運命のクロノス

ファンタジー

第2回「しなコン!」レギュラー部門受賞作品

魔法都市、クロノディア。この世界の住人は自分の魔力と、精霊たちの協力によって魔法を使うことが出来る。魔法がなければ暮らしていくことは難しく、魔力がなければ呼吸することさえできないと言われている魔法の世界。
桜は予知夢で誰かが落とすのを見てしまう。それは、別名:死の運命。未来を変えるには代償を伴う世界で、桜たちは死の運命にどう向き合っていくのか。

はじめにお読みください

  • 本作品は第2回「しなコン!」レギュラー部門受賞作品です。
  • 本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
  • 本作品は「こえコン!」関連イベントや公式配信での上演だけでなく、一般の声劇配信などでもご利用いただけます。なお、その際の台本の利用規約については、作者である「haru_hi」様のサイトに掲載されている「利用規約」に準じます。ご利用の際は、必ず下記リンク先をご確認ください。
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作品概要

タイトル

運命のクロノス


作者

haru_hi


作者サイト

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ジャンル

ファンタジー


上演時間

約25分


男女比

🚹2:🚺1、不問1

登場人物

海斗

時の魔法を練習中。17,18歳くらいの男の子。


魔法が得意。海斗と同い年。


2人と同い年で桜の幼馴染。


時雨先生

男女不問。魔法の研究者で3人の先生。左眼に眼帯してる。


時の精霊

蓮の兼ね役。時の魔法を使う時に力を貸してくれる精霊


魔法省

蓮の兼ね役

シナリオ

海斗N

ここは魔法都市、クロノディア。この世界の住人は自分の魔力と、精霊たちの協力によって魔法を使うことが出来る。

 

魔法がなければ暮らしていくことは難しく、魔力がなければ呼吸することさえできないと言われている魔法の世界。そんな世界で起きたひとつの物語─。


タイトル

『運命のクロノス』


海斗

「魔法が間に合わない!」


「海斗!逃げて!!」


海斗

「くそっ⋯うわぁあああああ!!」


「いや、海斗!!⋯海斗ぉおお!!」


 

――目覚ましの音


「はぁっ⋯はぁっ⋯⋯まただ⋯最悪な夢⋯」


何度この夢をみただろうか。ここ数日、ナニカわからない謎のものに襲われて大切な人が命を落としてしまう夢を繰り返し見る。この魔法世界で、魔法に殺される悪夢を⋯


 

――学校のチャイム


「ふぁあ⋯」


海斗

「桜、おはよう。」


「おはよう」


「海斗、蓮くん。おはよー」


「ここ最近毎日眠そうだな」


海斗

「大丈夫か?」


「大丈夫ー、ちょっと眠れてなくて⋯ふぁあ⋯」


時雨

「おはよう。授業始めるからさっさと席に座れ」


 

――少しの間


時雨

「今日は高難易度の魔法についてやっていく。─まずは、時の魔法だ。簡単なものであれば使える人も多いが、時を止めることや時を戻すなど、影響が大きくなればなるほど難しくなっていく上級魔法だ。

 

そんな時の魔法だが、無意識下で使ってしまうことがある。この中にも見たことある人もいるかもしれないが、無意識下である夢の中で未来予知を見てしまうことを予知夢という。別名、時の精霊の気まぐれだ。」


海斗

「普通の夢と、予知夢って違いわかるんですか?」


時雨

「魔力を消費しているからわかる。はずなんだが、無意識下の場合は気付けない時もあるようだ。みた未来を変えるのは───」


 

――寝ている桜の頭を軽く叩く音


「いてっ」


時雨

「桜、珍しいな。君が授業中に夢の世界へ行くなんて」


「ご、ごめんなさい!!」


時雨

「私の授業は退屈かな」


「あ、ちがいます⋯すみません⋯」


時雨

「君は時の魔法が得意だと聞いた。前に出て、時の魔法でこの植物の種の時間を進めて花を咲かせて見せてくれ。もちろん、他のモノの時が動くことのないようにな」


「はい」


 

――桜、席を立ち教壇にある種に手をかざす


「時の精霊よ、時の歯車を加速させよ。“クロノマギア”」


 

――種から芽が出て花が咲く


時雨

「お見事。席に戻りたまえ」


「はい」


時雨

「だが、授業は寝ないように。終わったら私の研究室に来なさい」


「すみません⋯」


時雨

「この高難易度の時の魔法のおかげで、ここ数十年魔獣が出ていない」


「魔獣って、おとぎ話じゃないんですか?」


時雨

「いや、君たちが生まれる少し前まではいたよ。突然現れる魔獣にいろんな街が襲われた。現在は、魔獣が発生する根源を時の魔法で止めているおかげで、魔獣が出現しないんだ」


