チーム・フェアリィ シナリオ X Facebook0 LINE コピー 2025.01.13 シナリオ シナリオ 上を向いて歩け。足元なんか気にせず。 はじめにお読みください 本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 キャラクターの性別は定めていますが、キャストの性別は不問です。 YouTubeやツイキャス、Twitterのスペースなど、非営利での配信であれば自由にお使いいただけます。 使用時の許可やクレジットなどは特に必要ありませんが、配信の際には作者のTwitter(X)にメンションくださるなど、何らかの形でお知らせいただけると嬉しいです(強制ではありません)。 会員制の配信アプリで使用する場合は、外部のシナリオを用いて良いかどうか、そのアプリの規約をご確認ください。 営利を目的とした配信や商業作品、舞台やリアルのイベントなどで使用したいという場合は作者のTwitter(X)にご連絡ください。 作品概要 タイトル チーム・フェアリィ 作者 瑞田多理 ジャンル ファンタジー 上演時間 約30分 男女比 男1:女2:不問1 登場人物 ユキ 女 19歳自在に空を舞う異能のフェアリィ。シルフ(遊撃部隊)のエース。空を飛ぶことそのものが大好きで、戦闘中でもしばしば緊張感のない振る舞いをする。その本質はもしかすると、彼女の足が地面を歩けないという憧れや諦めによるものかも知れない。 マイ 女 25歳まっすぐ飛ぶ速さは誰よりも速いフェアリィ。ミョルニル(雷撃部隊)の隊長。一途で一本気、誰からも好かれるまっすぐな存在。ユキが唯一心を開く相手。マイの方もユキのことは、実の妹のように気にかけている。 レオ 男 28歳・60歳(プロローグ・エピローグ)サラマンダーの整地部隊長。サラマンダーは消耗が激しいので若くして戦術士官も務める。忙しい中でマイの身を案じていて、マイを危険に晒しかねないユキの言動を激しく嗜めることもある。 シマ 不問 20歳サラマンダーの後方支援・観測手。技官としての腕前は確かで電子戦・修理・改造などなんでもこなすが会話は苦手。フェアリィ、特にユキの華麗に舞う姿に憧れを抱いている。 ネック(NECH) 役なし人類の敵。生身の人間はNECHに触れると同じくNECHになる。地球そのものがすでにNECH化しているため、人類はアスファルトを敷かなければ地面を歩くことができない。 シナリオ レオ 「あんたも、フェアリィたちのことを聞きたいのか? 妖精の名を冠した空飛ぶ女たちのことを? なら、最初に約束してほしいことが三つある」 レオ 「一つ。今から話すことを疑わないこと」 レオ 「一つ。このことを誰でもいいから伝えること。……妙なお願いだと思ったか? 普通は〝他言無用〟じゃないのか……って」 レオ 「……まぁ、いいんだよ。ちょっと前の俺だったら、そういった。あんたみたいに、興味半分で話を聞きに来るやつをぶん殴ったりもしたもんさ。でも、もういいんだ。伝えてほしいんだ。誰でもいいから、一人でも多くに」 レオ 「あの、二人の馬鹿野郎どもの最期をさ。ユキと、マイ。バカなフェアリィたち……、地球最初の英雄譚を、これから話そう。聞いてくれ」 † レオN 俺たちの敵は、誰からともなく「ネック」と呼ばれていた。死体って意味だ。俺たちは生き物を取り込む「死」そのものと戦っていた。 レオN もっとも、戦うのは俺たちサラマンダーじゃない。それはフェアリィの仕事だ。空飛ぶ妖精たちの、な。 ユキ 「掌位(しょうい)解除! 下からくる。