カバンから板チョコを取り出して、その欠片を一つ、僕の口に入れ、そして――


 

――二人は互いの舌でチョコレートを溶かし合うようにキスをする。


ウミ

「ちゅっ……んっ、ぅ……」


リク

「んっ……ぁ……」


リク

――僕たちは、チョコを口に含みながら、くちづけを交わした。


リク

それは、高校生の僕にとってあまりに官能的で刺激の強い、ファーストキスだった。


リク

「ぁ……ウミ、さ……」


ウミ

「……ん?」


リク

「……どうして?」


ウミ

「……なんでだろ。ただの気まぐれ、かな?」


リク

「僕の気持ちを知っていながら……ずるいよ、そんなの……」


ウミ

「そうだよ……私、ずるいの」


リク

「え……?」


ウミ

「リクくん、私ね。キミの気持ちに気付いてた。キミの気持ちを知りながら、ご飯に誘ったり、一緒に遊んだりしてたの」


ウミ

「私のこと、好いてくれてるんだなって、嬉しかった。その気持ちが嬉しくて、つい甘えちゃってたんだ。……自分に無理せず、気楽に寄り添える存在にさ」


リク

「ウミさん……そんな、今更そんなのって……」


ウミ

「ごめんね、リクくん。大人になればなるほど、ずるくなる生き物なんだよ。人間って」


リク

彼女はそう言って、僕の頭を優しく撫でた。


ウミ

「リクくん、キミはきっと、もっともっと素敵な人になれるよ。それこそ、私なんかもったいないくらい」


リク

「そんなこと……」


ウミ

「だからさ、私なんてもう忘れて? ……それと、もう私みたいな悪いお姉さんに、騙されちゃダメだぞ?」


リク

「ウミさん……」


ウミ

「さ、もうすぐ時間だから……私、行くね?」


リク

そうして彼女は、バイバイと小さく手を振って、海の向こうへと旅立っていった。


リク

その顔は、まるで憑き物が落ちたように、とても晴れやかだった。


リク

最初はきっと、僕という重りから解放されたからなのだと思った。


リク

でも、それは、ただの僕の思い上がりに過ぎなかっただろう。


リク

彼女にとって、僕という存在など、重りにすらなっていなかった。


リク

僕は最後まで、あの人と対等な位置にすら、立てていなかったのだ。


リク

「悔しい。……ああ、悔しいな」


リク

彼女の乗った飛行機を見送りながら、僕は日が暮れるまで、ただ泣き続けた。


リク

――あれから月日が経ち、僕は大学生になった。


リク

彼女とはもうそれ以来、会っていない。今頃なにをしているのかも、わからない。だけれど、彼女とのささやかな思い出は、その後、いくつかの出会いと別れを経験してもなお、僕の心から、消えることはなかった。


リク

どんよりとした寒空の下を、冷たい北風が吹き抜ける。


リク

そんな季節になると、今でも不意に思い出す。


ウミ

「ねえ……チョコ、一緒に食べよっか」


リク

あのとき交わした接吻(キス)の味。


リク

それは、この身がとろけてしまうほどに甘く。


リク

そして、胸が張り裂けそうになるほど、苦かった。


 

《了》

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