海斗

「その魔法はいつまで効くんですか」


時雨

「いつまでだろうね。一生かもしれないし、今解けるかもしれない。もちろん、解けないように結界をはっているし、監視もしてる。でも、魔法も絶対じゃない。」


「じゃあ、もし今魔法が解けたら」


時雨

「魔獣を随時対処していくか、根源を探し出してどうにかするしかないね。」


「また時の魔法で魔獣の出現を止めることはできないんですか?」


時雨

「その魔法は最上級魔法で、使える人は一握りなんだ。知っているとは思うが、最上級魔法は封印された魔法の書を解いて、魔法を理解し、精霊に認められないといけない。だから、我々は魔獣を止めている最上級魔法が解けないことを祈りながらも、最悪の事態を想定して日々魔法を学んでいく必要がある」


 

――学校のチャイムの音


時雨

「では本日はこれまでだ。お疲れ」


 

――授業が終わり、桜の元に海斗がやってくる。


海斗

「やらかしたな、桜」


「やっちゃった⋯。前に出て魔法使うはめになったし」


海斗

「俺ら的には桜の時の魔法見れてよかったよ」


「えぇ?」


「桜は夢の中に行ってたから知らないだろうけど、他の奴らも何人か挑戦して失敗してたんだよ」


「⋯知らなかった」


「寝てたんだからそれはね」


海斗

「俺もやってみたけど、時の魔法はやっぱり難しいんだなぁって思った。昔から時の魔法が得意な桜ってやっぱりすごいな」


「ありがとう。コツ掴むまでが大変だけど、色んな魔法が使えるのは楽しいからね」


海斗

「頑張るかー、また練習付き合えよ」


「もちろん!」


海斗

「時の魔法と言えば、授業のはじめにも先生が話してたけど二人とも予知夢ってみたことあるか?」


「⋯予知夢?俺は時の魔法は全然使えないから見た事ないな」


「なに、どうしたの?」


海斗

「予知夢って、魔力消費するからわかるって先生言ってただろ?この間みた夢が予知夢っぽかったんだけど、魔力消費した感じは分からなかったんだよなぁ」


「じゃあ、ただの夢だったんじゃない?」


海斗

「そうだよなぁ。あまりにも鮮明で起きてからもずっと覚えてるからさぁ、これが予知夢か!?って思ったんだけど、違うか」


「魔力消費したのが分かんなかったとか?」


海斗

「俺もそう思って、予知夢見た事あったらどんな感覚だったか聞こうと思って」


「なるほどね。どんな夢だったの?」


海斗

「んー⋯死ぬ夢」


「えっ⋯⋯」


海斗

「ま、多分ただの夢だから大丈夫だろうけど」


「ねぇ、海斗それって」


「あ、桜。そういえば時雨先生が研究室に来いっていってなかった?」


「そうだった⋯。ありがとう」


海斗

「優秀な桜もとうとう授業中の居眠りで呼び出しかぁ」


「怒られてくる」


「潔良いね、いってらっしゃい」


海斗

「いってらー」


 

――ー少しの間、時雨先生の研究室。


 

――扉ノック


「失礼します」


時雨

「来たね」


「授業中すみませんでした」


時雨

「あぁ、気をつけて。君がうたた寝してたのが気になったんだが、何かあったのか?」


「⋯死の運命をみたんです」


時雨

「死の運命⋯未来予知で誰かが命を落としたのか⋯。その未来はどうやってみたんだ?」


「予知夢でみました」


時雨

「⋯なるほど。」


「いつも原因がわからないんです。どうして死んでしまうのか曖昧で、真実を知りたくて何度か夢に潜ってたら⋯」


時雨

「寝不足になった」


「⋯はい」


時雨

「予知でみた未来を変えるためには代償が必要で、その代償は変えた未来によって変わってくる。記憶、魔力、感情、命⋯何になるかはわからない。死の運命を変えるとなるならば代償はかなり重いからね。時の精霊は人間を守るために、運命が変わらないように原因を分からないようにしていると聞く」


「そんな⋯原因がわからないんじゃ、どうしたら⋯」


時雨

「桜。辛いだろうが、かえられないんだ。」


「嫌です!諦めたくないです。大切な人が死ぬとわかっていて何もしないなんて⋯」


時雨

「ダメだ。変えようとするなら、私が君を止める」


「大切な人を失う未来を見て、何もせずにいられません!」


時雨

「気持ちは分かる。」


「わかるなら、助けてください!」


時雨

「それはできない」


「なんで!」


時雨

「⋯仕方がない。これが、死の運命を変えようとした魔法使いの末路だ」


 