踊らなきゃ!」 マイ 「二十秒後に到着する! 露払い頼んだよ!」 ユキ 「ダダダ、ダダダ、ダダダ! はぁい!」 レオN 本当ならバギーに乗せるようなミニガンを抱えた少女。あり得ないほど軽快に飛び回るのは、シルフ1のユキ、要するに遊撃隊のエースだ。癪なことだが、奴が落ちたら人類が落ちる。そういうレベルのフェアリィだった。 ユキ 「ダダダ! ダダダ! ダダダダダ! 寂しいね、冷たいね! 地面はさ!」 マイ 「シルフ損耗なし。3、2、1、空域突入! シルフ、離脱の準備!」 ユキ 「2秒速いよ。踊り足んないな」 レオN 蒼穹を割くような長い光跡。本当に目にも止まらぬ速さで飛び込んできたのはミョルニル1のマイ。誰よりも早く飛ぶ、雷撃隊のリーダー。あいつを落とさないためにシルフがいる。俺たちもいる。あいつの雷霆(らいてい)が、人類の光だった。 マイ 「ユキ、巻き込む! 早く逃げて」 ユキ 「はぁい、マイ。バイバイ。楽しかったよ」 シマ 「全シルフ空域離脱」 レオ 「よし。ぶちかませ、マイ」 マイ 「オッケー。ミョルニル、投擲(スウィングアウト)!」 音響指示 くぐもった爆発音 レオN 目も眩むような大爆発が、何もかもを吹き飛ばした。生も死も何も残らない。 レオN それがミョルニルの雷霆(らいてい)だった。 シマN それは終わりの印。綺麗だけど。 シマ 「また、見納めか」 レオ 「何だって?」 シマ 「いえ。ミョルニル着弾。オールクリアです。レオ、行きましょう」 レオ 「観測ご苦労、シマ。サラマンダー、進撃」 マイ 「あとは頼んだよ、レオ! シマさんも!」 レオN 俺たちチーム・サラマンダーは地面を歩く。爆発の後に人類の道をアスファルトで整地する。整地の間もネックどもは這い寄ってくるから、蹴散らしながらの作業になる。骨が折れるさ。 レオN 空を飛べるフェアリィがうらやましくなることも……まぁ、あった。だが道を拓くのが俺たちの仕事で、俺たちにしかできないことだったのも確かさ。 † レオN で、フェアリィたちが飛んで帰っている間のことは、俺たちには知りようがない。知りたいと思ったことは──何度もある。まぁ、互いのことを知れないのはお互い様だがな。 マイ 「掌位(しょうい)! ぶっ飛ばすよ!」 ユキ 「両手の手と手を合わせて幸せ……」 マイ 「お仏壇のことなんか考えてないで! 置いてくよ!」 ユキ 「やだー」 レオN 掌位(しょうい)っていうのは、アーカイブに残ってた本当に古いSF漫画からマイが見つけて流行らせた言葉だ。手をしっかり繋いで飛ぶ。それで全員の推進力が一つになって、ものすごい速さで飛べる。 ユキ 「……遊撃隊との八翼掌位(しょうい)より速いや。さすがだね、『雷霆(らいてい)のマイ』」 マイ 「まっすぐ飛ぶだけならね」 ユキ 「誰よりも速いから、誰とも一緒に飛べない。みんなと仲良しなのに寂しいね」 マイ 「寂しいのはユキの方でしょ。みんなから浮いてて」 ユキ 「ううん。マイがいるもん」 マイ 「あんたね……」 レオN あいつらが空で何を話してたのか。……そうさ、知りたかった。空という隔たりが俺たちの間にあることを、そういう時にめちゃくちゃ感じたもんだった。 ユキ 「で、話ってそれ?」 マイ 「飛びたかっただけだよ」 ユキ 「嘘つくの下手くそだね」 マイ 「……そう。みんなと仲良くして欲しいの。フェアリィの中でも浮いてるじゃない」 ユキ 「だから?」 マイ 「……雷撃隊の隊長としては。背中を預けるエースがそうだと不安なの」 ユキ 「まぁた嘘ついてる」 マイ 「失敬な。ほんとだよ」 ユキ 「だって、他のみんなは歩けるじゃん」 マイ 「……そのこと、みんなに話したら?」 ユキ 「マイにしか言わないよ」 マイ 「(被せて)降りないんじゃなくて、降りられないんだって」 ユキ 「(被せて)やめてその言い方!」 マイ 「ごめん」 ユキ 「ごめん。でも三度目はないからね」 マイ 「うん。でも、……誤解は、解けるんじゃないかなって」 ユキ 「足が動かないって知ってもらって?」 マイ 「うん」 ユキ 「それで私は何が嬉しいの?」 マイ 「……私が、ちょっとだけ安心する」 ユキ 「コスパが悪いから……なし!」 マイ 「……もう」 † シマ 「お帰りなさい」 ユキ 「あれ、君だけか」 シマ 「レオたちの舗装はまだかかりそうです」 ユキ 「それをなんで私にいうの」 シマ 「口実、というやつです。こうやって繋ぎ止めないとフェアリィは飛んでいってしまうから」 ユキ 「繋ぎ止めて、どうしてくれるっていうの」 シマ 「眺めます」 ユキ 「それだけ」 シマ 「それだけです」 ユキ 「つまんないの」 シマ 「決して地面に降りないあなたを、足を掴んで引きずり下ろすのもそれは一興ですが」 ユキ 「!」 シマ 「それは、あなたの望みではないのでしょう。ならしません。僕は眺めているだけで十分です」 ユキ 「変な人」 シマ 「あなたには何度もそう言われました。覚えてなくて結構ですよ」 レオ 「今日はどこを大回りしてきたんだ?」 マイ 「ちょっと話し込んじゃって。ごめんね、内緒話に付き合わせちゃって」 レオ 「いつものことだし気にしてねぇよ。そのくらいの息抜き、誰にだって必要さ」 マイ 「ありがと」 マイ 「ユキはさ」 レオ 「あいつの、なんだ? いつもの見下してんのを庇うってんなら聞かねぇよ。聞きたくもねぇ」 マイ 「違うの。ユキもみんなと喋りたがってるんだって」 レオ 「嘘はやめとけ、似合わねぇよ」 マイ 「嘘じゃない。ちょっと素直じゃないだけ」 レオ 「(被せて)ならなおさらだ。あいつが言いたくないなら、俺も聞かない。お前が配給の圧縮パウンドケーキを食わずに溜め込んでるのを誰にも聞かれたくないのと同じだろ」 マイ 「なんで知ってるの!」 レオ 「そういうことだろ」 マイ 「……うん。ごめん」 レオN マイは去っていった。ちょっと怒っていたようだったが、自業自得ってやつだ。 レオN 言いたいことなんて簡単にわかるさ。ただ、……、その答え合わせは必要ないってだけだ。 シマ 「ところで」 ユキ 「まだ何か」 シマ 「先の戦闘、あなたの独断専行によって始まりました。どうして領土を逸脱したのですか」 ユキ 「人聞きが悪いなぁ。まるで、わざとやったと思われてるみたい」 シマ 「違うのですか?」 ユキ 「(被せて)でも──大正解!」 シマ 「……逆さになっていてもあなたは綺麗だ。顔が鬱血(うっけつ)しますよ」 ユキ 「だってマイと飛ぶのは、気持ちいいんだもん」 シマ 「その結果──自分自身が地面に縛り付けられるとしても」 ユキ 「そうはならないよ。私が守るもん」 シマ 「あなたは人類の希望、の一人だ。軽率な行動は謹んでください」 ユキ 「そうじゃないでしょ、言いたいこと言ってごらんよ」 シマ 「……」 ユキ 「ぁあーっ、そろそろ、帰ろっかな」 シマ 「……そして、こんな」 ユキ 「こんな?」 シマ 「こんな……クソみたいな! 息の詰まる世界で。あなただけが希望だ」 ユキ 「マイじゃだめなんだ」 シマ 「はい。飛んでいてください、この真っ青な空をあなたが飛ぶ軌跡が、私のただ一つの希望です」 ユキ 「ちょっとくすぐったいかな。