――先生が眼帯を外すと、左眼に刻印が出現。


「それは⋯」


時雨

「私は時の精霊に見放され、時の魔法はもう使えない。命や魔力は失われなかったが、専門分野の魔法が使えなくなった。教える立場でありながら、私は時の魔法が使えない間抜けな教師になった。大事な生徒が何を失うか分からないのに、止めないわけが無いだろう」


 

――先生との話を終えて、廊下を歩く桜。


「⋯運命は変えてはいけない、か」


海斗

「桜、終わったのか?」


「海斗⋯⋯」


海斗

「かなり怒られた?」


「ううん、先生が心配してくれて話を聞いてくれたの」


海斗

「そっか。それならよかったな」


「うん。⋯ねぇ、海斗はどんな夢みたの?」


海斗

「予知夢かわからない夢の話か?」


「うん」


海斗

「えっとー、至る所から魔獣が出てきて世界中の人々を襲う夢だった」


「え、魔獣⋯?」


海斗

「そうだよ。ま、先生もここ数十年出てないって言ってたし、多分ただの夢だったんだと思うけど」


「⋯魔獣、もしかして、あのナニカが?!⋯ごめん!調べ物しに図書館行ってくる」


海斗

「桜!?」


 

――図書館


「予知夢じゃなくて、予知魔法ならもう少し見れるはず⋯何でもっと早く気づけなかったんだろう。時の精霊よ、運命の糸を今一瞬だけほどいて“クロノスコープ”」


 

――桜の頭の中に未来の様子が映像として流れる


「見えた⋯。魔獣が、襲ってくる⋯。私が今まで認識できなかったナニカは魔獣だったんだ⋯。ということは、時の魔法が解けて魔獣が現れてしまうし、死の運命にあるのは海斗だけじゃない。それに、海斗もこの未来を予知夢でみてたし、思ったより近い未来なのかもしれない⋯⋯。私、どうしたら⋯。」


思考がまとまらない。自分が何をしたらいいのか、わからない。ふと目線を横にやると一冊の本が光っていた。手に取って中を見ても何も書いていなかったが、本から微かな魔力を感じ取ることができた。


「いや、ちがう⋯書いてあったものが全部消えてるんだ。時の精霊よ、かつて刻まれし言葉よ、忘却の闇より還れ。“リヴェラ”」


 

――消えていた文字と絵が現れる


「これは⋯」


 

――地鳴り


「なに、いまの⋯⋯」


魔法省(蓮兼ね役)

「緊急警報、緊急警報。魔獣が出現しました。直ちに身の安全の確保をしてください。繰り返します。魔獣が出現しました。」


「そんな⋯」


蓮N

この日、世界の魔力バランスが崩れ、おとぎ話のような存在になっていた魔獣が各所にあらわれて、クロノディアを襲いはじめた。街中から悲鳴が聞こえ、魔獣に怯える日々を過ごすことになった。

 

ここ数日で分かったのは、この都市の中央にある時計が魔獣を封印している魔法具だったということ。そして、魔法の効力が切れその魔獣の力を封じていた時計が動き出してしまったため、魔獣が現れてしまったらしい。


「蓮くん、そっちにいったよ!」


「任せろ!⋯炎の精霊よ、我が鼓動に応えよ。一瞬を焦がし、未来を裂け――“カルド・ヴェルティガ”!」


 

――魔獣の呻き声


海斗

「水の精霊よ、滴り落ちし命の刃となり連なりて疾れ――“アクエリア・ディルヴィナ”!」


「はぁっ⋯はぁっ⋯減らないな⋯!?」


「魔獣が色んなところから現れてキリがない。このままだと皆の魔力がなくなっちゃう⋯」


「海斗!!危ない!!」


海斗

「ちっ!!」


「時の精霊よ、沈黙せよ。万の鼓動よ、眠りにつけ。世界よ、時の檻に閉ざされよ。“クロノ・ノア”」


 

――魔法で魔獣の時だけ止まる。


海斗

「とまった⋯」


「海斗、大丈夫?」


海斗

「あぁ⋯。桜が時をとめてくれたから大丈夫だ。でも、この魔法ってかなり魔力を消費するんじゃ⋯」


「すぐ、終わらせる」


海斗

「桜⋯?」


「何するつもりだ⋯」


「私がまた魔獣を封印する。」


海斗

「それって⋯」


 

――桜が光に包まれる


海斗

「桜!!やめろ!!」


「っくそ! 間に合わない!」


「時の精霊よ!時の歯車を響かせろ。刻を束ね、力を貸せ。“クロノリウム”!!」


 

――桜以外の時が止まり、時の精霊が現れる


時の精霊(蓮兼ね役)

『⋯何故、我を呼び出した』


「運命を変えに来ました」


時の精霊(蓮兼ね役)

『⋯運命を変えることは、世界の理に抗うことと同等だ。分かっているのか』


「もちろんです。」


時の精霊(蓮兼ね役)