だけど、ありがとう」 シマ 「僕はそのはにかんだ顔が見られただけで十分です」 ユキ 「目に焼き付けた? 自分でも見てみたかったな」 ユキ 「おっと、なんか緊急召集がかかってる。サラマンダーには来てない?」 シマ 「来ていたけれど無視していました。レオにどやされる」 ユキ 「私もマイに怒られちゃう。じゃあまた、腐った地面の上で」 シマ 「楽しみにしています」 † レオN その作戦会議は、とてつもない希望ってやつに満ちたもんだった。 レオ 「ネックの、本体……か」 マイ 「観測班の集めたデータから明らかになった、ネックの触手の指向性(しこうせい)。それを辿って見つけたって」 レオ 「お手柄じゃねぇか、シマ」 シマ 「たまたま映り込んでいただけですよ」 マイ 「でも、すごいよ。この戦いが一気に終わるかも!」 シマ 「そうですね。終わってし、……、くれるかもしれません」 レオ 「……そういや、ユキはどこ行ったんだ。もうすぐ威力偵察のブリーフィングだろ」 マイ 「多分飛んでると思う。できるだけ空にいたいんだって」 レオ 「いつも通りか。能天気なのかなんなのか……」 マイ 「怒るよ! レオ」 レオ 「わかったよ、すまん」 † シマ 「これ、使います?」 レオ 「なんだそれ」 シマ 「軍事用観測ドローンです。これに僕のテレスコープを載せれば、領土からでもはるか遠くのフェアリィを見られます」 レオ 「……やるな」 シマ 「司令の許可を取れれば、ネックの本体を記録に残すこともできるでしょうね」 レオ 「お前が残したいものは、別にあるんだろう」 シマ 「あなたが見たいものと一緒ですよ」 レオ 「……俺も行く。お前口下手だからな」 シマ 「助かります」 † マイ 「いないな。もう始まっちゃうし……無線繋いじゃおう」 演出指示 マイ、話し始めようとするが、啜り泣きを聞いて言葉を引っ込める ユキ 啜り泣いている マイ 「……ユキ?」 ユキ 「いつから盗み聞きしてたの」 マイ 「してない。今きたところ」 ユキ 「なんの用?」 マイ 「ブリーフィングだよ。行こう?」 ユキ 「……やだ」 マイ 「ユキが居なきゃ、私いやだよ。だってネックの親玉と戦うんだもん、一番信頼できる人と」 ユキ 「(被せて)それで勝ったら、私たちはフェアリィじゃなくなるんだよ」 マイ 「うん。……わかってるよ。空を飛ぶ私たちを見たら、きっとみんなが思い出す。ネックと戦ってた時のこと。失った仲間のこと。だから終戦したら飛ばない。私たちの約束」 ユキ 「でも、飛べなくなったら……!」 マイ 「ユキ」 ユキ 「やだ、やだ! また自分で動けなくなるなんて、絶対やだ!」 マイ 「ユキ。そうなったら私が一緒にいるよ」 ユキ 「みんなそう言った。みんな死んじゃった!」 マイ 「死なないよ。ユキがいてくれるなら」 ユキ 「卑怯だよ、マイ」 マイ 「それで、どこにでも連れていくよ。ユキが行きたいところへ、手を繋いで」 ユキ 「私が電動車椅子でも?」 マイ 「うん」 ユキ 「階段があっても?」 マイ 「これでも軍人だもの。任せてよ」 ユキ 「(被せて)じゃあ、行きたいところある!」 マイ 「うん」 ユキ 「(ためらいがちに少しためて)宇……宙!」 マイ 「うん」 ユキ 「この、マイが必死に守ろうとしている地球を、全部眺めてみたい」 マイ 「オッケー。これが終わったらさ、きっとすごい額の報奨金(ほうしょうきん)がもらえるからそれで行こう。二人貸切で」 ユキ 「約束?」 マイ 「約束」 ユキ 「……ブリーフィング、どこだっけ」 マイ 「特務会議室。三分後。すっ飛んできて」 † マイ 「八翼掌位! 最大戦速!」 レオ 「ドローン行けるか」 シマ 「ええ、任せてください」 レオN この時、俺たちは相当気楽に構えていた。もちろん緊張はしていたが、やることは見て帰るだけだ。その筈だった。誰も、あんな事になるなんて予想してなかったんだ。 マイ 「領土から離脱。急ぐよ、ネックの手を追いつかせないで!」 レオ 「もうフェアリィの光跡(こうせき)が消えかかってる。なんて速さだ……追いつけなくなるぞ」 シマ 「舐めるな。私は、フェアリィをこの目で見るためなら、なんだってするんです」 演出指示 ヘリコプターが飛ぶようなドローンの発進音 レオ 「……なんて速さだ」 シマ 「理論上、人体という構造上の限界を持っているマイさんを……追い越せます」 レオ 「……やるじゃねぇか」 ユキ 「そろそろ作戦空域だね」 マイ 「うん。まだ何も見えないけど」 ユキ 「(被せて)(驚きと共に)……! 掌位解除! 下!」 レオ 「追いついたか、……なんだ、四人しかいないぞ」 マイ 「みんな! ……フェアリィ・スリー、ファイブ、シックス、エイト、フォールダウン!」 レオN そう叫んだマイと、ユキともう二人。無事だったのはその四人だけだった。残りの四人は飲み込まれてしまっていたようだった。突如隆起した、土の津波に。 マイ 「作戦失敗、離脱するよ!」 ユキ 「戦えないか、さすがにこのサイズは」 マイ 「急いで。掌位……っ、アキツ!」 レオN ネックに頭脳があるとしたら、絶望的に的確だった。少しだけ離れていて手を繋ぐのが遅れたアキツ……フェアリーセブンが触手に巻きつかれて、悲鳴だけ残して消えていた。 シマ 「まさか、フェアリィが落ちる……? そんなことが、そんなことが。そんなことがあっていいはずがない」 レオ 「落ち着け!」 シマ 「これが落ち着いていられるか! ユキさん!」 レオ 「ドローンを死守しろ、シマ。お前にできるのはそれだけだ」 シマ 「そんな、くそ、ちょっとでもいいから火器を積んでおけば」 レオ 「──本当に何もできない俺よりは、いくらかマシだ」 シマ 「……くそっ」 レオ 「っ! おい、見間違いか? 空に八人いるぞ」 マイ 「みんな……? 戻ってきたの?」 ユキ 「(被せて)マイ! 死にたいの! 狙え! あの子たちはもう!」 レオN ガトリングガンの掃射が、戻ってきたはずの仲間を打ち砕いた。それで俺たちも目が覚めた。バラバラになったフェアリィたちはみんな、土塊(つちくれ)の色をしていたから。そして再び集まって……縋(すが)ろうとしてきたから。 ユキ 「死人は二度と死なないね。 死ねないね……! フェアリィ・フォー、応戦して! って、もう無理か。あんなに抱きつかれちゃあ、ね」 マイ 「ユキ、掌位」 ユキ 「……」 マイ 「ユキ、掌位!」 ユキ 「やだ。フェアリィ・ワン」 マイ 「そんなガトリングガンなんか捨てて! 一緒に逃げるの!」 ユキ 「逃げきれないよ、二人じゃ。でもマイだけなら、私が逃がせる」 マイ 「やだよ、そんなの!」 ユキ 「甲高い声出さないで。集中が切れるし……、似合ってないし」 マイ 「ユキ!」 ユキ 「フェアリィ・ツー、戦闘を続行。フェアリィ・ワンの空域離脱を支援する」 マイ 「行きたいところがたくさんあるって、言ったじゃない!」 ユキ 「(被せて)早くいけぇ! 覚悟が鈍る! 邪魔! 鈍感!」 マイ 「――すぐに戻るから。ぶちこんでやるから。だから、――死んだら許さないからね!」 