『彼は⋯彼らは、望んでいなかったようだが?』


「はい。だから、これは全部私のわがままです。みんなが生きる未来を手に入れるために力を貸してください⋯!!」


時の精霊(蓮兼ね役)

『あの書物を読めたのか⋯。いいだろう。我の力を存分に使いたまえ』


「感謝します。⋯時の精霊よ、私に力を。響け、終焉の鐘。嘆け、欺かれし時よ。その歩みを止め、すべてを還元せよ、原初の静寂へ——“クロノス・レクイエム”。」


時の精霊(蓮兼ね役)

『良い唱だ。』


 

――世界が光に包まれ、魔獣が一掃された。再び時が動く。


海斗

「時が動き出した。魔獣は!?」


「⋯⋯魔獣がいない」


 

――桜が倒れる


海斗

「桜!!桜!?」


「⋯⋯海斗は?みんなは?」


「みんな無事だ」


「よかった⋯生きてて、よかっ、た⋯⋯」


「桜っ!!」


 

――桜が気を失う


海斗

「桜!おきろ!!桜!!」


時雨

「間に合わなかったか⋯」


海斗

「先生、桜が目を覚まさないんだ。最上級魔法をつかって⋯」


「止められなかった⋯」


時雨

「桜の魔力がゼロに等しい」


海斗

「それって⋯」


時雨

「桜は最上級魔法を使って、封印が解けて魔獣が出現する前までこの世界の時間を戻した。同時に封印の時計に再び時の魔法をかけて封印した。つまり、世界の運命を大きく変えてしまったんだ」


「もしかして、運命を変えた代償が桜の魔力⋯?」


時雨

「そうだ。そして、魔力を失うのは、我々にとって死と等しい」


海斗

「なぁ、桜⋯⋯桜だけ犠牲になる世界なら俺たちは望んでないって」


「⋯⋯」


時雨

「桜を救いたいか」


海斗

「方法はあるんですか!?」


「でも、ゼロになった魔力を戻す魔法なんて⋯」


時雨

「いや⋯まだ、まだ彼女の命の火は消えていない。─海斗。君は彼女より先に、みえたんだろう?死の運命を」


海斗

「⋯はい。みました」


時雨

「上級魔法の中に、対象の一人の時間を戻せる魔法がある」


「⋯そうか!海斗、お前なら時の魔法を使って、桜を魔法を使う前の状態にできるかもしれない」


海斗

「それなら時雨先生の方がいいんじゃ」


時雨

「すまない。私は時の精霊に力を借りることが出来ないから、時の魔法が使えないんだ」


「お前しか出来ないんだよ!!悔しいけど、俺には時の魔法の才能がない⋯。頼む、桜を救ってくれ⋯」


海斗

「俺には桜みたいに魔力量も、技術も⋯」


「お前は桜を助けたくないのかよ!」


海斗

「っ!⋯弱気になった。蓮、悪い⋯。先生、やります。次は俺が桜を助けます」


時雨

「彼女を止められなかったのは、私も責任がある。手伝おう。そうすれば代償も分散されるはずだ」


海斗

「ありがとうございます。桜を救える魔法を教えてください」


「俺の魔力も渡す。⋯頼んだ」


海斗

「あぁ、ありがとう」


海斗

「時の精霊よ、時の彼方より、ひとすじの糸をたぐる。奪われし時を返せ、運命の理を越えて——願わくば、この手が届くうちに⋯⋯“クロノス・レヴェナ”。」


 

――桜、数秒間魔法の光に包まれる


時の精霊(蓮兼ね役)

『特別だ。代償は私が払おう』


 

――時の精霊の声は誰にも聞こえていない


海斗

「頼む、桜⋯目を覚ましてくれ」


「⋯っ」


海斗

「桜⋯」


「ん⋯あれ、私⋯」


海斗

「何やってんだ。馬鹿」


「馬鹿って⋯」


海斗

「みんなを救うために自分の命をかけようとした馬鹿だ」


「そんな馬鹿馬鹿言わなくても⋯」


時雨

「これ以上私を不甲斐ない教師にしないでくれ」


「生きてて、良かった」


「海斗、蓮くん、先生⋯ごめんなさい。助けてくれてありがとうございます」


時雨

「海斗が君を助けたんだ」


「海斗、ありがとう。⋯海斗の魔法、あったかいね」


海斗

「⋯馬鹿」


「うん。ごめんね⋯」


海斗

「ー桜⋯おかえり」


「ただいま!!」


桜N

ここは魔法都市、クロノディア。この世界の住人は自分の魔力と、精霊たちの協力によって魔法を使うことが出来る。

 

魔法がなければ暮らしていくことは難しく、魔力がなければ呼吸することさえできないと言われている魔法の世界。そんな世界で起きた奇跡の物語─。

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