レオN マイは作戦空域を見たこともない速さで離脱していった。それを見送って、ユキは果敢に戦った。かつて仲間だったフェアリィたちの骸(むくろ)を砕いては避けて、時間にして十分ほど、舞い続けた。 レオN だが、ネックの伸ばした手が、あいつの右足を掴んだかと思うと、瞬く間にかつて仲間だった土くれが、彼女を覆っていく。 シマN その間ずっと、ユキは何かを叫び続けていた。喉が裂けて血を吐くほどに。なんと言ったのかを知る術はなかった。ドローンは軽量・高速化のため通信機能を最低限にしていたからだ。 シマ 「あ、ああ……。…………あああああああ!」 レオ 「チーム・フェアリィ、壊滅……」 レオ 「総員、特務戦闘配備……。ユキが、攻めてくる」 † レオN マイにもわかっていたはずだった。どんなにあいつが速く飛んだって、ユキが助からないことも。二度と一緒に飛べないことも。 レオ 「待て、マイ。両腕いっぱいに雷霆(らいてい)を抱えて、どうするつもりだ」 マイ 「投げる必要なんかない。私が十分に速いんだもの」 レオ 「そう言うと思ったよ」 音響指示 平手打ち マイ 「……もう、何にも残ってないんだよ」 レオ 「仇(かたき)討ちのチャンスなら五分後にある。それまで待て」 マイ 「なんで待たなきゃいけないの。どうせとどめを刺すのは私の役目でしょ」 レオ 「その可能性を少しでも上げるためにみんな頑張ってる。五分くらい待て」 マイ 「くらい? バカにしないで……!」 レオ 「こっちのセリフだ馬鹿野郎」 音響指示 硬い棒状のものがバラバラと落ちる音(マイをレオが抱きしめたことによって雷霆が落ちて散らばった音) レオ 「お前らはいっつも空の上ばかり見てる。空の上にしか希望も、友情も、愛もないみたいなことばっかり言いやがる。地を這うトカゲはそれを見上げてため息をつくばっかりだ」 マイ 「ちゃんと、地面のことも見てるよ」 レオ 「トカゲのことは」 マイ 「正直に言えば、びっくりしてる。だって。レオが。……ふふ、レオが」 演技指示 少し時間を空ける レオ 「吹き出されちまったら何も言えなくなるだろうが」 マイ 「ごめん。ありがとう。……でも、離して」 レオ 「いやだ、と言ったら」 マイ 「軍規違反で突き出す。ブリーフィングの時間だから」 レオ 「……いつも通りに、ってことか」 マイ 「妖精はたった一人でも宙(そら)を舞う」 レオ 「トカゲはその後を追って走る……。行けよ」 マイ 「ありがと」 レオ 「何がだよ」 マイ 「愛してると言ってくれて。そう言ってくれるのはユキだけだと思ってたから」 マイ 「……だから、さよなら」 レオ ため息 レオ 「やっぱり、みんな空の上なんだな」 † レオN あれの真上に到達して叩き潰す。マイに課せられた任務は単純だった。だがとてつもなく困難だった。マイを援護できる部隊はもはや存在しない。マイはたった一人で、全てを背負って飛ぶんだ。 レオN あいつとは、あれ以上言葉を交わす機会はなかった。俺の方は、古びた迫撃砲(はくげきほう)の整備を回しながら愛車にガソリンを入れていた。マイの方も、きっと準備に忙しかっただろう。 † マイ 「領土離脱。作戦空域に到達」 シマ 「行きましょう。まずはあれの上空へ到達してください」 マイ 「シマさん……? 今日はレオじゃないんだ」 シマ 「不満ですか?」 マイ 「ちょっとだけね」 シマ 「志願したんです。一言だけ、あなたに言いたくて」 マイ 「静かな今のうちに聞いとく」 シマ 「あの人を」 マイ 「ユキのことね」 シマ 「はい、解き放ってあげてください。硬くて、冷たくて! 腐った! あの人を拒絶する地面から!」 マイ 「それ、ユキが話したの」 シマ 「いいえ! 私は観測手ですから……出会った瞬間に気づきました。だから許せない。あの人が地面に囚われているのが……!」 マイ 「そっか。……ユキにも、気にかけてくれる人がいたんだね」 シマ 「だから、僕の代わりにこのドローンが。あなたの雷(いかづち)を運びます。合わせて三本。どうか、あれを!」 マイ 「葬るよ。ユキと、一緒に」 シマ 「……くそっ」 マイ 「観測手、前見える?」 シマ 「見えます。地平線を覆い尽くすような、大地の津波」 マイ 「しかもすごい速さでくる。突破するよ」 シマ 「最初の一本」 マイ 「スウィングアウト」 音響指示 爆発音 シマ 「津波に穴が」 マイ 「ぼんやりしてないでついてきてよ!」 シマ 「言われなくとも」 レオN そこから先は本当の死闘だった。地面から伸びるネックどもの腕を後ろに置き去りにしながら、マイは飛んだ。追いつかれれば死ぬ。まっすぐ飛ぶしかない。 レオN そのマイの光跡がわずかに揺らいだのは、敵の第十二波を乗り越えた時だった。チーム・フェアリィの仲間が、現れた時だ。 マイ 「フェアリィ・スリー、ファイブ、セブン」 シマ 「背後からフォー、シックス、エイトも接近。挟み撃ちとは」 マイ 「ねぇ、シマさんならどうする?」 シマ 「ユキさんをどこに置くか、という事ですか。……ちくしょう。自由なフェアリィにあるまじき、地面への楔(くさび)。本質的に皆、ネックの腕と相違ないのだとすれば」 マイ 「私の……真下!」 レオN その回避飛行(ドッヂロール)は本当に狙い澄ましたかのようなタイミングだった。飛び上がってきたユキとマイとの距離は、五十センチメートルもなかった。こうなってなお、ピッタリと息があっているかのようだった。 マイ 「見えた! 本体!」 シマ 「狙えますか。ずいぶん遠いですが」 マイ 「狙う。だって、こっちはフェアリィ全員につかれてる」 シマ 「違いない。早期決着といきましょう」 マイ 「スウィングアウト! 見える?」 シマ 「見えます。完全に滅びました。あれは」 マイ 「でも攻撃がやまない! なんで」 シマ 「そうか、奴ら……本体を移したんだ……」 シマ 「地を這う死体が願ってやまなかった、妖精(フェアリィ)に……」 演技指示 結構開ける マイ 「ワンチャンあるかも、って心の隅で思ってた。もしかしたらユキも、みんなも元通りになって、みんなで帰れるかもって」 マイ 「ほんとう、手間のかかる子だなぁ」 シマ 「マイさん、止まっては!」 マイ 「最後の雷霆、受け取った」 シマ 「……死なないでください、どうか。それがきっとユキさんの望みだったから」 マイ 「それは私が決めることだよ。ユキのことを一番知ってるのは、私」 レオN そうしている間にネックも動いた。全てのフェアリィがユキと手を繋いだんだ。 マイ 「掌位……!」 シマ 「いや、そんなものではない。……おぞましい。溶け合って、一つに……。うぷっ」 マイ 「それでも最後には、ユキの姿になるんだ。一騎打ちってわけ」 シマ 「……マイさん、元本体を倒したことで後続のフェアリィたちが近づいてきています。彼女らを待ちませんか」 マイ 「待たない」 レオN マイは雷霆を抜き放ち、ネックに突きつけた。対するネックは両手のひらを合わせて何かを拝んでいるかのようだった。 演技指示 ユキ(回想)と指定したセリフは、ゆっくりと、まどろんでいるかのように読む。 ユキ(回想) 「両手の手と手を合わせて幸せ……」 マイ 「それ以上ユキの真似を……するなっ!」 シマ 「だめだ、無闇に突っ込んでは!」 マイ 「黙ってろ!」 シマ 「! 背中から八本の腕が」 マイ 「遅い!」 シマ 「獲ったか? いや、避けられた!」 マイ 「ユキならそう飛ぶ。追っても来ない。そこで私が回ってくるのを待ってr」 音響指示 (被せて)刺し貫く音 マイ 「か、っ、ゲホっ」 シマ 「マイさん! くそ、このドローン、こんな触手も切れないか……!」 マイ 「……いい、これで」 レオN 思えば、あいつは最初からこのつもりだったんだろうな。 演技指示 以降のマイのセリフは瀕死ではなく、綺麗に読む。 マイ 「これでいい」 レオN 地球も救う。ユキも助ける。あるいは約束を守る。そのために。 シマ 「何を?」 マイ 「シマさん。この戦いは終わる。みんなに伝えて」 レオ 「……いけ」 マイ 「みんなの、勝ちだって」 シマ 「バカを言うな! 最後の希望であるあなたを失って、何が勝ちなものか」 レオ 「いけ、行っちまえ。行っちまえ!」 シマ 「なにを泣いてるんですかレオ、今までダンマリだったくせに!」 レオ 「それでいいんだ、行っちまえ、お前なんか! どこへだって、ユキと一緒に!」 レオN 俺の声が聞こえているかなんて、どうでもよかった。ともかくあいつは笑った。そしてあいつを飲み込もうとするネックに、手のひらを差し出したんだ。 マイ 「ほら、掌位……」 ユキ(回想) 「マイと飛ぶのは気持ちいいんだもん」 マイ 「あの日みたいに、いっぱいのあの日みたいにさ」 ユキ(回想) 「嘘つくの下手くそだね」 マイ 「たくさんある本当のうちの一つをさ」 ユキ(回想) 「じゃあ、行きたいところある」 マイ 「最期にもう一回、飛ぼうよ」 音響指示 肉を刺し貫く音 シマ 「マイさん、何を! 自分ごとネックを!」 マイ 「いくよ、ユキ」 レオ 「ああ、いけ! 行っちまえ! どこへでもいけ、それがフェアリィだろ!」 シマ 「マイさん、ネック本体を抱えて……急上昇! くそ、追いつけない!」 レオ 「シマ、もういい。それ以上追いかけなくていい!」 シマ 「喚きたいのは僕の方ですよ、レオ!」 レオ 「構えぇえっ、筒(つつ)!」 マイ 「辛い時には助けてあげる」 マイ 「どこへでも、わたしが連れて行ってあげる」 マイ 「ほら、みたかったって言ってた、私たちの地球だよ」 マイ 「見える、かな。綺麗だね」 ユキ(回想) 「ブリーフィング、どこだっけ」 マイ 「ねぇ、手ぇ、つなご」 ユキ 「うん。マイと飛ぶのは、気持ちよかったよ」 マイ 「そっか。よかった」 ユキ 「ありがとう、ここまで連れてきてくれて」 マイ 「よかったぁ。ここまで連れてこれて」 音響指示 くぐもった大爆発音(宇宙で爆発してるので宇宙船が爆発するニュアンス) レオ 「敬礼!」 演技指示 間を開けて シマ 「これが本当の、見納めか……」 † 演技指示 余韻を持たせるようにゆっくり話す。 レオ 「これで、俺からの話は全部だ。ジジイの思い出話に付き合ってくれてありがとうな」 レオ 「ん? 三つ目の約束がなんだったか、って?」 レオ 「まぁ、若いのには当たり前のことかもしれない……が、一応伝えとくか」 レオ 「……上を向いて歩け」 レオ 「足元なんか見ずに、地面なんかに気を留めることなく上を向いて歩くんだ。道を踏み外そうが、蹴躓こうが、前に向かって進むんだ」 レオ 「そうできるための大地を、妖精(フェアリィ)たちが作ったんだからな」 チーム・フェアリィ 了